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脅迫状編
我が生涯に一片の悔いなし
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島崎 春は腐女子である。
オタクであり、喪女であり、死ぬまで処女であった。
幼少期は多くの子供同様に単なる漫画・アニメ好きだった。
中学に入る頃に少女漫画ではなく、少年漫画に完全シフトした辺りからおかしくなった。
中学を卒業する頃には、誰の薫陶を受ける事なく立派なオタクになっていた。
進学校でリアルな友人と遊ぶことが少なかったこともあり、思春期特有の性欲はねじれた方向へ進化を遂げた。
始まりがどの作品だったかは最早覚えていないが、健全だった筈の少年漫画をカップリング前提で読むようになり、小説・漫画・イラストと二次創作をネットで探すようになった。
気が付けば小遣いの大半は原作の少年漫画では無く、その二次創作であるBL同人誌の通販に消えるサイクルが出来上がった。
ネット購入を良い事に、年齢制限も無視して春はどんどん深みにハマった。
大学に入ると春は自分でも二次創作するようになり、バイト代は基本イベント代に消えた。供給を求めるだけの身から、自家発電タイプへと最終進化した。
厳選したものの、全盛期は1作品につき300冊くらいの同人誌を所持していた。
友人には「男のAVコレクションかよ!」と揶揄された。
ハマっていた作品が就職の前後で連載終了したこと、以前ほどの熱量をもって入れ込まなくなった事で、社会人になってからは公式の供給と脳内妄想で事足りるようになった。
全てが偶々なのだが、春はこれにより一命を取り留めたとも言える。
もし大学時代の勢いのまま社会人になっていれば、湯水の如く金を使っていただろう。
老後の蓄えどころか、健康で文化的な最低限度の生活に必要な使ってはいけない金にまで手を出していたかもしれない。
二次創作からは少し距離を置いたが、春は一度知ってしまったあの素晴らしい世界を忘れる事はできなかった。
SNS、イラスト投稿サイト、web小説……世は誰でも簡単に創作し作品を披露できる時代。読むのも書くのも手頃に楽しむ手段は無数にあった。
その頃から春は二次創作だけではなく、オリジナルBLにも触手を伸ばした。
幸か不幸か、春は無駄にスペックが良かった。
生涯仕事に苦労することも、金に困ることも無かったので、現実の恋愛に興味がない彼女は清い体のまま趣味に勤しんで天寿を全うした。
高級老人ホームに残された彼女の遺品のタブレットには、電子書籍とアニメチャンネルが豊富なサブスクアプリが入っていた。
老眼と戦いつつも、最後まで己を貫いた。
ブレることのない女である。
孤独ではあったが、元より他人は他人と割り切ったところのある春である。
彼女は何の未練もなくこの世を去ったが、神は何を思ったかこの女に2回戦目を与えた。
**
春が転生したのは、地球とは異なる世界。
生活水準は産業革命後のヨーロッパに近いが、所々に中世の面影を残したゴシックな世界――まあ、創作によくある近代ナーロッパもどきである。
今の春はラインハルト・フリート。
伯爵家の三男としてこの世に生を享けた。
家の事は兄2人が頑張っており、ラインハルトに求められるのは家をアテにせず自立することのみ。
何の責任も無い気儘な身の上の彼は、独身のまま大学で考古学の准教授を務めている。
今の職を選んだ理由は勿論、男子生徒達を生暖かく見守る為。
日本で腐女子をしていた頃は、専ら二次元専門だったが、転生後の世界は何処のBLゲームかというくらい顔面偏差値が高かったのでリアルでも妄想が捗る捗る。
「趣味は人間観察です」とドヤ顔で宣言している。
*
男に生まれ変わったが、ラインハルトは自分を軸に妄想したり、自らが男と恋愛するつもりはない。
彼自身は相当な美形なのだが、生憎自分対象では萌えない。
ラインハルトにとってBLとは、男のAVのようなものだ。
AV好き=性豪ではないように、彼も自分が男を抱きたいとか、抱かれたいという感情はない。
物語を楽しむように、嗜むのが良いのである。
成人女性の精神を持って産まれたが、ラインハルトとして20年以上男として生活している。完全に心は女とは言い切れず、半端に混ざった春Ver.2状態。
揺るぎないのはBLを愛し、BL鑑賞に悦びを見出していること。
男女比は真っ当に1:1で、ちゃんと女性も存在する世界なのだが生憎、彼の眼中には入らない。
顔面偏差値の高いこの世界においても、シルバーアッシュの髪と琥珀色の瞳のラインハルトは突出して存在感のある美丈夫なため、学生時代から数多の女性にアピールされたが、前世の経験から女性の裏の顔を知り尽くしているラインハルトは彼女達に心惹かれる事はなかった。
*
一応体は男性なので、ラインハルトも女性相手の経験はある。
今世も前世同様清いままで構わなかったのだが、お節介な兄に娼館に放り込まれた。
特に童貞を守る事に固執していなかった為、ラインハルトは兄のお膳立てを無下にしたらかえって面倒な事になると流れに身を任せた。
男性が快感を得る課程を知る事で、自分の妄想力は新たなステージへ進化するだろうと取材感覚だったのもある。
とことんブレない女――否、男である。
オタクであり、喪女であり、死ぬまで処女であった。
幼少期は多くの子供同様に単なる漫画・アニメ好きだった。
中学に入る頃に少女漫画ではなく、少年漫画に完全シフトした辺りからおかしくなった。
中学を卒業する頃には、誰の薫陶を受ける事なく立派なオタクになっていた。
進学校でリアルな友人と遊ぶことが少なかったこともあり、思春期特有の性欲はねじれた方向へ進化を遂げた。
始まりがどの作品だったかは最早覚えていないが、健全だった筈の少年漫画をカップリング前提で読むようになり、小説・漫画・イラストと二次創作をネットで探すようになった。
気が付けば小遣いの大半は原作の少年漫画では無く、その二次創作であるBL同人誌の通販に消えるサイクルが出来上がった。
ネット購入を良い事に、年齢制限も無視して春はどんどん深みにハマった。
大学に入ると春は自分でも二次創作するようになり、バイト代は基本イベント代に消えた。供給を求めるだけの身から、自家発電タイプへと最終進化した。
厳選したものの、全盛期は1作品につき300冊くらいの同人誌を所持していた。
友人には「男のAVコレクションかよ!」と揶揄された。
ハマっていた作品が就職の前後で連載終了したこと、以前ほどの熱量をもって入れ込まなくなった事で、社会人になってからは公式の供給と脳内妄想で事足りるようになった。
全てが偶々なのだが、春はこれにより一命を取り留めたとも言える。
もし大学時代の勢いのまま社会人になっていれば、湯水の如く金を使っていただろう。
老後の蓄えどころか、健康で文化的な最低限度の生活に必要な使ってはいけない金にまで手を出していたかもしれない。
二次創作からは少し距離を置いたが、春は一度知ってしまったあの素晴らしい世界を忘れる事はできなかった。
SNS、イラスト投稿サイト、web小説……世は誰でも簡単に創作し作品を披露できる時代。読むのも書くのも手頃に楽しむ手段は無数にあった。
その頃から春は二次創作だけではなく、オリジナルBLにも触手を伸ばした。
幸か不幸か、春は無駄にスペックが良かった。
生涯仕事に苦労することも、金に困ることも無かったので、現実の恋愛に興味がない彼女は清い体のまま趣味に勤しんで天寿を全うした。
高級老人ホームに残された彼女の遺品のタブレットには、電子書籍とアニメチャンネルが豊富なサブスクアプリが入っていた。
老眼と戦いつつも、最後まで己を貫いた。
ブレることのない女である。
孤独ではあったが、元より他人は他人と割り切ったところのある春である。
彼女は何の未練もなくこの世を去ったが、神は何を思ったかこの女に2回戦目を与えた。
**
春が転生したのは、地球とは異なる世界。
生活水準は産業革命後のヨーロッパに近いが、所々に中世の面影を残したゴシックな世界――まあ、創作によくある近代ナーロッパもどきである。
今の春はラインハルト・フリート。
伯爵家の三男としてこの世に生を享けた。
家の事は兄2人が頑張っており、ラインハルトに求められるのは家をアテにせず自立することのみ。
何の責任も無い気儘な身の上の彼は、独身のまま大学で考古学の准教授を務めている。
今の職を選んだ理由は勿論、男子生徒達を生暖かく見守る為。
日本で腐女子をしていた頃は、専ら二次元専門だったが、転生後の世界は何処のBLゲームかというくらい顔面偏差値が高かったのでリアルでも妄想が捗る捗る。
「趣味は人間観察です」とドヤ顔で宣言している。
*
男に生まれ変わったが、ラインハルトは自分を軸に妄想したり、自らが男と恋愛するつもりはない。
彼自身は相当な美形なのだが、生憎自分対象では萌えない。
ラインハルトにとってBLとは、男のAVのようなものだ。
AV好き=性豪ではないように、彼も自分が男を抱きたいとか、抱かれたいという感情はない。
物語を楽しむように、嗜むのが良いのである。
成人女性の精神を持って産まれたが、ラインハルトとして20年以上男として生活している。完全に心は女とは言い切れず、半端に混ざった春Ver.2状態。
揺るぎないのはBLを愛し、BL鑑賞に悦びを見出していること。
男女比は真っ当に1:1で、ちゃんと女性も存在する世界なのだが生憎、彼の眼中には入らない。
顔面偏差値の高いこの世界においても、シルバーアッシュの髪と琥珀色の瞳のラインハルトは突出して存在感のある美丈夫なため、学生時代から数多の女性にアピールされたが、前世の経験から女性の裏の顔を知り尽くしているラインハルトは彼女達に心惹かれる事はなかった。
*
一応体は男性なので、ラインハルトも女性相手の経験はある。
今世も前世同様清いままで構わなかったのだが、お節介な兄に娼館に放り込まれた。
特に童貞を守る事に固執していなかった為、ラインハルトは兄のお膳立てを無下にしたらかえって面倒な事になると流れに身を任せた。
男性が快感を得る課程を知る事で、自分の妄想力は新たなステージへ進化するだろうと取材感覚だったのもある。
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