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第一部 どうせ逃げられないのなら
第4話 勇者と娘
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私は、ドラゴンの父と、人間の母との間に生まれた。
力は弱く、身体も一回り小さい。母の才能を受け継いで精神系の魔法はなかなかの腕前だが、力が全てのドラゴンの世界では、あまり価値がなかった。
強き者を敬い従うドラゴンの性質は本能的なもので、里では私自身は常に従うことを求められる立場だった。でも、半分は人間の私はその本能的な部分との折り合いが上手くつけられず、里にいづらくなって、成人すると里を出て一人で暮らすことにした。
父母の反対を押し切って得た一人の生活は心地よく、私はあの森で精神的な自由を満喫していた。
そんな中、今代の勇者のドラゴン討伐に関する情報が流れてきたのだ。
勇者――その存在はドラゴンの天敵と言ってもよい。
ドラゴンの里の子供は皆、幼い頃から「勇者」に関する昔語りを聞かされて育つ。
勇者の一族には数世代に一人、必ずドラゴン討伐に赴くものが現れる。
犠牲になるのは、年若い女のドラゴンが多く、勇者に捕らえられ、帰ってきた者はいない。
ドラゴンの体は、人間にとって妙薬となりうる。生き血は若返りの薬に、爪や牙は剣に、皮は鎧に。生き胆を食べると不死になるとも言われているのだとか。
捕らえられると隷属の魔法をかけられ、生きたまま血を搾り取られ、生き胆を食われ、死後はその体を武器に防具にと使い倒される。
勇者にとって、ドラゴンは狩りの獲物と同じなのだ。
遠い寓話のように思っていた出来事が、急に現実のものとして近づいてきたことに怯えたが、それでもまだ遠い世界の出来事だった。
里の父母は私を呼び戻そうと何度も便りを送ってきた。里は人が感知できない結界に守られていて勇者と言えども近づくことはできないのだ。でも、里での不自由な生活と天秤にかけて、私は森に残ることを選んだ。
――そして、四カ月前のあの日、私達は出会ってしまった。
その日、私はドラゴンの姿で、獲物を追っていた。
この地域に住む、大型のイノシシを捕らえ、爪で押さえつけ、首に牙を立てその息の根を止めたところだった。滴る血に酔って、警戒を怠っていた。
その一刀を避けられたのは運がよかっただけだ。
鋭く、力強く、押し切るかのような一太刀。
目の前をかすめるそれは、光の尾を引いて、美しく流れていった。
その剣跡に魅せられたかのように、私は、王子に挑みかかった。
ドラゴンの戦う者としての本能が私を駆り立て、立ち向かわずにはいられなかった。
私達は、お互いに会話もなく、定められたかのように戦闘に突入した。
私は正直、「勇者」がここまで圧倒的な強さを持つとは思っていなかった。
逃げる事すら許されず、私は地面にたたきつけられ、背中を踏みつけられ、地に這いつくばった。
「レッドドラゴンか。名は?」
「人間風情に名乗る名などない」
思えば、この時、戦いの中で既に私は魅せられていたのだ。
ドラゴンの本能が、強者を、この男を求めてやまない。
でも、同時に、人間の本能が、私を死に追いやる強者を恐怖する。
「っ……!」
まずい。
私の体の竜化が解けかけていた。
人と竜との間の私の体は、力が衰えると、竜の体を維持できなくなるのだ。
そして、人の姿へと変化する。
王子は、自分の足元で女へと姿を変える私の姿を見て、さすがに驚いたようだった。呆然と見開く紫の瞳と、私の目が合う。
王子の精神は、一瞬、本当に無防備な状態だった。
今なら。
「忘却の闇に攫われよ」
私は、私の持ちうる最高の精神魔法を、瞳があった王子に向けて放った。
力は弱く、身体も一回り小さい。母の才能を受け継いで精神系の魔法はなかなかの腕前だが、力が全てのドラゴンの世界では、あまり価値がなかった。
強き者を敬い従うドラゴンの性質は本能的なもので、里では私自身は常に従うことを求められる立場だった。でも、半分は人間の私はその本能的な部分との折り合いが上手くつけられず、里にいづらくなって、成人すると里を出て一人で暮らすことにした。
父母の反対を押し切って得た一人の生活は心地よく、私はあの森で精神的な自由を満喫していた。
そんな中、今代の勇者のドラゴン討伐に関する情報が流れてきたのだ。
勇者――その存在はドラゴンの天敵と言ってもよい。
ドラゴンの里の子供は皆、幼い頃から「勇者」に関する昔語りを聞かされて育つ。
勇者の一族には数世代に一人、必ずドラゴン討伐に赴くものが現れる。
犠牲になるのは、年若い女のドラゴンが多く、勇者に捕らえられ、帰ってきた者はいない。
ドラゴンの体は、人間にとって妙薬となりうる。生き血は若返りの薬に、爪や牙は剣に、皮は鎧に。生き胆を食べると不死になるとも言われているのだとか。
捕らえられると隷属の魔法をかけられ、生きたまま血を搾り取られ、生き胆を食われ、死後はその体を武器に防具にと使い倒される。
勇者にとって、ドラゴンは狩りの獲物と同じなのだ。
遠い寓話のように思っていた出来事が、急に現実のものとして近づいてきたことに怯えたが、それでもまだ遠い世界の出来事だった。
里の父母は私を呼び戻そうと何度も便りを送ってきた。里は人が感知できない結界に守られていて勇者と言えども近づくことはできないのだ。でも、里での不自由な生活と天秤にかけて、私は森に残ることを選んだ。
――そして、四カ月前のあの日、私達は出会ってしまった。
その日、私はドラゴンの姿で、獲物を追っていた。
この地域に住む、大型のイノシシを捕らえ、爪で押さえつけ、首に牙を立てその息の根を止めたところだった。滴る血に酔って、警戒を怠っていた。
その一刀を避けられたのは運がよかっただけだ。
鋭く、力強く、押し切るかのような一太刀。
目の前をかすめるそれは、光の尾を引いて、美しく流れていった。
その剣跡に魅せられたかのように、私は、王子に挑みかかった。
ドラゴンの戦う者としての本能が私を駆り立て、立ち向かわずにはいられなかった。
私達は、お互いに会話もなく、定められたかのように戦闘に突入した。
私は正直、「勇者」がここまで圧倒的な強さを持つとは思っていなかった。
逃げる事すら許されず、私は地面にたたきつけられ、背中を踏みつけられ、地に這いつくばった。
「レッドドラゴンか。名は?」
「人間風情に名乗る名などない」
思えば、この時、戦いの中で既に私は魅せられていたのだ。
ドラゴンの本能が、強者を、この男を求めてやまない。
でも、同時に、人間の本能が、私を死に追いやる強者を恐怖する。
「っ……!」
まずい。
私の体の竜化が解けかけていた。
人と竜との間の私の体は、力が衰えると、竜の体を維持できなくなるのだ。
そして、人の姿へと変化する。
王子は、自分の足元で女へと姿を変える私の姿を見て、さすがに驚いたようだった。呆然と見開く紫の瞳と、私の目が合う。
王子の精神は、一瞬、本当に無防備な状態だった。
今なら。
「忘却の闇に攫われよ」
私は、私の持ちうる最高の精神魔法を、瞳があった王子に向けて放った。
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