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出戻り妃の妹分1
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詩吟の会の準備は着々と進んでいた。
今年の会の主題は「風花雪月」
これに沿った内容の詩吟を皇帝陛下の前で披露し、一番の作品を皇帝陛下が選ぶのが催しの目玉だ。
これは非常に名誉なことなので、著名な吟詠家や、詩吟の得意な妃嬪、文官なども参加する。
会には事前に多くの詩吟が集められるが、宇春たち女官のところに届くことになっているのは、事前に選び抜かれたものだけだ。
今年は岑貴妃も作品を応募したのだと聞いている。
「ああ、忙しい忙しい」
「め、妹妹には、たくさん苦労をかけちゃって、ごめんね」
両手いっぱいの荷物を抱えた妹妹のつぶやきを聞きとめて、作業場で小刀を手に格闘をしていた宇春は顔を上げる。
「宇春様。違うんですよ! あいつらのせいです。岑貴妃の侍女ったら、私が大事な材料を運んでいる最中だってのに、わざと足をかけて転ばせたんです。おかげで、材料が汚れちゃって、もう一度取りに行く羽目になって」
「困ったわね。ど、どうしよう。今は儲秀宮のみんなが一丸となって進めてほしいのに」
「きっと、岑貴妃の出したっていう詩吟が落とされたんですよ。それでイライラしてたのに違いありません。っていうより、宇春様、また紅が取れてます。引き直しますから」
「え、で、でででも今日は作業だけだから」
「そんなこと言わずに!」
「宇春、妹妹」
「女官長様」
現れた女官長に連れられて作業場の外に出た宇春は、女官長から告げられた内容に驚きの声を上げた。
「え? 私が詩吟の会の女主人役を務めるのですか?」
「やりましたね! 宇春様」
「ええ。陛下のたってのご希望なの。今回の会を仕切っているのが宇春だということをお知りになったのね。あなたは昨年の成功の立役者でもあるし。その方がよりよい会になるだろうとのお言葉よ」
詩吟の会の女主人役は、会の説明をし、進行をとりしきる司会役のようなものだ。
人を惹きつける話し方や見た目、途中のトラブルに対応する臨機応変さが必要になってくる。
「そ、そんな私無理です。昨年は岑貴妃が女主人役をされました。私なんかじゃ皆さん、ご満足されないかと思います」
「妹妹、紅を」
「はい、ただいま!」
「え? えええ??」
側にいた妹妹に紅をひかれると、宇春の気持ちがすっと静まった。
ゆっくりと目を閉じて開くと、心が決まる。
「受けてくれるわね。宇春」
「ええ、もちろんです。皆の役に立つと決めてここに来たのですもの。ご期待に添えるよう、全力を尽くしますわ」
「それでこそ宇春様です!」
女官長と妹妹の喜ぶ顔に、自然と宇春の笑みが漏れる。
妹妹が、最近やたらと紅を引きたがるのは、元の宇春のままだと劉のことを思い出して落ち込んでしまうのを知っているからだ。
(優しい子)
この優しくて愛らしい妹分の為にも、宇春は会を成功させようと心に決める。
この時、誰かがこの会話を聞いていたのだと、知ることもないままに。
そして詩吟の会の前日。
──妹妹が池に突き落とされた。
今年の会の主題は「風花雪月」
これに沿った内容の詩吟を皇帝陛下の前で披露し、一番の作品を皇帝陛下が選ぶのが催しの目玉だ。
これは非常に名誉なことなので、著名な吟詠家や、詩吟の得意な妃嬪、文官なども参加する。
会には事前に多くの詩吟が集められるが、宇春たち女官のところに届くことになっているのは、事前に選び抜かれたものだけだ。
今年は岑貴妃も作品を応募したのだと聞いている。
「ああ、忙しい忙しい」
「め、妹妹には、たくさん苦労をかけちゃって、ごめんね」
両手いっぱいの荷物を抱えた妹妹のつぶやきを聞きとめて、作業場で小刀を手に格闘をしていた宇春は顔を上げる。
「宇春様。違うんですよ! あいつらのせいです。岑貴妃の侍女ったら、私が大事な材料を運んでいる最中だってのに、わざと足をかけて転ばせたんです。おかげで、材料が汚れちゃって、もう一度取りに行く羽目になって」
「困ったわね。ど、どうしよう。今は儲秀宮のみんなが一丸となって進めてほしいのに」
「きっと、岑貴妃の出したっていう詩吟が落とされたんですよ。それでイライラしてたのに違いありません。っていうより、宇春様、また紅が取れてます。引き直しますから」
「え、で、でででも今日は作業だけだから」
「そんなこと言わずに!」
「宇春、妹妹」
「女官長様」
現れた女官長に連れられて作業場の外に出た宇春は、女官長から告げられた内容に驚きの声を上げた。
「え? 私が詩吟の会の女主人役を務めるのですか?」
「やりましたね! 宇春様」
「ええ。陛下のたってのご希望なの。今回の会を仕切っているのが宇春だということをお知りになったのね。あなたは昨年の成功の立役者でもあるし。その方がよりよい会になるだろうとのお言葉よ」
詩吟の会の女主人役は、会の説明をし、進行をとりしきる司会役のようなものだ。
人を惹きつける話し方や見た目、途中のトラブルに対応する臨機応変さが必要になってくる。
「そ、そんな私無理です。昨年は岑貴妃が女主人役をされました。私なんかじゃ皆さん、ご満足されないかと思います」
「妹妹、紅を」
「はい、ただいま!」
「え? えええ??」
側にいた妹妹に紅をひかれると、宇春の気持ちがすっと静まった。
ゆっくりと目を閉じて開くと、心が決まる。
「受けてくれるわね。宇春」
「ええ、もちろんです。皆の役に立つと決めてここに来たのですもの。ご期待に添えるよう、全力を尽くしますわ」
「それでこそ宇春様です!」
女官長と妹妹の喜ぶ顔に、自然と宇春の笑みが漏れる。
妹妹が、最近やたらと紅を引きたがるのは、元の宇春のままだと劉のことを思い出して落ち込んでしまうのを知っているからだ。
(優しい子)
この優しくて愛らしい妹分の為にも、宇春は会を成功させようと心に決める。
この時、誰かがこの会話を聞いていたのだと、知ることもないままに。
そして詩吟の会の前日。
──妹妹が池に突き落とされた。
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