3 / 39
脅迫状編
年下の男の娘
しおりを挟む
「ラインハルトも不服でしょうが、母上の気持ちもくんであげてくださいね」
「それはまあ。母上を誤解させた僕にも責任はありますから……」
穏やかに弟であるラインハルトを説得するのは、伯爵家の次男であるハルバート。
ラインハルトを娼館へ放り込んだのは彼である。
ジークハルト、ハルバート、ラインハルトの3兄弟は外見がよく似ている。
名前も似ている。
身長が一番低いのが長男、一番高いのが三男だがその差は10センチもない。
全員髪と目の色は同じで、基本的な顔立ちも同じ。
違いがあるとすれば、一人称とその性格。
長男が『俺』、次男が『私』、三男が『僕』。
ジークハルトは気難しいところがあり、交友関係は狭いが有能で仕事ができる。
ハルバートは温和な性格で、ジークハルトのフォローにまわる事が多い。人によっては損な立場と感じるだろうが、ハルバートは特に気にしていないようだ。
彼はジークフリートのフィクサーだけでなく、今回のように家族間の緩衝材役を自らかって出ている。
*
ことの発端はラインハルトのライフワークである。
独り身のラインハルトは日夜BL鑑賞と妄想に勤しんでいた。
その間異性――女性との付き合いはなし。
いい歳をした男が、女っ気のないまま何年も過ごす。職場は8割男性。
(もしかしたら、息子は男色家なのかもしれない)
結婚についても焦るどころか、全く考えていないような息子の姿に、女手一つで3兄弟を育てたマリアンヌは危機感を抱いた。
早くに夫を亡くしたマリアンヌだが、既に3人も男児を産んでいたため生家に戻る事はなく中継ぎの女当主として伯爵家を切り盛りしていた。
最近ジークハルトに当主の座を譲ったため、肩の荷が降りたマリアンヌ。
当主としての責任から解放されると、仕事に追われて今まで見えていなかった大小様々な事に気付き出す。その中で最も重要で、緊急性が高いと判断されたのが末の息子ラインハルトの男色家疑惑だ。
いずれ家を出る身だと、自立さえしてくれれば問題ないと、あまり気にかけてこなかったのが仇となった。
誰か良い相手が居るのかと当人に探りをれても、のらりくらり。
こっそり探偵を雇っても綺麗に真っ白。
マリアンヌは世間一般の同性愛者については特に何も思うところはない。
他人の性癖に口を挟むのは野暮だし、人の道に背かないのであれば好きにすれば良いと思っている。
しかし、自分の息子がとなると別問題だ。
「僕は恋愛方面に才能がないようで、自力で相手を探すのは苦手なようです。特に問題も感じていないので、心配は無用です」
「ラインハルト。その言葉は本当でしょうね」
「本心です。ここで嘘をつくメリットなんてないでしょう」
「母はその言葉を信じますよ」
息子の言い訳を真正面から受け止めたマリアンヌは、知り合いの伝を辿りとある伯爵家の令嬢との縁談を用意した。
*
「母上。僕は不自由していないと先日申し上げましたよね」
「ええ。でも自力で相手を探すのが苦手とも言っていましたね。ですから、この母が良い話を持ってきたのです。先日の言葉が嘘ではないなら、当然問題ないでしょう?」
「……条件的には良い話かもしれませんが、お互い意思を持った人間です。相性が悪ければ破談になることも覚悟の上ですよね」
「深窓のご令嬢で、体は弱いけどとても気立の良い娘さんよ。私も一度挨拶したことがありますが、育ちの良いお嬢さんでした。少なくとも気が合わないなんて事はないでしょう。……意図的に何かをしない限りは、破談になることはないでしょうね」
予防線を張る息子に、母もまた釘を刺した。
「結婚となれば環境が大きく変わります。病弱な方が果たして嫁ぎたいと思うのでしょうか?」
「病弱だからと結婚願望がないと決めつけるのは浅慮ですよ。お前は三男ですし、相手のご当主は跡継ぎを産むプレッシャー無しに大事な娘を嫁がせることができるのを歓迎しています」
「無駄な抵抗はやめて腹を括りなさい。もし縁談に不服があるなら、周囲を納得させるような理由を述べなさい」とマリアンヌは話を締め括った。
ラインハルトは元女だが、マリアンヌと違い舌鋒鋭いタイプではないので普通に言い負けた。
**
見合い当日――。
ラインハルトに結婚の意思はない。
深窓の令嬢なんて気を遣う相手、正直言って面倒臭い。
(どうにかお互いに傷のつかない状態で、相手からお断りしてくれないものか)
良案が思いつかないまま、あっという間に見合いの日になってしまった。
初対面だが今時の若者だからと、顔合わせは最初から一対一だ。
仲人が同席して、両者に話を振って取り持つなんて見合いはもう古い。
最近は当日当人同士が待合せしてデートや食事に行くのが普通。
今回は相手の体が弱いため、外出は避ける事になった。
ラインハルトが彼女――ルイーゼの家を訪問する形での見合いだ。
*
ラインハルトがメイドに案内されたのは、先方の屋敷の端にあるサロン。
茶は教養の一環としてルイーゼが淹れることができるため、メイドとは入口で別れた。
完全な2人きりの空間。
ルイーゼを見て、ラインハルトのアルカイックスマイルが凍りついた。
深窓の令嬢――。
(そりゃそうだ。こんなの外に出せない)
出産は望めないかもしれない――。
(普通に無理だろ)
ラインハルトの目の前で、緊張の面持ちで目を伏せているのは、どう見ても男だ。
女装しているが、普通に男だ。
少し幼く見えるような、整った顔立ちだが男だ。
「……初めまして。ラインハルト・フリートと申します」
「ルイーゼ・マクガーデンです」
普通に声変わりした声で自己紹介するルイーゼ。
裏声を使うことすらしない。
一応女装しているが、男である事を隠そうとする気は更々無いようだ。
(ええー、母上正気ですか)
マリアンヌはルイーゼと顔見知り。
つまり彼女が彼である事を、マリンヌは知っていることになる。
(まさか男色疑惑の息子に、男の娘を宛てがうとは)
きっとマクガーデン家にも深い事情があり、男児を女児として育てたのだろうがその後始末を押し付けられる事になるとは驚きだ。
(現実は小説より奇なり。まあTS転生の時点で相当なんだけど)
「それはまあ。母上を誤解させた僕にも責任はありますから……」
穏やかに弟であるラインハルトを説得するのは、伯爵家の次男であるハルバート。
ラインハルトを娼館へ放り込んだのは彼である。
ジークハルト、ハルバート、ラインハルトの3兄弟は外見がよく似ている。
名前も似ている。
身長が一番低いのが長男、一番高いのが三男だがその差は10センチもない。
全員髪と目の色は同じで、基本的な顔立ちも同じ。
違いがあるとすれば、一人称とその性格。
長男が『俺』、次男が『私』、三男が『僕』。
ジークハルトは気難しいところがあり、交友関係は狭いが有能で仕事ができる。
ハルバートは温和な性格で、ジークハルトのフォローにまわる事が多い。人によっては損な立場と感じるだろうが、ハルバートは特に気にしていないようだ。
彼はジークフリートのフィクサーだけでなく、今回のように家族間の緩衝材役を自らかって出ている。
*
ことの発端はラインハルトのライフワークである。
独り身のラインハルトは日夜BL鑑賞と妄想に勤しんでいた。
その間異性――女性との付き合いはなし。
いい歳をした男が、女っ気のないまま何年も過ごす。職場は8割男性。
(もしかしたら、息子は男色家なのかもしれない)
結婚についても焦るどころか、全く考えていないような息子の姿に、女手一つで3兄弟を育てたマリアンヌは危機感を抱いた。
早くに夫を亡くしたマリアンヌだが、既に3人も男児を産んでいたため生家に戻る事はなく中継ぎの女当主として伯爵家を切り盛りしていた。
最近ジークハルトに当主の座を譲ったため、肩の荷が降りたマリアンヌ。
当主としての責任から解放されると、仕事に追われて今まで見えていなかった大小様々な事に気付き出す。その中で最も重要で、緊急性が高いと判断されたのが末の息子ラインハルトの男色家疑惑だ。
いずれ家を出る身だと、自立さえしてくれれば問題ないと、あまり気にかけてこなかったのが仇となった。
誰か良い相手が居るのかと当人に探りをれても、のらりくらり。
こっそり探偵を雇っても綺麗に真っ白。
マリアンヌは世間一般の同性愛者については特に何も思うところはない。
他人の性癖に口を挟むのは野暮だし、人の道に背かないのであれば好きにすれば良いと思っている。
しかし、自分の息子がとなると別問題だ。
「僕は恋愛方面に才能がないようで、自力で相手を探すのは苦手なようです。特に問題も感じていないので、心配は無用です」
「ラインハルト。その言葉は本当でしょうね」
「本心です。ここで嘘をつくメリットなんてないでしょう」
「母はその言葉を信じますよ」
息子の言い訳を真正面から受け止めたマリアンヌは、知り合いの伝を辿りとある伯爵家の令嬢との縁談を用意した。
*
「母上。僕は不自由していないと先日申し上げましたよね」
「ええ。でも自力で相手を探すのが苦手とも言っていましたね。ですから、この母が良い話を持ってきたのです。先日の言葉が嘘ではないなら、当然問題ないでしょう?」
「……条件的には良い話かもしれませんが、お互い意思を持った人間です。相性が悪ければ破談になることも覚悟の上ですよね」
「深窓のご令嬢で、体は弱いけどとても気立の良い娘さんよ。私も一度挨拶したことがありますが、育ちの良いお嬢さんでした。少なくとも気が合わないなんて事はないでしょう。……意図的に何かをしない限りは、破談になることはないでしょうね」
予防線を張る息子に、母もまた釘を刺した。
「結婚となれば環境が大きく変わります。病弱な方が果たして嫁ぎたいと思うのでしょうか?」
「病弱だからと結婚願望がないと決めつけるのは浅慮ですよ。お前は三男ですし、相手のご当主は跡継ぎを産むプレッシャー無しに大事な娘を嫁がせることができるのを歓迎しています」
「無駄な抵抗はやめて腹を括りなさい。もし縁談に不服があるなら、周囲を納得させるような理由を述べなさい」とマリアンヌは話を締め括った。
ラインハルトは元女だが、マリアンヌと違い舌鋒鋭いタイプではないので普通に言い負けた。
**
見合い当日――。
ラインハルトに結婚の意思はない。
深窓の令嬢なんて気を遣う相手、正直言って面倒臭い。
(どうにかお互いに傷のつかない状態で、相手からお断りしてくれないものか)
良案が思いつかないまま、あっという間に見合いの日になってしまった。
初対面だが今時の若者だからと、顔合わせは最初から一対一だ。
仲人が同席して、両者に話を振って取り持つなんて見合いはもう古い。
最近は当日当人同士が待合せしてデートや食事に行くのが普通。
今回は相手の体が弱いため、外出は避ける事になった。
ラインハルトが彼女――ルイーゼの家を訪問する形での見合いだ。
*
ラインハルトがメイドに案内されたのは、先方の屋敷の端にあるサロン。
茶は教養の一環としてルイーゼが淹れることができるため、メイドとは入口で別れた。
完全な2人きりの空間。
ルイーゼを見て、ラインハルトのアルカイックスマイルが凍りついた。
深窓の令嬢――。
(そりゃそうだ。こんなの外に出せない)
出産は望めないかもしれない――。
(普通に無理だろ)
ラインハルトの目の前で、緊張の面持ちで目を伏せているのは、どう見ても男だ。
女装しているが、普通に男だ。
少し幼く見えるような、整った顔立ちだが男だ。
「……初めまして。ラインハルト・フリートと申します」
「ルイーゼ・マクガーデンです」
普通に声変わりした声で自己紹介するルイーゼ。
裏声を使うことすらしない。
一応女装しているが、男である事を隠そうとする気は更々無いようだ。
(ええー、母上正気ですか)
マリアンヌはルイーゼと顔見知り。
つまり彼女が彼である事を、マリンヌは知っていることになる。
(まさか男色疑惑の息子に、男の娘を宛てがうとは)
きっとマクガーデン家にも深い事情があり、男児を女児として育てたのだろうがその後始末を押し付けられる事になるとは驚きだ。
(現実は小説より奇なり。まあTS転生の時点で相当なんだけど)
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
率先して自宅警備員してたら宅配業者に両思い判定されてた話
西を向いたらね
BL
[配達員×実家暮らしニート]
・高梨悠斗 (受け)
実家住みのニート。常に家にいるため、荷物の受け取りはお手の物。
・水嶋涼 (攻め)
宅急便の配達員。いつ荷物を届けても必ず出てくれる受けに対して、「もしかして俺のこと好きなのでは…?」となり、そのままズルズル受けの事が好きになる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる