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矛盾した想い
矛盾した想い
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人混みの中を縫うように歩く。背後にはやっぱり千彰の気配があったが、都子は何も言わず黙々と足を進め続けた。
都子の問題発言のあと、がーんと大口を広げた千彰は、相当ショックを受けたのかしばらく口を利かなかった。その間に都子は無慈悲にも彼を放ってカフェを飛び出し、こうして道を歩き始めたのだが……結局、これではさっきと変わらない。
人通りが少ない道にやってくると、背後にいた気配が横に並んだ。
「ね……都子ちゃん」
何だかおそるおそる呼びかけてくる。顔を前に向けたまま都子は彼に返事を返した。
「都子ちゃんって……ブス専なの?」
「ブ……っ」
なんだそりゃ、と転けそうになった都子は少しだけ歩くスピードを緩めた。
「それだったら俺整形しなきゃいけないよね? 俺、かっこいいってよく言われるし」
千彰はすごいことをいたって普通に言ってのける。確かにかっこいい、けれど、自分でこんなことを言う人は初めて見た。
「やめてよ。整形なんかされたって責任取れないから」
「えー、何だよ、さっきと言ってることほんとに違うなあ。都子ちゃんが嫌だっていうとこ直そうと思ってるのに……俺、どーしたらいいか分かんないよ」
「だから、もう諦めてよ」
きっぱりと言うと、千彰はぶんぶんと首を振った。
「俺の運命の相手は都子ちゃんって決まってんの」
「は? 勝手に決めないでよ」
こいつの思考回路がどうなっているのか本当に知りたい。
都子は呆れたため息をつきつつ、千彰から顔を背けて口を開いた。
「だいたいあなたみたいな人なら女の子の方から嫌ってくらい寄ってくるでしょ。そういう子の方がかわいいし、わたしみたいにひねくれてないし、絶対お得だと思うけど」
ああ、自分で言っていて何だか悲しくなってきた。
でも、本当にこのひねくれようは自分でも辟易することがあるのだ。人が、信じられない。特に男は……
「何言ってんだよ。都子ちゃんはかわいいし、優しいし、俺にとっては天使みたいな女の子だよ。他の女の子なんかどうでもいい。だいたい、あいつらって俺の外見しか見てないし」
「ふーん……」
千彰が最後に見せた苦々しげな表情に、こいつにも悩みはあるのかと失礼なことを思った。
まあ、いい男がよく持つ悩みだ。でもそれを逆手にとって、女の子をたくさんはべらせて。飽きたら呆気なく捨てる。いくら本気になったって彼が自分だけを見てくれることなんてない。
知らず知らずのうちに脳は嫌な思い出を引っ張り出していた。慌ててその記憶を閉じこめようとするけれど、一度表に出てきてしまったものはなかなか元の引き出しの中に戻ってくれない。
苦しい。
痛い。
心が、痛い。
「……都子ちゃん?」
心配そうに覗き込んでくる千彰の声。
それを無視して都子は足を速めた。もう忘れたと思っていたのに。彼のことなんて、もう、こんなふうに思い出すはずじゃなかったのに。
角を曲がったところでぴたりと足が止まった。自然と顔が強張り、歪む唇をきつく結んだ。
どうして。
呼び出された記憶が、再生するように。
変わらぬ彼の姿が悲しみに揺れる都子の瞳に映っていた。
驚いたように目を見開く相手の表情。呆然と、彼は都子を見つめてきた。どうすることもできず、うつむいた都子は、自分の隣に千彰が並んだのをただ気配だけで感じ取っていた。
ああ、まだわたしは忘れられてないんだ。
泣きたくなった。
会いたくなかった。それでも、たまらなく会いたいと思っていた。
彼を瞳に映したときに溢れ出てきた正直な想い。その想いは、呆気ないほどに、固く閉じていたはずの心の鍵を粉々に砕きわった。
都子の問題発言のあと、がーんと大口を広げた千彰は、相当ショックを受けたのかしばらく口を利かなかった。その間に都子は無慈悲にも彼を放ってカフェを飛び出し、こうして道を歩き始めたのだが……結局、これではさっきと変わらない。
人通りが少ない道にやってくると、背後にいた気配が横に並んだ。
「ね……都子ちゃん」
何だかおそるおそる呼びかけてくる。顔を前に向けたまま都子は彼に返事を返した。
「都子ちゃんって……ブス専なの?」
「ブ……っ」
なんだそりゃ、と転けそうになった都子は少しだけ歩くスピードを緩めた。
「それだったら俺整形しなきゃいけないよね? 俺、かっこいいってよく言われるし」
千彰はすごいことをいたって普通に言ってのける。確かにかっこいい、けれど、自分でこんなことを言う人は初めて見た。
「やめてよ。整形なんかされたって責任取れないから」
「えー、何だよ、さっきと言ってることほんとに違うなあ。都子ちゃんが嫌だっていうとこ直そうと思ってるのに……俺、どーしたらいいか分かんないよ」
「だから、もう諦めてよ」
きっぱりと言うと、千彰はぶんぶんと首を振った。
「俺の運命の相手は都子ちゃんって決まってんの」
「は? 勝手に決めないでよ」
こいつの思考回路がどうなっているのか本当に知りたい。
都子は呆れたため息をつきつつ、千彰から顔を背けて口を開いた。
「だいたいあなたみたいな人なら女の子の方から嫌ってくらい寄ってくるでしょ。そういう子の方がかわいいし、わたしみたいにひねくれてないし、絶対お得だと思うけど」
ああ、自分で言っていて何だか悲しくなってきた。
でも、本当にこのひねくれようは自分でも辟易することがあるのだ。人が、信じられない。特に男は……
「何言ってんだよ。都子ちゃんはかわいいし、優しいし、俺にとっては天使みたいな女の子だよ。他の女の子なんかどうでもいい。だいたい、あいつらって俺の外見しか見てないし」
「ふーん……」
千彰が最後に見せた苦々しげな表情に、こいつにも悩みはあるのかと失礼なことを思った。
まあ、いい男がよく持つ悩みだ。でもそれを逆手にとって、女の子をたくさんはべらせて。飽きたら呆気なく捨てる。いくら本気になったって彼が自分だけを見てくれることなんてない。
知らず知らずのうちに脳は嫌な思い出を引っ張り出していた。慌ててその記憶を閉じこめようとするけれど、一度表に出てきてしまったものはなかなか元の引き出しの中に戻ってくれない。
苦しい。
痛い。
心が、痛い。
「……都子ちゃん?」
心配そうに覗き込んでくる千彰の声。
それを無視して都子は足を速めた。もう忘れたと思っていたのに。彼のことなんて、もう、こんなふうに思い出すはずじゃなかったのに。
角を曲がったところでぴたりと足が止まった。自然と顔が強張り、歪む唇をきつく結んだ。
どうして。
呼び出された記憶が、再生するように。
変わらぬ彼の姿が悲しみに揺れる都子の瞳に映っていた。
驚いたように目を見開く相手の表情。呆然と、彼は都子を見つめてきた。どうすることもできず、うつむいた都子は、自分の隣に千彰が並んだのをただ気配だけで感じ取っていた。
ああ、まだわたしは忘れられてないんだ。
泣きたくなった。
会いたくなかった。それでも、たまらなく会いたいと思っていた。
彼を瞳に映したときに溢れ出てきた正直な想い。その想いは、呆気ないほどに、固く閉じていたはずの心の鍵を粉々に砕きわった。
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