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第三章 大事な繋がり

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 そして土曜日、今日はファルコンの試合がないため、俺とゼルはファルコンの練習に参加し、挨拶を済ませた後、普通にメニューをこなしていくが、俺だけはそこにプラスで休憩毎に、いろいろな音楽を聞かされて、瞑想させられる。それを繰り返してお昼休憩になり、母さんに呼ばれた。


「凛、どの音楽が良かった??」


「母さん、俺が音楽聞かないの分かるじゃん。これって何やらされてるの??」


「集中力を試合終盤に合わせて、高める為の訓練ってとこかしら」


 ルーティンを作るって事か。でも俺ってそんなに集中力ないかな??


「凛くん、高校では凛くんが頭を使うよね?? でもここでは俺が試合を組み立てるから、凛くんにばっかり負担はかけない。これから凛くんには、あの試合くらい集中力を高めてもらって、敵スパイカーと仲間の動きに集中して欲しい」


 近くに居た愁さんが、俺の目を見て真剣な表情で言ってくる。


 ここでは、俺ばっかりが動かなくてもいいって……どういう試合運びをするかまで、考えなくていいって事か。その代わり、集中力を切らすなって事なのかな。


「凛くん、あの試合ん時、普通やったらあそこまで、無理な試合はせんかったやろ?? それで気にしてもうたんやから、そこまで考える必要はないんやでって事や。それは佐良さんや、コーチ、それとセッターの愁が、様子見ながら組み立てるから言うとるんや。要は制御したるから、もっと自分の事に集中してええでって事やな」


「凛はいつも、俺等の様子見ながら作戦立てとるからな、凛にも思いっきりやってもらいたいやんか。せやから俺から、試合中の凛の様子を説明したんや。まあ正直、凛が居らんかったら、あのチームで制御する奴居らんし、その結果があの試合やな」


 俺今までも思いっきりやってた……あれ?? やってたっけ?? いつもいろいろ考えてやってたし、勝ってはきたけど……


「俺手抜きしちゃってた??」


『ブハッ』


「はぁ……バカ!! 凛は本当に変な方に考えるんだから。別に全力が出せなくても、手抜きではないでしょ?? あなたが誰よりも、敵に対して真剣だったのは、みんな分かってるわよ。ただ全力で戦える環境と、相手じゃなかったってだけ」


 母さんに軽く頭を叩かれて、三人には笑われてしまったが、何故そんなに笑われているのかが分からず、少しムッとすると、ゼンとゼルに頭をポンポンされる。


「凛くん、あの試合中すごく楽しそうだった。でもそれ以上に、環境が見合ってないとも思った。だから、佐良さんに頼んだんだよ。ゼンとのあの対人……ワンマンかな?? ゼンから自慢気に見せられたけど、あの時は凛くんの表情がちゃんと出てて、全力で遊んでるんだなって分かるし、だからこそワンマンが好きなのかなって悲しくもなった。だから試合でも楽しんで欲しいっていうのが、ファルコンに居る全員の考え」


 俺はみんなの顔を見た後、たまらずゼンに抱きつくと、母さんに引き離されて、さっさと集中出来そうな音楽を選べと言われた。


「俺、ぬいぐるみがあれば、多分潜れる」


「凛くん、潜るんは禁止な。それの一歩手前やな。あんなんキープできんから倒れたんやし」


 んー、それだと難しいな。時間がかかりそう。


「凛、すぐ出来んくて当然なんやから、一番良さそうなルーティン作ったらええんちゃう?? ぬいぐるみと、あと何あったらええんや??」


 何……それならやっぱり。


「無音がいい。音楽が逆に集中できなくなる」


「それな防音用のイヤーマフかしら。買っておく……」


『俺が買います!!』


 母さんの言葉に被せるようにして、ゼンとゼルが身を乗り出す。


「……好きにしなさい」


 俺の鍵付きにも普通にしていた母さんが、流石にこの勢いで食い気味でこられるとは、思っていなかったのか、少し引き気味に二人を見た後、俺の肩に手を置いて「頑張りなさい」と一言だけ残して、食堂へ行ってしまった。


 俺は何を頑張るんだ?? 二人の相手?? それともバレーの事か??


 その後俺達も一度着替えてから、お昼ご飯を食べようと食堂へ向かった。


「あれ……なんか増えてる??」


「気づいたか?? 凛くんが食べれるように、少量バージョンとサンドイッチの種類増やしてもろたんや。佐良さんにも俺の以外やと、食べるんゆっくりなんやって伝えてあるし、ほんまにちょこっとしか入っとらんから、食べれそうやったら少しずつ頼んだらええよ」


「そこまでしてもらって……ありがとう」


 なんでそこまでするのか、聞こうと思ったが、折角やってもらったのだから甘えようと、素直にお礼を言うと、ゼンは嬉しそうにしていた。


 そして午後練の時、母さんに呼ばれた俺とゼルは、ファルコンのコーチを紹介された。


「この遅れて来た奴が、一応コーチの神谷かみや隆一りゅういち、リュカの父親よ。基本は大阪に居るんだけど、シーズン中はこっちに来てもらってるわ」


 リュカさんの父親……あんまり似てない?? リュカさんは母親に似てるのか??


「お~!! ゼルは大きくなったな!! 凛も大きくなって、覚えてるか?? 陣は元気なのか??」


 そう言ってわしゃわしゃと豪快に撫でてくる姿は、大人しめのリュカさんとは真逆で、綺麗な顔をしているのにギャップが凄くて、父さんを見ているような感覚だった。


 この人、なんで俺と陣を知ってるんだ??


「凛が覚えてるわけないでしょ!! あの時何歳だと思ってるのよ。ゼロよゼロ!!」


「……まさか凛の親戚か??」


「そうなるわね。隆二の兄、凛と陣からしたら叔父になるのかしら。凛、この叔父は居ない者だと思ってくれていいわ。リュカも従兄弟だけど、今まで通りでいいし、リュカからも凛と陣には伝えなくていいって言われてたのよ。この父親を会わせたくなかったみたいね。こいつ浮気性だから」


 まさかの親戚登場に俺は驚いた。今まで祖父母の事ですら、俺と陣には知らされてないうえ、お盆でも何かしてる素振りすらなかったからだ。それなのに、いきなり親戚ができたら、誰だって驚く。


「凛……黙ってて、ごめん」


 振り向くと、少し不機嫌なゼンに連れられてきたリュカさんが、俺のところへ来て頭を下げてきた。


「いや、リュカさんのせいじゃないですし、謝らないで下さい」


「そうよ、寧ろ謝るならコイツ。あんたのせいで、リュカに会わせてあげれなかったのよ!? 凛、大阪に行ったら、好きなだけリュカに会えるわ。二人にいじめられてたら、リュカの家に行くのよ??」


『あっ!!』


「ゼン……俺知らない。どういう事」


「お互い様やろ!! ここではアカンからあとで話すわ」


 家の事だよな。確かに、みんな聞き耳立ててるから、ここで喋ったら……多分みんな引っ越してきそうだもんな。


 それを察した母さんは、コーチを連れて行ってしまい、残された俺とゼルは取り敢えず練習に戻った。
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