290 / 361
第五章 もう一つの世界
41
しおりを挟む「あッ……愁、まって……んんぅ」
タイミング悪すぎるだろ。しかも凄い力で顔掴まれてるから、ゼルに殴られたところが少し痛い。
「愁……掴むなら肩にしろ。凛くんが痛がっとる」
「ッ……凛くん、どうしたのコレ。なんで湿布なんか貼ってるの。誰にやられた」
愁はゼンに頬の事を言われて、湿布に気づいたのか、急に雰囲気が変わり、愁の怒りが俺に伝わってくる。
愁が怒ってる。ここまで怒ってるのは、初めて見た。怖い……身体が動かない。ゼンにしがみつきたいのに、それもできない。
「俺や。なんか文句あるか?? 凛と番関係の俺等と、海しか繋がりがない愁さん、どっちが上か分かっとるやんな??」
「俺も凛くんの腹は殴った。愁、お前のその怒りはどこにぶつけるつもりや?? まさかとは思うけど、俺等にぶつけるつもりやないやんな??」
ゼルは俺を隠すように前に出て、ゼンは動けないでいる俺の頭を自分に押し付けて、安心させるように頭を撫でてくれる。
ゼンの匂い……落ち着く。二人は今決めようとしてるんだ。番の間でおこった事に、口を出さずにいられるか。踏み込んではいけない領域を、しっかり理解できているのか。暴走せずに自分の気持ちを抑えられるのか。もう治ってるのに、大袈裟に湿布を貼ったのはこの為か。
「ゼンとゼルが凛くんを……」
愁はお風呂から上がると、バスローブを着てから俺に近づいてきて、ゼンにしがみついている俺の頭を撫でてきた。あ、この優しい感じ……なんだろう。懐かしいような気がする。
「凛くん、怖がらせてごめん。ゼンとゼルがやったなら、俺がゼンを殴ろうとした時みたいに、凛くんが間にでも入ったんだろ?? はぁ……二人とも嫌な言い方をする。凛くんを殴るつもりで殴った訳でもないだろうに、どうせもう治したんでしょ。ゼン、俺の海を奪っておいて何が目的だ」
「こんな所で話す事でもないやろ。愁さんから話を聞きたいんや」
「俺等は知る権利がある筈や。教えてくれんか??」
「……凛くんが知りたいと思ってるなら話す。凛くん、聞きたい??」
「愁、教えて。俺に執着する理由なんでしょ?? 俺は愁のことを知りたい」
愁の目を真っ直ぐ見ると、愁は柔らかい表情で部屋へと案内してくれ、ゼンが遮音の魔法をかけると、リュカは遮音範囲の外に行った。
「どこから話したらいいか……先に言うと、俺は天界に逝った時に、自分の魂の記憶をレオに見せてもらった。凛くん……俺の海……俺は凛くんがいないと存在する意味がない。凛くんが何度も死を経験する度に、俺はいつも連れていった。最初はたまたまだった。魂が流されてきたから連れていっただけなのに、その子は俺にお願いするように、何度も流されてきて……また来るかもしれないと、そのうち探すようになった」
あぁ……だからか。愁はいつも優しい。そして俺を世界に連れて行こうとしてくれた。あの任せてもいいと思える信頼感と、愁ならどこに行っても大丈夫だという安心感……ごめんね、遅くなって。ごめん、助けてあげられなくて。ずっと待っててくれたのに。
「そして凛くんの最後の死で、レオが俺に言ってきた。もう探す必要はないと……俺の役目は終わったのだと。理解できなくて、凛くんの魂をそのまま海に沈めて、連れていこうとしたけど、凛くんは猫の姿になった途端、俺にお礼だけ言って何処かに行った。悲しかったけど、そんな自由な姿をもっと見たいと思った。凛くんのそばに行きたいとレオに願った。そしたらさ……魂そのものを変えるから、記憶はなくなるし、ヒトとして輪廻を巡るようになると、レオに言われたんだよ。でも、それでもいいと思ったんだ。今じゃ、輪廻も巡らなくて良くなったけどね。記憶は戻った訳じゃないし、凛くんとの記憶しか見せてもらえなかったけど、レオには感謝してるよ」
愁は泣きそうな顔をしているのに、泣けないのか、それとも泣きたくないのか、自分の手を見て俺と目を合わせようとはしない。俺はゼンの膝から下りて、愁の頭を撫でると、俺の存在を確かめるようにキツく抱きしめられた。
「待たせてごめん。ありがとう……愁は俺のイルカだったんだね」
「凛くん……世界に連れて行けなくてごめん。情けないけど、俺は枷をつけられて初めて、凛くんの匂いが分かったんだ。凛くんとの繋がりはあったのに、何もないと思い込んでた」
「愁さん、俺等からも礼を言わせてくれ。今があるのは、愁さんのお陰や。ありがとうございます」
「愁、ありがとう。洸と同じように、俺等は凛くんを共有する。まあ、抱かせたりはせんけどな。しっかり自分で線引きできるなら許す……ほんまはむっちゃ嫌やけどな。それとお前の変態部屋にあったやつ、持ってきてやったけど……今後隠し撮りはすんなや。撮るなら堂々と撮れ」
愁は意味が分からないといった様子で、ゼンとゼルが荷物を出していくところを見ていた。そして全部出し終わると、愁に初めて抱えられたと思ったら、すぐにゼンに渡され、リュカも俺達に近寄ってきた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
220
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる