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第五章 もう一つの世界
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しおりを挟む結局ゼンとゼルのあの態度は、父様への警告だったらしく、許してはいないけど、次はないと思えと言いたかったらしい。その証拠に、俺の首と尻尾を視せて、自分達の大鎌も取り出した。
「(分かった。悪かったと思ってるよ。ルシィにも怒られたし、凛の馬鹿攻撃もかなり効いた。それにしても……縛りすぎなんじゃ……)」
父様、日本語分からないと思ってた。聞いちゃってたのか。
俺達は、取り敢えず家の中に入れると、庭を見て母さんと父様がかなり驚いていた。
「凛……動物園でも作るのかしら。まさか、そんなに動物に飢えてたなんて……」
「(これは、なんというか……凛は本当にルシィに似てる。ルシィも獣大好きだから……)」
庭を見ると、スイセンとカイとレイ、それからウサとルイ、顔だけ出してるフォンが居た。
「あれ……ルベロ?? スイセン、ルベロは??」
「ルベロは中に入っちゃった。誰か来たから、怖がらせたくないって」
「そんなん、家ではルベロが気ぃ遣う必要ないやんか」
「せやな。凛くんの配下でルシアンのペットなら、ルールさえ守れば自由にしてええのに」
俺は、空間の出入り口に向かってルベロを呼ぶと、恐る恐る出てきて、俺の手のひらに乗ってくる。
「(ルベロ……ルシィが探してたよ。こんなとこに居たのか)」
「あら、ルベロ!! 相変わらず可愛いわ。きっとジュリも喜ぶ筈よ。ルベロに会いたくて、カイとレイを飼い始めたんだから」
え!! そうだったの?? というか、父様は俺達が母様にルベロを頼まれた事、知らないのか?? そもそも、なんで地上に居るんだ?? まさか母様が不機嫌なのって……
「(レオ、ルシアンはもう知ってる。俺達にルベロの事を頼んだんだからな)」
「(まさかとは思うけど、天界に帰ってないとか言わないよな?? ルシアン……かなりイラついてたぞ。凛くんと陣くんは、いい子に育って良かったって言ってな)」
すると、父様はだんだん顔色が悪くなっていき、何故かつられるように、ルベロもコテンとひっくり返ってしまった。
「(やばい!! 帰らないと……じゃあ涼子、あとは頼んだよ。来年には完全に、愁と駿が居たという事実は、この世界から消えてなくなるから、今のうちに愁と駿が欲しい物とかは、あっちに持って行ってあげるといい。それじゃ!!)」
父様は、それだけ言って帰ってしまった。母さんは、そういう事だから、愁達の荷物を持って行ってあげてと俺達に言ってくる。こういう所を見ると、やはり神は残酷だと思ってしまう。ここで生きた証が消えてしまうというのは、とても辛い事だし、愁や駿が努力してきた事が、この世界に残らないのは悲しかった。
「凛くん、泣かんで。大丈夫や……愁と駿が居た証は必ず残る。そうやろ?? 佐良さん」
「そうね。私はあの子達を気に入ってたし、土星が存在する限り、愁と駿が居た記録は残るわ。だから誰かがきっと、それを物語にしてくれる。いつになるかは分からないけど、例えばそうね……今流行りの異世界ストーリーとして、すぐに出るかもしれないわよ。そしたら……本でもなんでも、持って行ってあげるといいわ。それに天界の住人は、愁と駿の事は忘れない」
「凛……泣いたらアカン。愁さんと駿さんは、今頑張っとるんやから、泣いたら失礼やろ?? 頑張っとる二人に出来る事は、手助けや。泣く事やない……けど、まあ……」
「凛くんは優しいからな。今だけは泣いてええよ。それにあの変態部屋は、なんとかせなアカンからな」
思いっきり泣こうとした途端、変態部屋の事を言われて、俺がスンッと泣き止むと、ゼンとゼルはニヤリと笑った。
「凛くん、どんな理由やろうと、凛くんが俺等以外に心揺さぶられるんは嫌なんや。知っとるやろ??」
「特に涙は嫌やな。せやけど俺等は、別に嘘言うた訳やないで」
知ってる。ゼンとゼルは騙す事はあっても、嘘は言わない。本当の事を言いつつ、騙す……というより、誘導するのが上手いんだ。でも、俺が本当に嫌がる事はしない。
「相変わらずね。それで、その変態部屋ってなんの事かしら」
「あー、それなら洸のメモ見てくれた方がええと思う……佐良さん、そんなにルベロが好きなんやったら、この写真いります??」
「ゼル!! それ俺にもはよ送れ!! 貴重な写真や」
「なになに……俺も欲しい!! ゼル兄さん、俺にも送ってほしい!!」
「天使だわ……ジュリと隆二とジョンにも送らないと」
んー、これじゃ話が進まないな。あ、陣に帰ってきた事……いや、知ってるのか。リュカも扉から離れてても、出入りは分かるみたいだし。それなら……明日は陣の試合、応援に行きたいな。いや、でも……愁達の私物の整理が先かな。
「そういえば、試合の事は聞いたかしら。来年までは、試合は無しよ。来月に行方不明だと、ニュースで知らせる筈だから、外に出るなら注意してちょうだい」
「それなら大丈夫や。俺等も呼ばれたらあっちに行かないけんし、思った以上に面倒な事になっとるんよな」
「ほんまにな。穢れだらけな気ぃするし、一番安心できるんが森やしな。時間の進みさえ一緒なら、毎晩帰ってきたいレベルやわ」
「母さん、来月って事は、今月まだ大丈夫?? 俺、応援に行きたいんだ。風狼の応援と……久しぶりに陣の応援に」
ダメだったのか、母さんは溜息を吐いて、俺の頭を撫でてきた。
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