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第9話 ヒロインイベントっぽいもの(文化祭デート2)
しおりを挟む文化祭二日目は、殿下との約束は後夜祭だけだ。私たちは、当然お互いの髪色の花を身に着けることになっている。
それまでの時間はクラスの出し物に参加するのだが、二日目の占い師役は、殿下が嫌がるからと急遽変わってもらうことになり、クラスの子達に当然のように睨まれてしまった。
その代わり進んで裏方を引き受けた。あっちこっちこき使われて動き回っていたので、ある女生徒から校舎裏に呼び出された時も、その延長だとおもって疑わなかった。
「僕ローマンといいます。アシュリー先輩、あの、好きです」
超美形の男の子だった。ふわふわの金髪のくせ毛にきれいな緑の目のわんこ系の線の細い男の子が、瞳を潤ませてこちらを見上げている。攻略対象にでもなりそうなぐらいの完成度だ。さすが乙女ゲーム。モブもレベルが高い。
まあ、アシュリーの外見は、乙女ゲームヒロインだもんね。引き寄せられちゃうのも仕方ない。中身がこんなでごめんね。
「ありがとうございます。嬉しいです。でも、私、エルネスト様とお付き合いしておりますので」
あたりさわりのないお断りの言葉を返す。でも、彼は引き下がらなかった。
「王子殿下は、あと何か月かしたら隣国に帰られるのでしょう? 今は身分差がないことが推奨される学園内だから許されているだけで、そのあとは、わからないでしょう? それに、アシュリーさん、本気じゃないじゃないですか」
私は、はっと息をのむ。
他人に気づかれるだなんて思ってもみなかった。
「以前、あなたに失くしてしまった楽譜を探すのを手伝ってもらったんです。その時から好きでした。あなたをずっと見てました」
そういえば、そんなことがあったな。え? でもあれって、アシュリー黒髪おさげ瓶底眼鏡バージョンだよ?
「文化祭で告白しようと思ってたのに、殿下が現れて。でも、アシュリーさんを見ていて、本気じゃないのかもって思い始めてて。本気じゃないなら、殿下が隣国に帰った後でいいです。僕と付き合ってください」
ちょっと感動してしまった。
外見じゃない私を見ていてくれて、そして、今の私を演技だと見抜いているなんて。
嬉しくて涙が出そうになる。
でも、私には「やりたいこと」がある。
ごめんね、譲れないの。
「ありがとう。でも――」
「残念だけど、それは無理だね」
私が続ける前に冷ややかな声が降ってくる。
私達が話している校舎裏に、殿下が現れた。
ゆっくり近づいてくる。
刺すような視線が痛い。
「アシュリーは僕のものだよ。君には渡せないよ」
嫉妬に燃えるようなぎらつく光を宿して、エルネスト殿下は、私を抱きしめると、――そのまま、私の唇を奪った。
後夜祭。
私は、初めてのキスに驚いて、エルネスト殿下と何を話していいかわからなくなってしまった。
殿下も目の奥に昏い光を灯したまま何も言わない。
私は、昨日の今日なのに、また殿下の手を煩わせてしまった。きっとお怒りなのだ。私のせいでキスまでさせる羽目になってしまった。
私のキスと王子のキスでは比べ物にならないくらい価値が違う。
きちんと謝るべきだろう。
「申し訳ありません。またお手を煩わせてしまいました」
「君は、きちんと見張っておかないといけないみたいだね」
その日、殿下はそれ以上、一言も口をきいてくれなかった。
彼の信頼を失ってしまったのかもしれない。
私達に言葉はなく、後夜祭の間中ずっと一緒にいて、打ち合わせ通りにお互いの花を交換し、見つめ合ってダンスをした。
◇◇◇◇◇◇
「わ、私、アシュリー様のお教え通り、たこ焼きをアウグスト殿下におすすめしようとしたところ、で、殿下が、毒見をご所望になったのです。それで、私、端を少しかじりましたの。そ、そうしましたら、殿下ったら、私が口をつけたそれを、そのまま口に運ばれてしまって……きゃー、もう、私、私」
毒見の件が気になってクリスティーネ様にこっそり会いに行った所、クリスティーネ様は、真っ赤になって話してくれた。
ええっと、この様子はあれだね。いやあ、うん、上手くいってよかった。
後夜祭では、四人の同志たちは皆、攻略対象と告白を交わし、お互いの花を身に着けダンスをしたようだ。ほぼ攻略完了までの目途は立ったといっていいだろう。
これでやっと肩の荷が下りた。
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