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絶海の孤島編
来ちゃった♡
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フランシス邸4日目の朝。
朝食を終えると、ラインハルト達は暇になった。
本来であればビエルサによる個別聴取が行われるはずだったが怒涛の展開で、そもそも集計作業ができていない。
「あの、救助が来るまでの間、何かしたいです……よね?」
ラインハルトと同じくらいの年齢の男性が、控えめに挙手しながら発言した。チラリとビエルサに視線を向ける。
「そう……だな。何もする事が無いと時間が長く感じるもんな」
同意した男性もビエルサをチラ見した。
(ああ、フランシス・コレクションの続きを見たいのか)
顎に手を当て何か考えている様子のビエルサは、彼等の視線に気付いていない。
(暇を持て余して昨日の様になるのは避けたいな。生産的な事をした方が気が紛れるだろう)
ラインハルトがビエルサに声を掛けようとした時、静かな屋敷にノッカーの音が響いた。
「――き、気のせいだ」
顔を真っ青にした男性が言い聞かせる様に呟くが、彼の言葉を否定する様に音は続く。
「風。そうだ風で何かぶつかってるんだ! だって此方側には、俺達しか居ないはずなんだから!」
誰も出ないのに焦れているのか、音は徐々に大きくなってきた。
風で何かがぶつかった音では無い。何者かが意思を持って、屋敷の玄関を叩いている。
「いえ、誰か居ますね」
現実逃避しても事態は進展しない。
来訪者の存在を認めたラインハルトは、一緒に見に行く者を募ったが誰も応じなかった。
気が進まないが、使用人達の姿が見えないので彼は1人で玄関へ向かった。
来訪者は1人では無いようだ。
近付くにつれ扉越しに何やら会話する声が聞こえてくる。
その声に何だか聞き覚えがある気がしてラインハルトは勢いよく扉を開けた。
*
「ラインハルト様!」
満面の笑みのセシル。
その隣でニヤつきながらラインハルトの反応を観察するシグルド。
「来ちゃった(テヘ)」と今にも言い出しそうなセシルに、ラインハルトは眩暈がした。
(昭和ドラマのお家芸、彼女によるアポ無し凸かよ!)
それにしてもスケールがデカ過ぎる。ここは外国だ。
(なんてダイナミックなドッキリ!)
「ラインハルト様直々のお出迎えなんて嬉しいです! もしかして俺の声が聞こえたから来てくださったんですか?」
「え、ええ。まあ……」
そうと言えばそうなのだが、セシルの考えているものとはだいぶ違う。
「ラインハルト先生。どういう事ですか?」
いつの間にか彼の背後に居たビエルサが、警戒心全開で招かれざる客を睨む。
「うちの大学の生徒なんですが、僕にもさっぱり」
「まあまあ。こんな所で立ち話もなんだし、俺達の身元は先生が保証するんだ。家にあげてくれないか? 事情はお茶でも飲みながらゆっくり話すよ」
何故かシグルドが場を仕切り、ラインハルト達の同意を得ないまま屋敷に足を踏み入れた。大きなリュックを背負っているセシルと対照的に彼は手ぶらだ。
(いやマジで何で来たんだ? と言うか、どうやったんだ?)
しっかり会話した後なのに、まだラインハルトは目の前の2人の存在が信じられなかった。
真っ青な顔をしたビエルサが袖を掴んでいたので、ラインハルトは無意識のうちに頭を撫でた。
「ラインハルト様……そいつ誰ですか?」
「セシル君、失礼ですよ。彼はこの屋敷の主人です」
花が咲くような笑顔から一転して、セシルは冷たい目でビエルサを見下ろした。
大人気ない態度をとる彼をラインハルトは嗜めた。
セシル、シグルドの姿を見た招待客達は一様に顔を引き攣らせた。
ラインハルトが2人を紹介した後も緊張を解く様子はなく、誰も彼等に話しかけようとしなかった。
「まず聞きたいんですが、君達どうやってこの屋敷に辿り着いたんですか? 橋は焼け落ちていたでしょう?」
ラインハルトは動機については触れなかった。
理由は簡単、セシルがラインハルトのストーカーだからだ。
「そうなんですよ! だから頑張って登りました!」
(ファ!!!???)
「俺は寄宿舎抜け出して遊びに行ってたんで、あれくらいなら命綱無しでも余裕なんだ」
「シグルドが窓から出入りする所為で、俺達の部屋は2年目には最上階になったので高さ的にも同じくらいです」
「セシル君も夜遊びしてたんですか?」
異様な行動力の持ち主だが、不良には見えないのだが。
「まさか! 俺は一度も抜け出したりなんかしていません」
「あそこの岩場は登りやすかったよ。足場になるルートも多いし、滑りにくい岩なんで建物よりも楽勝だったな」
「シグルドの言う通り、人工物だと隙間を埋められて指が掛け難かったり、石が磨き上げられていて滑り易いですからね。俺は2階の高さしか経験ありませんが、今日の方が楽でした」
崖の攻略法について盛り上がる若者二人に対し、ラインハルトは全く笑えなかった。
「……」
大学でラインハルトにあてがわれた部屋は1階だが、フリート家にあるラインハルトの部屋は2階。
(どこの2階に登っていたのか怖くて追求できない)
全身に鳥肌が立った。
(戸締まりはしっかりしよう)
例え夏の寝苦しい夜であっても、しっかり窓を閉めようとラインハルトは決意した。
「……そうですか。怪我が無くて何よりですが、あまり危険なことはしないように」
「はい!」
無難な言葉で締め括っただけなのだが、セシルはラインハルトに心配されたと受け取ったようだ。嬉しそうに元気良く返事をした。
「あ。ラインハルト様! これ差し入れです! ロドストの料理ってあまり美味しく無いので、故郷の味をお持ちしました!」
背負っていた荷物から、どんどん食料を取り出すセシル。
ビエルサがこの館の主人である事を忘れたわけではあるまい。ラインハルトが関与した途端、彼からデリカシーという単語は消え去るらしい。
(しかし橋があった場所に降下したなら、絶対に遺体を目撃した筈だ)
いつも通り過ぎる彼等にラインハルトは戸惑った。
「君達も見たんじゃないですか? 橋の下でその……」
「ああ。あの変な人形?」
「派手な衣装でしたね。この国のアートですか?」
(遺体じゃない――!?)
朝食を終えると、ラインハルト達は暇になった。
本来であればビエルサによる個別聴取が行われるはずだったが怒涛の展開で、そもそも集計作業ができていない。
「あの、救助が来るまでの間、何かしたいです……よね?」
ラインハルトと同じくらいの年齢の男性が、控えめに挙手しながら発言した。チラリとビエルサに視線を向ける。
「そう……だな。何もする事が無いと時間が長く感じるもんな」
同意した男性もビエルサをチラ見した。
(ああ、フランシス・コレクションの続きを見たいのか)
顎に手を当て何か考えている様子のビエルサは、彼等の視線に気付いていない。
(暇を持て余して昨日の様になるのは避けたいな。生産的な事をした方が気が紛れるだろう)
ラインハルトがビエルサに声を掛けようとした時、静かな屋敷にノッカーの音が響いた。
「――き、気のせいだ」
顔を真っ青にした男性が言い聞かせる様に呟くが、彼の言葉を否定する様に音は続く。
「風。そうだ風で何かぶつかってるんだ! だって此方側には、俺達しか居ないはずなんだから!」
誰も出ないのに焦れているのか、音は徐々に大きくなってきた。
風で何かがぶつかった音では無い。何者かが意思を持って、屋敷の玄関を叩いている。
「いえ、誰か居ますね」
現実逃避しても事態は進展しない。
来訪者の存在を認めたラインハルトは、一緒に見に行く者を募ったが誰も応じなかった。
気が進まないが、使用人達の姿が見えないので彼は1人で玄関へ向かった。
来訪者は1人では無いようだ。
近付くにつれ扉越しに何やら会話する声が聞こえてくる。
その声に何だか聞き覚えがある気がしてラインハルトは勢いよく扉を開けた。
*
「ラインハルト様!」
満面の笑みのセシル。
その隣でニヤつきながらラインハルトの反応を観察するシグルド。
「来ちゃった(テヘ)」と今にも言い出しそうなセシルに、ラインハルトは眩暈がした。
(昭和ドラマのお家芸、彼女によるアポ無し凸かよ!)
それにしてもスケールがデカ過ぎる。ここは外国だ。
(なんてダイナミックなドッキリ!)
「ラインハルト様直々のお出迎えなんて嬉しいです! もしかして俺の声が聞こえたから来てくださったんですか?」
「え、ええ。まあ……」
そうと言えばそうなのだが、セシルの考えているものとはだいぶ違う。
「ラインハルト先生。どういう事ですか?」
いつの間にか彼の背後に居たビエルサが、警戒心全開で招かれざる客を睨む。
「うちの大学の生徒なんですが、僕にもさっぱり」
「まあまあ。こんな所で立ち話もなんだし、俺達の身元は先生が保証するんだ。家にあげてくれないか? 事情はお茶でも飲みながらゆっくり話すよ」
何故かシグルドが場を仕切り、ラインハルト達の同意を得ないまま屋敷に足を踏み入れた。大きなリュックを背負っているセシルと対照的に彼は手ぶらだ。
(いやマジで何で来たんだ? と言うか、どうやったんだ?)
しっかり会話した後なのに、まだラインハルトは目の前の2人の存在が信じられなかった。
真っ青な顔をしたビエルサが袖を掴んでいたので、ラインハルトは無意識のうちに頭を撫でた。
「ラインハルト様……そいつ誰ですか?」
「セシル君、失礼ですよ。彼はこの屋敷の主人です」
花が咲くような笑顔から一転して、セシルは冷たい目でビエルサを見下ろした。
大人気ない態度をとる彼をラインハルトは嗜めた。
セシル、シグルドの姿を見た招待客達は一様に顔を引き攣らせた。
ラインハルトが2人を紹介した後も緊張を解く様子はなく、誰も彼等に話しかけようとしなかった。
「まず聞きたいんですが、君達どうやってこの屋敷に辿り着いたんですか? 橋は焼け落ちていたでしょう?」
ラインハルトは動機については触れなかった。
理由は簡単、セシルがラインハルトのストーカーだからだ。
「そうなんですよ! だから頑張って登りました!」
(ファ!!!???)
「俺は寄宿舎抜け出して遊びに行ってたんで、あれくらいなら命綱無しでも余裕なんだ」
「シグルドが窓から出入りする所為で、俺達の部屋は2年目には最上階になったので高さ的にも同じくらいです」
「セシル君も夜遊びしてたんですか?」
異様な行動力の持ち主だが、不良には見えないのだが。
「まさか! 俺は一度も抜け出したりなんかしていません」
「あそこの岩場は登りやすかったよ。足場になるルートも多いし、滑りにくい岩なんで建物よりも楽勝だったな」
「シグルドの言う通り、人工物だと隙間を埋められて指が掛け難かったり、石が磨き上げられていて滑り易いですからね。俺は2階の高さしか経験ありませんが、今日の方が楽でした」
崖の攻略法について盛り上がる若者二人に対し、ラインハルトは全く笑えなかった。
「……」
大学でラインハルトにあてがわれた部屋は1階だが、フリート家にあるラインハルトの部屋は2階。
(どこの2階に登っていたのか怖くて追求できない)
全身に鳥肌が立った。
(戸締まりはしっかりしよう)
例え夏の寝苦しい夜であっても、しっかり窓を閉めようとラインハルトは決意した。
「……そうですか。怪我が無くて何よりですが、あまり危険なことはしないように」
「はい!」
無難な言葉で締め括っただけなのだが、セシルはラインハルトに心配されたと受け取ったようだ。嬉しそうに元気良く返事をした。
「あ。ラインハルト様! これ差し入れです! ロドストの料理ってあまり美味しく無いので、故郷の味をお持ちしました!」
背負っていた荷物から、どんどん食料を取り出すセシル。
ビエルサがこの館の主人である事を忘れたわけではあるまい。ラインハルトが関与した途端、彼からデリカシーという単語は消え去るらしい。
(しかし橋があった場所に降下したなら、絶対に遺体を目撃した筈だ)
いつも通り過ぎる彼等にラインハルトは戸惑った。
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