見合い相手が女装した男だった。しかも僕のストーカーらしい。

一一(カズイチ)

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文化祭殺人事件編

Xの独白

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 無様に倒れた男を〝 〟は見下ろした。

 頭部からゆっくりと血が流れ落ちていくのを観察するように、目に焼き付けるかのように凝視する。
 もう後戻りできない。
 心臓は早鐘をうち、体は細かく震えているが、それ以上に高揚している。

 ピクリともしない男だが、気絶しているだけという可能性もある。
 確実に死んだのか不安になり、脈を確認するか迷ったが踏みとどまった。
 脈は手袋越しではわからない。
 直接触れるのは絶対にダメだ。

 代わりに〝 〟は、もう一度手に持った鈍器を再度振り下ろした──。



〝 〟の両親はこの男に騙された。
 アイツの父親もだ。

 そんなアイツに対して〝 〟は勝手に同じ身の上だと親近感を抱いていた。
 自分を本当の意味で理解できる唯一無二の友だとすら思っていた。

 男に騙されて多額の借金を背負うことになった両親は、その重責に耐えられず首を括った。
 当時、一人残された〝 〟は、世間知らずの子供だった。
 相続拒否の存在を知らなくて、いいように親の借金を押し付けられた。
 無学で何の才能もない子供にできることなんてしれている。
 〝 〟は、その身を売って借金を返すことになった。
 その先で出会ったのが、アイツだった。

 親が同じ男に騙されたという共通点に〝 〟は心を許した。
 共に過ごした時間はわずかだったが、アイツを自分の理解者だと信じた〝 〟は全てを曝け出した。
 親にも言ったことがなかった、夢の話まで打ち明けた。

 でも二人の境遇は似ているだけで、決して同じではなかった──。

 アイツは父親が死んだが、母親は健在だった。
 一時的な借金を背負ったものの〝 〟に比べると少額だったのもあり、直ぐに返済して〝 〟の前から姿を消した。
 たまたま手に入れた大学案内で、その顔を見ることがなければ思い出すことも、激しい憎悪に身を焼かれることもなかっただろう。

 〝 〟より遥かに恵まれておいて、同類の仮面をかぶっていた卑怯者は、今では立派な学者として大手を振って生きている。
 過去なんて無かったようにスポットライトを浴びて、綺麗な笑顔を振りまいている。
 それに比べて自分は、何年も必死にもがいているのに泥沼のような世界から抜け出せないでいる。きっとこの先も、自分が日の当たる場所で生きることはない。

 人生の成功者と、敗北者。今となっては対極の人生でも、この男の被害者という点は同じ。

 すべての元凶である男に対して、今の〝 〟が抱いている思いは、水分が抜けてカラカラに乾いた泥のような憎しみだ。
 かつては顔を突き合わすだけで、平凡な家庭が壊れた日のことを思い出すだけで、腹の底でマグマのように熱が暴れたものだが今はもう残骸でしかない。

 実際にされたことは比べようもないのだが、今となってはアイツへの憎悪の方がずっと強い。

 この男に対して、アイツも殺害に至ってもおかしくない動機を持っている。
 否、アイツが動機を持っているから、この男を殺すことにした。
 〝 〟にとってこの男は、殺しても構わない人間という都合の良い存在だった。だから殺した。

「ふ、ふふふ……」

 訂正しよう。都合が良いから選んだはずなのに、男の死体を前にして〝 〟の心は晴れ渡る空のように清々しい。

 そして、これでアイツも終わりだと思うと笑いが止まらない。
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