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第一章 出会い
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しおりを挟む「凛くん凛くん、もう普通に喋ったらええやん」
「そうだよ、凛くんと静流の会話聞いてても思ってたけど、あの口調が普通なんでしょ?」
いや、向井さん絶対勘違いしてるでしょ。俺あそこまで普段は酷くないんだが。
「じゃあ俺もタメでいい~? 敬語って面倒」
「俺は無理だ。このままで良いですか!!」
俺の口調についての話だろうに、シズは便乗するなよ。圭人は……うん、そのままの方がいいと思うぞ。
「凛、もう普通にしたらいい。その方が思った事も喋りやすいだろ。静流は勝手にしろ」
確かにトシさんの言う通り、普通に喋ったらポロッと出ちゃうんだろうけど。
「分かっ……た。でも一つだけ言うと、俺普段はあんなに酷い言葉使いじゃない」
「だよな。つうかあんなガチギレしたの、俺の前以外では初めてなんじゃないか? 相変わらず父さんそっくり」
「だよなあ……って、なんで陣がここにいるんだよ!! というか父さんにそっくりはやめてくれ!!」
「なになに? 凛はパパとそっくりだよね??」
あー、もうヤダ。なんで父さんまでここに居るんだよ。しかもみんなが居る前でパパ呼びはやめてくれ。
「父さんも凛の試合見たいって言うから、俺も車に乗せてきてもらったんだよ。因みに俺等も勝ったから、インハイ行けるし、明日は火獅子とだ」
「おめでとう!! 父さんなんかボコボコにしてこいよ!!」
「凛~。パパそれは悲しいよ~。まあ、それより柏木ぃ~、お前なぁに隠れてんだあ? 凛が世話になってっから、挨拶してやろうと思ったのによお」
「ひっ……り、隆二先輩。こ、これは隠れてた訳ではなく……」
隆二先輩? 隆二って事は父さんの事か? まさか先輩後輩だったのか。
そうしてデジャヴのように、父さんによって先生は連れていかれて、俺達は全員置いてけぼりをくらった。
「凛くんのパパさん、前に会うた時より、ガラ悪なっとらん?」
「そういえば、ゼルさんは父さんに会ったことありま……あったね。あれが通常で、俺に対してだけおかしいんだよ」
「ぶふっ……凛くんが頑張ってくれとる。かわえぇなあ」
だってそうしろって言ったんじゃないか!! 可愛い言うな!!
「確かに凛くんのあの怒り方は、父親似だね。それより、今のうちにクールダウンに行こう。多分明日に向けてすぐに学校に帰るだろうし」
向井さんについて行くようにして、俺達は外へと向かい、陣も何故か付いてきた。
「陣は何しに来るんだ?」
「凛の監視。お前ブチギレた後っていつも熱出て倒れるじゃん。よく1セットもったよなあ」
「はあ!? ちょお待ち!! 今のホンマかいな!! 凛くん、熱は大丈夫なん!? ちょ、向井!! 凛くん倒れてまうかもしれん」
ゼルさん大袈裟すぎだろ。陣も混乱させるような事言うなよ。
「凛、お前まさか気づいてなかったのか? いつも言い合ってる最中に、ぶっ倒れてんの」
「はあ!? あれは風邪だろ。俺は子供か!!」
その瞬間、突然目の前が揺らぎ、向かい合ってた陣が、慌てて手を伸ばしているのが見えたところで、俺の意識はプツリと切れた。
ーーーーーーーーー
(凛が倒れた後のゼル視点)
凛くんの後ろ姿がフラついたんが見えた。慌てて支えようと手を伸ばせば、俺の腕ん中にそのまま倒れてきた。
「凄い熱や。陣って言うたか? 凛くん大丈夫なん!?」
凛くんの双子の兄貴の陣は、おでこに手をやる。
家族でも他の男が、凛くんに触れるん見るのは、ええ気分せんな。
「凛くんが……ちょっと俺監督呼んでくるよ」
「向井、お前ちょっと落ち着け。俺もついて行く」
いつも冷静な向井が、こんな顔真っ青にしとんのは初めてやな。トシ、そっちは頼むで。
「凛、なんで」
「おい、静流! お前凛に近寄るな!! ゼルさん、凛を静流が見えないところに連れてって下さい」
静流は何するか分からん。圭人の言う通りどっかに連れてった方がええか。
「陣、凛くん運ぶからついてきぃ。一年は圭人と一緒にここ居ってや。向井達が来たら、中に居るって言っといて」
『は、はい』
あんな、ちゃらんぽらんな一年どもでも、ちぃとは動揺しとるか。
「陣、この状態の凛くんは、流石に明日は間に合わんよな」
「そうですね。いつもならその日のうちに、熱が引いてるんですけど、今日はあの運動量で汗もかいてるし、明日は確実に無理だと思います」
そうか。凛くんも鹿島も、決勝で戦うん楽しみにしとったのになあ……
「おい、ゼル。凛に何があった?」
噂をすれば、鹿島かいな。はよ家に帰してやりたいのになあ。
「見れば分かるやろ。倒れたんや。俺が怒らせて、追い詰めてしもうたんや」
「それは違う。ただ自分が抱えてたのが爆発したタイミングが、あそこだっただけです。早く分かって良かったじゃないですか。凛は今日の事で、気が楽になったと思いますよ。それにこいつ元々敬語とか苦手だし」
そう言って陣は、凛くんの鼻を摘んで、少し遊んでる。
せやけど、きっかけは俺や。もっとはよ気づいてやっとったら……
「それに凛は、あなたに気を許してると思います。だからあの時怒れたんですよ。いつもなら爆発出来るところがなくて、俺に全部ぶつけてくるんですよ。ほんと迷惑な奴なんですけど、あなたとあともう一人の、お兄さんには、凛の面倒見てもらわないと、俺が困ります」
そうなんか? 確かに陣以外に、キレた事ない言うとったけど……ちゅうか、こいつ俺と兄貴が凛くん好きなん知っとったんかいな。
「はぁ……保護者が来たぞ。それと凛に言っといてくれ、春高予選で待ってるってなー。その代わり、写真は撮らせてもらうわ」
鹿島はヒラヒラと手を振り、向井達が来た方向と逆の方向へいなくなった。
「陣、凛の様子は?」
「んー、汗もかいてるし、明日は無理じゃない?」
「そうか、なら凛連れて帰るぞー。だから言っただろ? 柏木、明日凛は出れないってな」
「はぁ……まじか。分かりました。こっちも凛に任せきりでしたし、ゆっくり休ませてください」
陣は俺から凛くんを受け取ろうとするが、何故か凛くんが俺から離れなかった。
「凛くん、手ぇ……かわ……いやいや、陣はよ離してや!! 俺はこんな可愛い手ぇ、自分から離せん!!」
俺のシャツを掴んで離さない凛くんの手は、凛くんのパパさんによって無理矢理離されてしまった。
「そんじゃ、明日頑張れよ~」
そう言って凛くん達三人は帰ってしまい、残された俺達の間には重い空気が漂っていた。
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