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脅迫状編
身から出た錆
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「それより先ほどの女性の件です。話を逸らさないでください」
「そんなつもりは無かったんですが」
「はっきり仰ってください。どう思ってらっしゃるんですか?」
「特別な好意は抱いていません」
特に隠すことでも無いので、ラインハルトは断言した。
「恋愛感情はありません」
セシルが反応しなかったので、更に分かりやすく言い直す。
「……」
「何ですか。君が聞いたんでしょう?」
「ええと。そんなにはっきり断言されるとは思わなくて……」
「結論は出ているんです。思わせぶりな事を言っても、良い事はありません」
こと色恋沙汰に関して、ラインハルトは容赦が無い。
前世もそれなりに器量良しだったが、自分の趣味最優先の性格だった。故に喪女。
今世の方が恋愛対象としてウケが良い。
曖昧な態度を取ればトラブルになる事を、ラインハルトは幼少期の段階で自覚した。
外見年齢相応の精神では立ち振る舞いに苦労しただろうが、中身が成人済みだった為にその辺りは上手くやった。
但しセシルのような、話の通じない連中は別だ。
老成していようが何だろうが、エロ同人思考のストーカーを御すのは至難の業だ。
今のラインハルトに出来るのは、彼を刺激しない事くらい。
脅迫状が届いてから、ラインハルトはマクガーデン家の馬車で送迎されている。
勿論セシル同伴だ。
一応世話になっているので、昨日食事に連れて行ったらセシルはラインハルトの好みのメニューを悉く当てた。
ちなみに一緒に食事に行ったのは昨日が初めてだ。
何故食の好みを把握しているのか恐ろしくて聞けなかった。
*
「セシル君と僕の出会いを教えてください。話を聞けば思い出せるかもしれません」
恋愛云々の話題になったので、ラインハルトは思い切って切り込んだ。
過去のセシルの口ぶりだと何か自分に入れ込むようになった切欠があったようだが、記憶をさらってもそれらしきエピソードは思い浮かばなかった。
第2のセシルを産まない為にも、ストーカーが爆誕した理由を知りたい。
「大学に入って間もない頃。新入生歓迎会の帰り道です」
「毎年行われている大規模なやつですね」
「はい」
(定例の新歓コンパか)
この国の法律だと大学入学時点で飲酒解禁だ。酒に慣れるため大抵の学生は、この会で初めての飲酒を経験する。
大学側も個々に歓迎会をやって、把握しきれないトラブルを起こされるよりも全員まとめて酒の洗礼をした方が面倒がないので、学生会主催で新入生全員を対象に大々的に行われる。
「帰宅時間が読めなかったんで、家の馬車は断って乗合馬車で帰ったんです」
「夜なら結構混雑したでしょう」
「馬車に乗るまでは平気だったんですけど、揺られているうちに気持ち悪くなりました」
ふと頭を掠めた光景があり、ラインハルトは呟くように問いかけた。
「……もしかして僕と一緒に途中下車しました?」
「はい! ラインハルト様が同じ馬車に乗り合わせていて、俺の調子が悪いのに気付いて付き添ってくれたんです! 運命の出会いです!」
ここまで言われたら、ラインハルトも思い出せる。
明らかに酔ってグロッキーな学生が居たので途中下車を促したことがあった。
彼は馬車を降りるなり、ラインハルトの服に盛大に嘔吐したのである。
吐瀉物で汚れたのは布製品。洗えば落ちるの精神を持つラインハルトは特に気にしなかった。
「酷い粗相をした俺をラインハルト様は怒る事もなく、優しく微笑んで介抱してくれたんです!」
「……」
笑顔を振り撒いた自覚は無いが、多分ラインハルトが微笑んでいたのは本当だろう。
(新歓で先輩にしこたま飲ませられた新入生男子。初めての酒で前後不覚になってからの、アッ――!な展開を妄想していたに違いない)
自分の事なのでよく分かる。
(何て事だ。身に染み付いた妄想癖で、恋愛モンスターを生み出していたとは)
「君は俯いていましたし、暗かったので顔を覚えていなかったんですね」
「俺はハッキリと覚えています! 街灯に照らされたラインハルト様のお姿はとても幻想的で、天の御使だと思いました!」
「そ、そうですか……」
謎が解けてすっきりしたが、大したことのないエピソードでもストーカーは誕生する事を知ってしまった。
セシルと出会ったのが実は別の人間で、勘違いが解けてラインハルトがストーカーから解放される可能性も消えた。
*
何度か逡巡した後、セシルがもじもじと切り出した。
「あの。ラインハルト様。 警察で俺、お役に立ちましたよよね」
「ええ。流石はマクガーデン家ですね」
「ご褒美が……欲しいです」
遠回しにお前の力では無いと告げたのだが、セシルには通じなかった。
(嫌な予感がする)
先日、警察に被害届を提出しに行ったのだが、最初は取り合ってくれなかったのだ。
対応した警察官の言葉をわかりやすくまとめると「警察も暇じゃ無いんだ、大の大人が紙切れ一枚でガタガタ抜かすな」だった。
「もっと決定的な何かがあってから出直せ」とストーカー被害者への間違った対応のような言葉を放たれ、ラインハルトは門前払いされそうになった。
しかしそれに食ってかかったのが、真性ストーカー(前科持ち)のセシルである。
ラインハルトがマクガーデン家の婿候補であると告げ、キャンキャン吠えて一歩も退かなかった。
資産家のマクガーデン家に関わるとなると警察も無視することはできず、ラインハルトの届けは無事受理された。
「今日のお昼奢ります」
「デートのお誘いは嬉しいんですが、もっと特別なものが欲しいです」
頬を染めて上目遣いしてくるセシルに、軽くイラッとした。
(デートなんて一言も言ってないんだけど)
ラインハルトにとって負担が最も少ない御礼を提案したが却下された。
「ではディナー」
「大人のディナーですか!?」
「――は止めておきましょう」
セシルが目をキラキラさせて身を乗り出した。食後にナニを期待しているのだろう。
レストランと一緒にホテルを予約されかねない。
待ち受けているのは、濃厚な大人の一夜フルコースだ。自分の貞操がメインディッシュとか御免こうむる。
「俺のリクエストを言っても良いですか?」
「内容次第です。話を聞いてから判断します」
「ラインハルト様の聖液が飲みたいです」
せいえき。
いやまさか、そんなわけないよと思いつつ、ラインハルトは額に汗をかきながら聞き直した。
「……ちょっとなに言ってるのか、わからないです」
「ラインハルトの聖なる体液です。唾液か精液が飲みたいです」
確認作業の結果、より酷い結果が得られた。
(おおおおおおおああああああ!?!?)
聞き間違いであって欲しかったが、はっきり言い切られてしまった。
発想が完全にエロ同人だ。
「そんなつもりは無かったんですが」
「はっきり仰ってください。どう思ってらっしゃるんですか?」
「特別な好意は抱いていません」
特に隠すことでも無いので、ラインハルトは断言した。
「恋愛感情はありません」
セシルが反応しなかったので、更に分かりやすく言い直す。
「……」
「何ですか。君が聞いたんでしょう?」
「ええと。そんなにはっきり断言されるとは思わなくて……」
「結論は出ているんです。思わせぶりな事を言っても、良い事はありません」
こと色恋沙汰に関して、ラインハルトは容赦が無い。
前世もそれなりに器量良しだったが、自分の趣味最優先の性格だった。故に喪女。
今世の方が恋愛対象としてウケが良い。
曖昧な態度を取ればトラブルになる事を、ラインハルトは幼少期の段階で自覚した。
外見年齢相応の精神では立ち振る舞いに苦労しただろうが、中身が成人済みだった為にその辺りは上手くやった。
但しセシルのような、話の通じない連中は別だ。
老成していようが何だろうが、エロ同人思考のストーカーを御すのは至難の業だ。
今のラインハルトに出来るのは、彼を刺激しない事くらい。
脅迫状が届いてから、ラインハルトはマクガーデン家の馬車で送迎されている。
勿論セシル同伴だ。
一応世話になっているので、昨日食事に連れて行ったらセシルはラインハルトの好みのメニューを悉く当てた。
ちなみに一緒に食事に行ったのは昨日が初めてだ。
何故食の好みを把握しているのか恐ろしくて聞けなかった。
*
「セシル君と僕の出会いを教えてください。話を聞けば思い出せるかもしれません」
恋愛云々の話題になったので、ラインハルトは思い切って切り込んだ。
過去のセシルの口ぶりだと何か自分に入れ込むようになった切欠があったようだが、記憶をさらってもそれらしきエピソードは思い浮かばなかった。
第2のセシルを産まない為にも、ストーカーが爆誕した理由を知りたい。
「大学に入って間もない頃。新入生歓迎会の帰り道です」
「毎年行われている大規模なやつですね」
「はい」
(定例の新歓コンパか)
この国の法律だと大学入学時点で飲酒解禁だ。酒に慣れるため大抵の学生は、この会で初めての飲酒を経験する。
大学側も個々に歓迎会をやって、把握しきれないトラブルを起こされるよりも全員まとめて酒の洗礼をした方が面倒がないので、学生会主催で新入生全員を対象に大々的に行われる。
「帰宅時間が読めなかったんで、家の馬車は断って乗合馬車で帰ったんです」
「夜なら結構混雑したでしょう」
「馬車に乗るまでは平気だったんですけど、揺られているうちに気持ち悪くなりました」
ふと頭を掠めた光景があり、ラインハルトは呟くように問いかけた。
「……もしかして僕と一緒に途中下車しました?」
「はい! ラインハルト様が同じ馬車に乗り合わせていて、俺の調子が悪いのに気付いて付き添ってくれたんです! 運命の出会いです!」
ここまで言われたら、ラインハルトも思い出せる。
明らかに酔ってグロッキーな学生が居たので途中下車を促したことがあった。
彼は馬車を降りるなり、ラインハルトの服に盛大に嘔吐したのである。
吐瀉物で汚れたのは布製品。洗えば落ちるの精神を持つラインハルトは特に気にしなかった。
「酷い粗相をした俺をラインハルト様は怒る事もなく、優しく微笑んで介抱してくれたんです!」
「……」
笑顔を振り撒いた自覚は無いが、多分ラインハルトが微笑んでいたのは本当だろう。
(新歓で先輩にしこたま飲ませられた新入生男子。初めての酒で前後不覚になってからの、アッ――!な展開を妄想していたに違いない)
自分の事なのでよく分かる。
(何て事だ。身に染み付いた妄想癖で、恋愛モンスターを生み出していたとは)
「君は俯いていましたし、暗かったので顔を覚えていなかったんですね」
「俺はハッキリと覚えています! 街灯に照らされたラインハルト様のお姿はとても幻想的で、天の御使だと思いました!」
「そ、そうですか……」
謎が解けてすっきりしたが、大したことのないエピソードでもストーカーは誕生する事を知ってしまった。
セシルと出会ったのが実は別の人間で、勘違いが解けてラインハルトがストーカーから解放される可能性も消えた。
*
何度か逡巡した後、セシルがもじもじと切り出した。
「あの。ラインハルト様。 警察で俺、お役に立ちましたよよね」
「ええ。流石はマクガーデン家ですね」
「ご褒美が……欲しいです」
遠回しにお前の力では無いと告げたのだが、セシルには通じなかった。
(嫌な予感がする)
先日、警察に被害届を提出しに行ったのだが、最初は取り合ってくれなかったのだ。
対応した警察官の言葉をわかりやすくまとめると「警察も暇じゃ無いんだ、大の大人が紙切れ一枚でガタガタ抜かすな」だった。
「もっと決定的な何かがあってから出直せ」とストーカー被害者への間違った対応のような言葉を放たれ、ラインハルトは門前払いされそうになった。
しかしそれに食ってかかったのが、真性ストーカー(前科持ち)のセシルである。
ラインハルトがマクガーデン家の婿候補であると告げ、キャンキャン吠えて一歩も退かなかった。
資産家のマクガーデン家に関わるとなると警察も無視することはできず、ラインハルトの届けは無事受理された。
「今日のお昼奢ります」
「デートのお誘いは嬉しいんですが、もっと特別なものが欲しいです」
頬を染めて上目遣いしてくるセシルに、軽くイラッとした。
(デートなんて一言も言ってないんだけど)
ラインハルトにとって負担が最も少ない御礼を提案したが却下された。
「ではディナー」
「大人のディナーですか!?」
「――は止めておきましょう」
セシルが目をキラキラさせて身を乗り出した。食後にナニを期待しているのだろう。
レストランと一緒にホテルを予約されかねない。
待ち受けているのは、濃厚な大人の一夜フルコースだ。自分の貞操がメインディッシュとか御免こうむる。
「俺のリクエストを言っても良いですか?」
「内容次第です。話を聞いてから判断します」
「ラインハルト様の聖液が飲みたいです」
せいえき。
いやまさか、そんなわけないよと思いつつ、ラインハルトは額に汗をかきながら聞き直した。
「……ちょっとなに言ってるのか、わからないです」
「ラインハルトの聖なる体液です。唾液か精液が飲みたいです」
確認作業の結果、より酷い結果が得られた。
(おおおおおおおああああああ!?!?)
聞き間違いであって欲しかったが、はっきり言い切られてしまった。
発想が完全にエロ同人だ。
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