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夢のような、現実。
しおりを挟むあの日、へーちゃんとお父さんは病院に運ばれ、どちらも一命をとりとめた。
僕は警察に保護され、事情聴取を受けることになった。
僕は、偽りなく答えた。
へーちゃんが糠部先生を殺したと話していたこと。
へーちゃんの家で彼の母親の死体を発見したこと。
へーちゃんが継父だった古積の所に行くと言ったとき、同行を希望したこと。
へーちゃんが僕が寝ている間に古積を殺したこと。
それでもなお、自首を促さなかったこと。
全てを話せば、まるで肩の荷が降りたかのような解放感があった。取調室に入った瞬間は緊張でどうにかなりそうだったのに、話終える頃には自然と笑みが溢れた。警察は、そんな僕を不思議そうに見ていた。
「君は、脅されていたわけではないんだね?」
「はい。むしろ、平和くんは僕のことを何度も止めようとしてくれました。でも、僕が平和くんと一緒に行きたくて……。だから一緒に行きました」
「自首を勧めなかったのはどうして?」
「一緒にいたかったからです」
「一緒に向江市に来たのも、同じ理由?」
「はい。僕は、昔いじめられていたのを平和くん
に助けてもらったので、その恩返しがしたかったんです」
「実際、君は平和くんに殴られているし、お父さんは大怪我をさせられてるけど」
「そのことに、怒りとか感じてません」
僕がはっきり答えると、警察はやっぱり変なものを見るかのように怪訝そうに目を細める。僕はそれに気づかないふりをして、淹れてもらったお茶を口にした。
「君のやったことは犯罪だよ」
「知ってます。でも、僕は後悔してません」
もちろん、へーちゃんを止められるならそれが最善だったとはわかっている。でも、そんなことは今更だった。
自分が殴られたのだって、へーちゃんにとって必要なことだったのであれば仕方ないと思えるし、お父さんのことも気にすることはない。
※
僕は結局、何一つお咎めなしだった。驚くくらい呆気なく解放されて、拍子抜けなくらいだ。
きっと、お金で全てを揉み消したのだと思う。父方の祖父は元警察官でそれなりに凄い人だったらしいので、我が家はお金だけは裕福にあるのだ。
家に帰れば母に一発平手打ちをくらい、そして抱き締められた。そこで、僕は色んなものに守られている裕福な人間なのだと実感し、胸が痛くなってたくさん泣いた。何も理解できていない妹も、僕の帰りを見てギャンギャン泣いた。
お父さんは全治3週間の大怪我をした。見舞いに行くと母や心春の前では穏やかに「いやぁ、失敗したな」と笑ったが、二人きりになればはっきりと「私のお陰でお前は自由なんだ。よかったな。何でお前はこんなに出来が悪いんだ」と言った。だから、お父さんに「自分の立場のために僕の罪を消してくれてありがとう」と皮肉を返した。
お父さんが古積の家に行ったのは警察としてではなかった。へーちゃんのお母さんの遺体を発見したあと、へーちゃんの家の中を調べているとへーちゃんが残した古積家の住所のメモがあった。それを見て、車を走らせてきたらしい。
あの日、へーちゃんはお父さんを殴った理由を「目の前にいるから」と言っていたが、僕は納得できなかった。その後警察からお母さんに話していたのを盗み聞きしたのだが、どうやらへーちゃんとお父さんは確執があったらしい。
へーちゃんは「息子をいじめていると決めつけた挙げ句、殴られた。そうかと思えば息子本人がいじめられてると相談しても知らん顔をしていたのだと聞いた。顔を見ただけで腹が立った」と警察に話したそうだ。
そのことでお父さんは上司に色々詰められた。結局、お父さんはへーちゃんを殴ったことを認めた。 「異常者の息子だから」というのが、へーちゃんをいじめっ子と思った理由らしい。それから、「あまりに優志とタイプが違うから友だちな訳がない」と思ったそうだ。
中学生のとき、僕がいじめられていると話しても相手にしてくれなかったのは、これも理由なのだろう。お父さんはプライドが高い。きっと、「自分がいじめっ子を成敗したはずなのに、実は間違っていた」ことを認めたくなかったのだと思う。
結局、一人で古積家に乗り込んだのも、へーちゃんに交渉するためだったのだ。かつて自分がへーちゃんをいじめの主犯と言い、手を上げたことを黙ってもらおうとしたのだ。
お父さんの件は、世間に出ることはなかった。それだけではなく、二人目の継父である明星を車前に押し出して殺害したことも、糠部先生を屋上から突き落としたことも、報道されることはなかった。テレビで見るのは、実母と一人目の継父の古積を殺したことだ。それから、自分のお腹を割いて自殺しようとしたこと。
考えればわかる。お父さんを殴ったことに関しては、お父さんも訴えていないし警察官の不祥事なのだから公にしたくない。明星の死は事故、糠部先生は自殺で処理されている。今更それを掘り返すことは警察としてはデメリットなのだろう。
「母の躾が厳しくて耐えられなかった。古積さんに対して助けを求めたが裏切られたと感じて殺した」。それが、テレビで紹介される殺害動機だ。
自殺を図ろうとした理由は「小さい頃からずっと、自分が汚いと思っていた。だから、内蔵を出してキレイにしたかった」。僕には理解できないその感覚に、僕は喉がつっかえるような感覚を覚えた。
へーちゃんが殺人を犯す一ヶ月前に幼い女の子が虐待によって死亡した事件があった。そのため、虐待というものが世間の関心を浴びている。
関心が向けられているからこそ、へーちゃんの件もかなり深く報道がされた。家庭復帰をしたのが事件の約4か月前で、まだ児童相談所の支援が続いていたこともあり、かなり非難の声が上がっている。
その中で、虐待の一部が報じられた。それは、児童相談所が双郷家について把握していた内容だ。気に入らないことがあると殴られる、凶器で脅される、性行為を強要される。それが彼が小さいときから今まで周りの大人にされてきたことだった。また、古積については塾での子ども盗撮の件も明るみに出ていた。
彼に関するニュースが流れる度、胸が締め付けられるように痛かった。記憶の中のキラキラした笑顔を浮かべているへーちゃんが、どんどん歪んでいく。
あの頃の笑顔が本物だったのか……僕にはもう知るすべもなかった。
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