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第三章 大事な繋がり
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しおりを挟むリビングへ行くと、陣と母さん、それから父さんも何故か居て、外からも声がする。
「凛!! 無事で良かっ……ぐぇ」
「隆二、抱き着こうとしない!!」
「凛、大丈夫だったか?? スマホ通じないって、ゼンさんもゼルさんも焦ってたんだぞ」
スマホ……忘れてた。
俺に抱き着こうとしてきた父さんが、母さんに首根っこを掴まれて、怒られているなか、陣は俺のところに来て頭を撫でてくる。
「ごめんなさい。忘れてた」
「大丈夫や。凛くんが無事ならそれでええよ」
「兄貴はカメラで見とったんやからええやん。俺なんか心配すぎて、陣に連絡しまくったわ……凛が無事で良かった……ちゅーわけやから、俺に凛抱っこさせて」
ゼルは俺をゼンから奪うと、ギュウギュウに抱きしめてきて、ソファに腰掛ける。だんだんと落ち着いてきた頃、外の騒がしさが無くなり、インターホンが鳴って身体がビクッと反応すると、ゼルはブランケットで俺を包み、ゼンと母さんが外に出て行った。
「陣……凛が可愛い。なんであんなに、うちの子可愛いんだ。あんなにブランケット好きだったか??」
「凛は熱出すと、毛布に包まってた気がするけど」
俺がブランケットの中に潜って、ゼルに抱きつくとゼルの心臓の音と、匂い、体温の暖かさで眠くなってくる。
「凛、寝たらアカンよ。すまんけど、もうちょい起きとってな」
「……分かった」
「それならパパと一緒に昔の遊びしようか??」
俺がブランケットから顔を出して、父さんの方を見ると、ボコボコした手のひらサイズのボールを持っていた。
あれ……俺が小さい頃から好きだったやつだ。
「……やる」
俺が父さんの方に行くと、ゼルは陣に話しかけた。
「なんでリアクションボールなんか持っとるんか、突っ込んでもええんかな」
「あれ常に持ち歩いてるんですよ。凛と遊ぶやつなら、他にもあのカバンに入ってるはずです」
このボール、どこに行くか読めないから、結構楽しいんだ。今どのくらい出来るんだろう。
「凛、いくぞー!!」
俺は父さんが持ってるボールに、一点集中すると、床に軽く打ち付けられたボールは、ゼルの居る方に向かって弾き、咄嗟にゼルの方へ飛びつくと、そのままゼルに抱き込まれた。
「危ないわ!! それここでやるん、絶対危ないやろ!! テーブル動かすから、陣手伝って!!」
俺は父さんにボールを渡し、広くなった部屋で少しの間遊んでいると、ドアを開けたままの状態で、母さんとゼンが入ってきた。外には警察の姿があり、すぐにゼルの後ろに行くと、ポカンとした表情のゼンと、父さんを見て溜息を吐いている母さん。
「隆二……まだ凛の遊び道具持ち歩いてるの??」
「ゼル、この状況なんなん?? 凛くん、隠れとらんで出ておいで」
母さんは、父さんのカバンの中から、俺と陣の昔の遊び道具……というより、動体視力や反射神経を鍛える道具をどんどん出していき、ゼンはゼルから話を聞き出すなり、カバンの中から出てくる道具の写真を撮っている。
「あのー!! すみません。そろそろいいでしょうか」
「忘れてたわ。凛、ちょっと来なさい。ゼンとゼルにくっついてていいから」
俺はゼルにそのままついた状態で玄関に行くと、俺が中学の時にお世話になった警察の人がいた。
「あ……お久しぶりです」
「覚えててくれたんですね。俺、狩野と言います。柏木さんの後輩なんですよ。凛くんには、あの人がいろいろ迷惑かけたようで、なんかすみません」
先生の……先生よりしっかりしてる。
「まじか……センセよりなんぼか先輩やんか」
「それ思っとっても、俺言わんかったのに」
俺も言わないで我慢したのに、さらっとゼルに言われちゃったな。
「俺もそう思います」
『いや、思うんかい!!』
先生なんか可哀想だな。後輩にもこんな扱いされてるのか。
「そんな事より、早く話すすめてちょうだい」
「あ、そうでした。凛くん……取り敢えず、これにサイン下さい」
『なんでやねん!!』
そう言って渡されたのは、色紙とサインペンで、ゼンとゼル、それと母さんの三人に叩かれている。
「いや、俺こう見えてファンクラブ入ってまして……すみません。凛くん、佐良さんとゼンさんにお話したんですが、もっとセキュリティレベルが高いマンションに住む事をお勧めします。警備員がついてるところが一番でしょうね。それと今回の輩について、詳しく聞きたいですか??」
俺が聞きたくないと、首を振るのを見た狩野さんは、俺に色紙とサインペンを押し付けながら、署に連行したとだけ教えてくれた。
「凛くん、警察もこう言うてるし、引っ越さんか?? あっちに行くまでの数ヶ月だけや。でもな、その数ヶ月でまた今日みたいな事あったらどうする??」
「でも、帰る場所が……俺の家ない。匂いなくなる」
「あー、匂いか……確かに凛は落ち着かんかもなあ」
「凛くん、大丈夫やで。それに寝室ならすぐ落ちつくんやないか?? ベッドも全部持っていくんやで?? セッ……」
「ちょっとあんた達、それ以上はやめなさい。目の前で鼻血出してる奴居るから。取り敢えず凛は、今回の事は聞きたくないのよね?? それならサインだけしてあげて、あとは中で話すわよ」
俺は鼻を押さえている狩野さんに、サインだけあげて中へ入って話をする事にした。
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