見合い相手が女装した男だった。しかも僕のストーカーらしい。

一一(カズイチ)

文字の大きさ
38 / 39
文化祭殺人事件編

うん、知ってた

しおりを挟む
 文化祭二日目──。

 敷地内では引き続きお祭りムードが漂っていたが、文系棟だけは朝から異様な緊張感に包まれていた。
 出入り口に立つ男は、所々に赤いラインが入った騎士服を身に纏っている。

 騎士団は役割別に制服の色が違う。
 国防が黒、災害や火事といった救助活動が黄色、警察が赤だ。
 つまりこの場所は警察によって、立ち入りが制限されているということだ。

 物騒だなと思いながら、ラインハルトは求められるままに身分証を提示した。

「考古学科の先生ですか……。そう言えば、以前嫌がらせ程度でウチに駆け込んできた男がいましたが、もしかしてアンタですか?」
「市民の権利として、被害を届け出ただけです」

 中年警察官から値踏みするような視線を向けられて、ラインハルトは不快に感じた。



「おはようございます。……何かあったんですか?」

 ラインハルトが足止めを食らっていると、出勤してきたイブがその背に問いかけた。

「僕もちょうど来たところで、何がなんだか……。随分大仰ですが、一体何が起きたのか説明してくれませんか?」
「騒ぎを大きくしない為、この場ではお答えできません。入館前にこちらに指印をお願いします。拇印ではなく、すべての指ですよ」

 扉の前には、組み立て式の机が設置されていた。
 文化祭の屋台で使われているものと同じなので、大学が貸し出しのだろう。机上には無地の紙と朱印、手を拭くための布が並べられている。

「その行為に何の意味があるんですか?」

 手が汚れるのでイブは乗り気で無いようだ。

「これは捜査の一環です。他の皆さんは、快く応じられました。拒否されると貴女の為になりませんよ」
「拒否するとは言っていません。何故そのような事をしなければいけないのか、説明を求めているだけです」
「今の段階でお話しできることはありません」
「私はここの職員です。捜査に協力する代わりに、納得のいく説明をお願いします」

 食い下がるイブに、男があからさまに嫌そうな顔をした。

「しつこいな。……これだから学のある女は。自分が賢いと思い上がって、面倒くさいったらありゃしない」
「なっ──!」

 最初のラインハルトへの態度もそうだが、偏見を隠そうともしない。
 脅迫状の件で被害届を提出しに行った時もそうだったので、騎士団という組織が男性優位主義であり、また男とはかくあるべしとの考えが蔓延っているのだろう。

(可愛いアーサーがこんな連中に感化されたら耐えられない! いや待て、あの純粋無垢さで、周りの男どもに影響を与えていく展開ならむしろ王道──教育係、同期、先輩、上司……アーサーなら総愛されも夢じゃない!)

「何があったのか、差し支えない範囲で構わないので教えてくれませんか? 状況を把握していないと、うっかり騎士団のお邪魔をしてしまうかもしれないので……」

 既に彼の中でラインハルトは、男のくせに情けないヤツという扱いだ。
 ここは言い負かすよりも、対立を避けて情報を得た方が利口と、ラインハルトは妄想をそこそこに下手に出た。

「……一階の資料室で人が亡くなっていたんです。騒ぎ立てたり、現場には近づかないでくださいよ」
「そうですか。お勤めご苦労様です。これ以上お仕事の邪魔をしてはいけませんね。──さあイブさんも、一緒に行きましょう」

 イブを促し、二人で素早く指紋を提出した。
 真正面から侮辱された彼女は憤懣やるかたないだろうが、ここで争っても時間の無駄だ。



「あのっ、ラインハルト先生──!」
「え? ああ、すみません。勝手に触れてしまって……」

 焦ったようなイブの声に、ラインハルトは慌てて彼女の肩に回していた手を離した。
 警察相手に揉めるのは得策ではない。急いであの場を離脱しようと、強引にエスコートしてしまった。

「あっ、違うんです。そうじゃなくて、その……先生も、女が学問の道に進むのは生意気だと。私のことを賢しらな女だと思われますか?」

 流石に痴漢扱いはされないだろうが、男性から女性へ同意なしのボディタッチは非難されるかと覚悟したが、イケメン無罪らしい。

「思いません。学習能力に性差はありません。学問において、性別で制限を設けるのは反対です」

「先生は男女平等主義者でしたか」

「少し違いますね……僕は、肉体的な性差を認めています。男女で体の作りが違うのは当たり前のことなので、何でもかんでも男女平等にすべきだとは思いません。特定の職種で採用が難しかったり、採用条件に性別が考慮されるのは仕方ないと思います」

「……」

「その上で、個体差があることも無視してはいけないと考えています。必ずしもすべての男性が女性よりも頑強とは限りません。世の中には僕より力が強かったり、体力のある女性も存在します。その職種の男女比が偏ってる理由が能力依存なら、採用基準を満たしていれば男女関係なく採用すべきだと思います」

「……ラインハルト先生は変わってますね」

「僕の考えがマイノリティーかどうかはわかりません。社会学専攻とかなら別でしょうが、普段このような持論は話さないので……」

「そうですよね。……ありがとうございます。最近は減ってきたんですが、さっきみたいな態度を取られることは何度もあったので、時々不安になるんです。先生のような男性もいるとわかって、安心しました」

「自信を持ってください。僕は貴女を尊敬しています」

「……っ失礼します」

 笑みを浮かべようとして失敗したイブは、顔を背けると足早に去っていった。



**



 二日目だけ文化棟は閉鎖となったが、最終日は通常通りになった。
 ただし古文科の資料室だけは、文化祭が終了した今も立ち入り禁止が続いているので、そこが殺害現場なのだろう。

 結局詳細は伏せられたままだが、あの日何が起こったかは静かに広まっていた。

 ──死んだ人って、外部の人らしいよ……
 ──文化祭一日目の夜、警備員が施錠確認していたら、死体見つけたんだって……
 ──事故じゃないみたい……

 正式な発表がなされないままなので、嘘か誠かわからない情報が人から人へと伝わり、大学内で事件について知らない者は居なくなっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

率先して自宅警備員してたら宅配業者に両思い判定されてた話

西を向いたらね
BL
[配達員×実家暮らしニート] ・高梨悠斗 (受け) 実家住みのニート。常に家にいるため、荷物の受け取りはお手の物。 ・水嶋涼 (攻め) 宅急便の配達員。いつ荷物を届けても必ず出てくれる受けに対して、「もしかして俺のこと好きなのでは…?」となり、そのままズルズル受けの事が好きになる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

趣味で乳首開発をしたらなぜか同僚(男)が近づいてきました

ねこみ
BL
タイトルそのまんまです。

寝てる間に××されてる!?

しづ未
BL
どこでも寝てしまう男子高校生が寝てる間に色々な被害に遭う話です。

処理中です...