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ホントウの
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「んもう! どうしてこういうときに冷蔵庫空っぽなのよ……」
ぶつぶつ不平を言いながら、妃芽子は近くのスーパーへと走っていた。制服に、眼鏡を外した姿。着替える時間はなかった。
家に帰ると、そこには世話になっている母方の姉の家、高坂家の長男、妃芽子にとっては一つ年上にあたる俊樹の姿があった。俊樹は月に一度、妃芽子のところを尋ねてきた。アメリカに転勤してしまった両親のかわりだ。
妃芽子は一人暮らしだ。
父はある会社の常務取締役で、母はその秘書をしている。だから、父のアメリカ行きが決まったとき、母の転勤も必然的に決まった。
突然のことに、家族が戸惑ったのは言うまでもない。妃芽子はちょうど高校受験を終えたところで、無事第一志望に入学できることになっていた。妃芽子は日本を離れるのは嫌だったし、馴染みある友達と離れるのも苦しかった。結局、家族三人でよく話し合った上で妃芽子の一人暮らしが決まったのだ。
当初の予定では、高坂家にお世話になる予定だった。しかし、そこから妃芽子の通う高校までは片道二時間以上かかる。それを両親は考慮して、学校から徒歩十五分にあるマンション一室を妃芽子に買ってくれた。
両親から送られてくるお金は最小限にしてもらっていた。自分のわがままでこの学校へ来たのだから、甘えるわけにはいかない。週四回のバイトをしながら、妃芽子は生計を立てていた。
「はーあ。来るんだったら事前に教えてって言ってあるのに……」
スーパーで、俊樹にご馳走するための料理の材料を買い、急いで家へ戻る。近道に公園を使った。
そして、そこで出会った人物は思いもしない彼――藤沢直也だった。
ベンチに座っている彼に、妃芽子はまたもや思わず惹きつけられる。
直也は犬の散歩に来ているようだ。ベンチの下には、直也を見て嬉しそうに尻尾を振っている小さな犬の姿がある。それを、彼は優しそうな面持ちで見ていて、犬の背を撫でていた。学校では見たことのないその表情に、妃芽子は胸がぎゅっとなり、余計に惹きつけられた。
どれくらいぼーっとしていたのだろうか、ふと、妃芽子と直也の視線がぶつかった。
突然のことに妃芽子は狼狽した。しかしいつまでもこう慌ててもいられず、妃芽子は覚悟を決めて直也の方へ近付いた。先ほどから、彼から自分へ向けられる視線が妙に痛かった。
「……藤沢くん、散歩?」
「…………」
直也は妃芽子を見たまま黙った。思わず妃芽子も口をつむぐ。
もしかして、わたし、覚えられてないとか?
そんなことを思っていると、不意に直也が口を開いた。彼は少し驚いたような表情をしていた。
ぶつぶつ不平を言いながら、妃芽子は近くのスーパーへと走っていた。制服に、眼鏡を外した姿。着替える時間はなかった。
家に帰ると、そこには世話になっている母方の姉の家、高坂家の長男、妃芽子にとっては一つ年上にあたる俊樹の姿があった。俊樹は月に一度、妃芽子のところを尋ねてきた。アメリカに転勤してしまった両親のかわりだ。
妃芽子は一人暮らしだ。
父はある会社の常務取締役で、母はその秘書をしている。だから、父のアメリカ行きが決まったとき、母の転勤も必然的に決まった。
突然のことに、家族が戸惑ったのは言うまでもない。妃芽子はちょうど高校受験を終えたところで、無事第一志望に入学できることになっていた。妃芽子は日本を離れるのは嫌だったし、馴染みある友達と離れるのも苦しかった。結局、家族三人でよく話し合った上で妃芽子の一人暮らしが決まったのだ。
当初の予定では、高坂家にお世話になる予定だった。しかし、そこから妃芽子の通う高校までは片道二時間以上かかる。それを両親は考慮して、学校から徒歩十五分にあるマンション一室を妃芽子に買ってくれた。
両親から送られてくるお金は最小限にしてもらっていた。自分のわがままでこの学校へ来たのだから、甘えるわけにはいかない。週四回のバイトをしながら、妃芽子は生計を立てていた。
「はーあ。来るんだったら事前に教えてって言ってあるのに……」
スーパーで、俊樹にご馳走するための料理の材料を買い、急いで家へ戻る。近道に公園を使った。
そして、そこで出会った人物は思いもしない彼――藤沢直也だった。
ベンチに座っている彼に、妃芽子はまたもや思わず惹きつけられる。
直也は犬の散歩に来ているようだ。ベンチの下には、直也を見て嬉しそうに尻尾を振っている小さな犬の姿がある。それを、彼は優しそうな面持ちで見ていて、犬の背を撫でていた。学校では見たことのないその表情に、妃芽子は胸がぎゅっとなり、余計に惹きつけられた。
どれくらいぼーっとしていたのだろうか、ふと、妃芽子と直也の視線がぶつかった。
突然のことに妃芽子は狼狽した。しかしいつまでもこう慌ててもいられず、妃芽子は覚悟を決めて直也の方へ近付いた。先ほどから、彼から自分へ向けられる視線が妙に痛かった。
「……藤沢くん、散歩?」
「…………」
直也は妃芽子を見たまま黙った。思わず妃芽子も口をつむぐ。
もしかして、わたし、覚えられてないとか?
そんなことを思っていると、不意に直也が口を開いた。彼は少し驚いたような表情をしていた。
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