魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

文字の大きさ
50 / 84
1000年前から愛してる

ロードオブザ

 俺の初産は1分で終わった。
 数時間で産褥期も終わった。

 とんでもない早回しだ。医療スタッフ達は知識が豊富だからこそ、俺の脅威的な回復に狼狽えていた。

 アウクトルはまだ戻ってきていないが、彼はちゃんと約束を守った。
 何と出産用の転移魔道具を作成して、エコールに託していたのだ。

 生まれた子供は光玉2号になった。今は1号と仲良く部屋を漂っている。
 有責カウンターが回らないどころか、ただでさえ高かった彼の株が天元突破してしまった。
 何か他にないものか……


 体を休めるフリをして聞き耳を立てていたら、とびきりの情報を得た。
 どうも国の端で魔獣のスタンピードが起きているらしい。

 第一報が入ったのが魔王城襲撃直前なので、既に対応が遅れている状態。
 国として派兵すべきだが、此方も襲撃を受けたばかりで警戒を緩めることはできない。
 近隣の領地も群れから外れた魔獣を討伐しているため、応援を送る余裕はない。
 現在はやや離れた地域から、応援を送る手筈を整えている段階。

 魔族は個人個人がそれなりの戦闘力を持つが、数の力は大きい。
 無数の魔獣が雪崩れ込めば、いずれは押し負け飲み込まれる。

 スタンピードが起きている地域は、近くに火山がある。
 魔獣の被害が最も酷いのは、活火山の地熱を利用した温泉や農耕が盛んな地域。
 既にグレンツ砦は孤立状態で、応援部隊が合流するまでに耐え切れるかどうか五分五分らしい。

 離婚理由にはならないが、これは使える。

 =========

「セルヴァ様っ! 妃殿下をお止めしてくださいっ!」

 被害なく収束したとはいえ、襲撃を受けた城内は混乱している。
 人員の安全確認を行なっていたセルヴァの元へ、ティカが転がり込むように飛び込んできた。
 彼女とストメートは魔王妃付きの侍女だ。産後の肥立ちは順調と報告を受けたばかりなのに、一体何があったというのか。

 部屋へ駆け付けたセルヴァが見たのは男装した魔王妃と、彼女を止めようとする護衛達。
 そして部屋の隅で青ざめているストメート。

「一体何の騒ぎですか」

 セルヴァの登場に、護衛達が期待のこもった眼差しを向けた。
 彼らには荷が重かったのだろう。

「グレンツ砦へ向かう。共は不要だ」

 魔王妃が断言すると、ストメートが泣き出した。

「ストメート」

 咎めるような響きになってしまうのは仕方がない。ストメートの父はグレンツで働いている。出産を終えたばかりの魔王妃にスタンピードのことを伝えたのは恐らく彼女だ。

「俺が問い質したんだ。彼女を責めないでくれ」
「間も無く魔王様がお戻りになります。それまでどうか――」
「一刻を争うんだ。待っていられない。この問答に使う時間すら惜しい」
「出産されたばかりの御身です。今の殿下は冷静さを欠いております」

 産後で気が立っているのだろう。お願いだから大人しくしててほしい。

「冷静に判断した結果だ。お前もその目で見たはずだ。魔王が帰還するまで、俺なら砦を守ることができる」
「それは……」

 セルヴァが言い淀んだ時、エコールが到着した。

「陛下から申し付けられていたにも関わらず、私は妃殿下を侮っておりました。伏してお詫び申し上げます。陛下が戻られましたら如何なる罰も受ける所存です」

 到着するなり彼は跪き、深々と謝罪した。

「――不甲斐ない事ですが、引き続き妃殿下のお力に頼るしか道はございません。早急に御身をお守りすべく、部隊を編成いたします。陛下の為にも、お一人で動かれる事だけは思い留まって頂けませんか?」

 嘘だ。この城で彼だけが最初から魔王妃に誠心誠意仕えていた。
 彼は場を治めるために、自ら泥を被っている。

「……連れて行くのは転移、もしくは飛竜の操縦が出来る非戦闘員のみだ。城の兵力を割くくらいなら、俺は単独で出る」



「――あのっ! わ、私の家は飛竜の調教を生業としておりますっ! 操縦に関してはっ、並の竜騎士よりも優れていると自負しておりますっ!」

 気が付いたらセルヴァは叫んでいた。
 エコールに比べて自分は何だ。突然現れた女主人に対して、礼を欠かなければ良いだろうと、勝手な判断で最低限の仕事しかしていなかった。
 魔王の信頼を裏切ったのも、魔王妃を侮っていたのも全部自分だ。
 侍女長という役職についているだけの、一介の魔族でありながら何という思い上がり。
 その能力を目の当たりにしたばかりなのに、余計なことをしてくれるなと考えるなんて烏滸がましいにも程がある。

 どうか挽回する機会が欲しい――

 =========

 二人を乗せた飛竜が国境に到着したのは、日が沈む寸前だった。
 薄暗い大地にひしめく魔獣。赤く光るその瞳は誘導灯のように孤立した城塞を浮かび上がらせていた。

 眼下の光景にセルヴァは息を呑んだ。
 本当にこの群れから、砦を守り切ることができるのか。

「セルヴァ。火山へ向かえ」
「でも、砦が……」

「火山へ向かえ」

 戸惑うセルヴァに、言い聞かせるように魔王妃が繰り返した。
 同時に凄まじいプレッシャーが背後から放たれる。

「――っ!」

「砦はまだ無事だ。先に火山へ向かうんだ」

 その座に相応しい威圧感を放ちながら魔王妃が命じた。

 移動中、魔王妃は魔力を展開して何かを行なっていた。
 セルヴァたちは単騎で駆けている為、周囲を警戒していたのだと思っていたがそれは間違いだったのだ。
 魔王妃は探知していたのだ――それも、とんでもない広範囲を。
 砦の状態について断言したのがその証拠。
 その計り知れない能力の高さに、セルヴァは戦慄した。


「ここで待て」
 火山上空に差し掛かるなり、魔王妃は指示を出して飛び降りてしまった。
 吸い込まれるように火口にその姿が消える。

 一体火山に何があるというのか。
 彼女の目的がわからない。
 セルヴァは指示通り上空で待機していたが、徐々に心細くなってきた。
 飛竜も何か察したのか、先ほどから落ち着きがない。何とか宥めてはいるものの、制御の手を緩めたら即座にこの場から逃げ出しそうだ。

 不安がピークに達したセルヴァは、火口へ向けて飛竜を降下させた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

引きこもり魔法使いが魔法に失敗したら、ヤンデレ補佐官が釣れた。

零壱
BL
──魔法に失敗したら、脳内お花畑になりました。 問題や事件は何も起こらない。 だが、それがいい。 可愛いは正義、可愛いは癒し。 幼児化する主人公、振り回されるヤンデレ。 お師匠やお師匠の補佐官も巻き込み、時には罪のない?第三者も巻き込み、主人公の世界だけ薔薇色・平和が保たれる。 ラブコメです。 なんも考えず勢いで読んでください。 表題作、2話、3話、5話、6話再掲です。 4話(噂の王子視点)と、師匠×トーリの馴れ初め番外編は同人誌に掲載(シリアスなので) 他サイトにも再掲しています。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。 となります。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★