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第三章 大事な繋がり
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しおりを挟むあの後、帰りの車で爆睡してしまった俺は、朝起きるとベッドの上で二人に抱きつかれていた……まではいいが……
ナニコレ。俺全然覚えてないんだけど。
「凛くん、起きたんか??」
「うん。おはよう、ゼン」
「おはようさん。今日俺試合やから、一緒居れんけど、ゼルと家で大人しくしとってな」
俺はゼンに撫でられて、ゼルの方を見ると、ゼルは俺の腰に抱きついたまま寝ていた。
「ゼン、俺が寝てる間になんかあったの??」
「ん?? なんもないで。どうかしたん??」
「いや……なんで俺の足首、鎖で繋がれてるのかなって」
朝起きてコレは、流石の俺でも気になる。またなんか不安にでもなったのか??
「今日部活やろ?? 凛くん、体調良かったら行ってまうやんか。凛くんの誕生日に俺とゼル以外から、祝われるんは嫌よなあって喋っとったんや」
いや……俺の誕生日なんか、家族しか知らないと思うんだけど。そもそもなんで嫌なんだ??
「凛、おはよう」
ゼルは眠そうに起きて、俺にのしかかってくる。
「ゼル、重い」
俺は頑張ってゼルから抜け出そうとすると、足がガシャンと引っかかる。
「凛のソレ俺と繋がっとるから、逃げられんよ??」
「逃げないよ。というか、俺の誕生日なんて家族しか知らないし、二人が居ないと俺外に出れないんだから、こんな事しなくても、ゼルが家から出ない限り、どこにも行けない」
溜息を吐きながら説明すれば、二人はポカンとした表情で固まった後に、俺の鎖を外して抱きついてきた。
「ごめん!! 凛くんは、俺等の為に帰ってきてくれた思ったら、その誕生日を他人に祝われるんが、嫌んなってもうて……」
「凛、ごめんな。足首痛ない??」
そういう事か。間違いではないけど、寝てる間に鎖は……まあ、いいか。ゼンとゼルが、こういうとこあるのは知ってたし、これでも押さえてくれてるんだろうから。
「いいよ。でも、母さんと父さんと陣からは、連絡来ると思うから、それは許して」
「それは勿論や!! あの人達居らんかったら、凛くん生まれとらんし」
「凛の家族と俺等の親ならええよ」
ゼンが母さんに逆らわないのって、そういう事だったのか。やたら言う事聞くなとは思ってたけど。
その後俺とゼルは、ゼンの試合をテレビで観戦したり、ゼルからイタリア語を教えてもらって過ごしていた。
「お、兄貴がインタビュー受けとるわ。珍しいな」
俺はテレビに目を向けると、ゼンが作り笑いでテレビに映っていた。
「ヴァルシア選手、今日は一段と調子が良かったように見受けられましたが、何かキッカケなどがあったんでしょうか」
「……」
え……なんで喋んないんだ。
「あー、遠回しな質問やなあ。これ答える気ないで」
「遠回しって??」
「これ今ネットでトレンドに上がっとるんやけど、兄貴のネックレスについとる指輪で、結婚だのなんだの騒がれとるんや」
そう言ってゼルが見せてきたのは、今観てる人達のつぶやきで、結婚や恋人が居てショックを受けているというより、ゼンの相手が気になってるようだった。
「ゼンって嫌われてるの??」
「ブハッ……別に嫌われとる訳やないよ。寧ろ結構隠れファンは居るんやで?? けどな、それ以前に怖いらしいわ。今もこうして、普通はやらん事、平気でしとるやん?? そうゆうとことか、あとは本能的に死神とは、関わりたくない思うんやろな」
「ふーん、ゼンは優しいのに……」
「そんなん言うんは、凛だけやな。それに、凛もさっきから喜んどるやろ?? ホッとしとるっちゅうか」
うぐっ……なんでバレるんだ……尻尾か!!
「ゼル、尻尾視ないで!!」
「バレたか」
「今トレンドで上がってきたんですが、ヴァルシア選手の指輪に関して、ここ最近の調子の良さと何か関係がおありなんでしょうか??」
「事情聴取でもされとる気分やなあ……」
ゼンの顔が一瞬スッと真顔になり、また作り笑いに戻る。
「許可もろとるし、隠しとらんから言いますけど、可愛い恋人は居りますよ。佐良監督の息子、噂の写真の子とお付き合いさせてもらってるんですけど……ちょっかいは出さんでや。あたたかく見守ってくれたら嬉しいです。凛くん、愛しとるで!!」
最後は俺に向けて、作り笑いではなく、最高の笑顔で言ってくれた。
「兄貴ばっかずるいわ。俺も凛の恋人宣言したい!!」
「でも、言っちゃって良かったの?? 母さんが許可出したんだとは思うけど」
「大丈夫やで。これ見てみ」
俺はゼルのスマホを見ると、やたらテンションの高いつぶやきが多く、俺に早くVリーグ参加や、春高に関する事など書かれていた。
「これ、全部オカンと同じ人達なんやろうな。もはやなんのこっちゃ分からん言語書かれとるけど。兄貴はこれ狙って、俺等の三人のファンサは、イチャイチャする事にしたんやないか??」
イチャイチャ……俺は何をさせられるんだ。
その後少しすると、俺の時計が振動し、スマホを見るとゼンから連絡が来ていた。
「これから帰るから、一緒に母さん連れてくるって」
「俺の方には、セッ○スすんなよってきとるわ。おかしいやろ!! 兄貴やないんやから、そんなしょっちゅう襲っとらんわ」
その連絡から2時間程待っていると、ゼンが母さんを連れて帰ってきた。
「ただいま~、凛くん!! ちゃんと見とった??」
「おかえり、ゼン。見てたけど、あれで良かったの??」
「凛、誕生日おめでとう。あれは母さんからの、誕生日プレゼントよ。それともう一つ、もう結構前にゼルには伝えたけど、凛の誕生日にスカウトしようかと思ってね。うちのコーチが焦ってたのよ。柏木のところに、凛やゼルのスカウトの連絡が、かなり多いみたいでね」
母さんは中に入ってくるなり、大事な事をサラッと言ってきた。
「え……でも俺まだ18だけど」
「最年少で入団したのは、確か愁が16の時だったかしら。そこからいろんなチームを転々として、今はファルコンで落ち着いたのよ。凛はもっと遅くにスカウトしても良かったんだけど、思った以上にゼルの成長速度が異常だったのと、うちのコーチとジュリがうるさくて、まとめて二人を4月から入団、内定してれば1月から一応シーズンにも参加出来るわ」
俺には断る理由はないけど……今の俺でいいのかな。
暫く考えていると、痺れを切らしたゼルが、俺に話しかけてきた。
「凛、なんか気になる事あるんか??」
「いや……俺この間の決勝で倒れちゃったし、今の俺が入ってもいいのかなって」
「はぁ……ほんとあなた変なところ気にするわね。まあ、そこを気にするのはいい事だけど、愁のビデオを見せてもらった限り、今までで一番いい動きだったわよ。逆によく最後まで持ったと思うわ。あの試合の後、愁が珍しく本気で、凛を入団させるように頼み込んできたのよ」
なんでそんなに……俺はあの試合、今までで一番必死だったんだ。だから……だからこそ自信がない。
「……佐良さん、凛くんに説明しとくんで、後で連絡してもええですか??」
「分かったわ。凛、自分のプレーでも観てみるといいわ。それじゃ、いい返事待ってるから。ゼン、ゼル、凛をお願いね」
母さんは俺の頭を、ぐしゃぐしゃに撫でてから帰っていき、ゼンはソファに座って俺を膝に乗せた。
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