ネイビーブルー・カタストロフィ――誰が○○○を×したか――

古間降丸

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4 エロ魔王に訊いてみな(その5)

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「ここなのです」
 静刻とギィアは特別教室棟の一番奥にいた。
 見上げる扉にかかっているプレートは“倉庫”。
 もちろん静刻自身はここへ入ったことはないが、隣接する部屋との配置から構造上やむを得ずできてしまった余剰スペースに扉を付けて物置にしているだけの狭小な部屋であることは容易に想像できた。
「なんか……違うんじゃねえか?」
 ギィアは左の手のひらから投影されている校内配置図に目を凝らす。
「でも確かにこの部屋へ集められているのです。ここが“敵の隠れ家”に違いないのです」
 確かにすべての光点はこの倉庫にある。
 それは何者かが回収したブルマをここに持ち込んだことを示している。
 ギィアが三次元カッターを取り出し、きちきちと刃を繰り出す。
 が、その時、静刻は扉の向こう――倉庫の中にかすかな物音を、人の気配を感じた。
 無言でギィアがカッターを持つ右手を押さえる。
 ギィアもまた静刻の意図を悟り、おとなしく従う。
 静刻はドアノブを握り、静かにひねる。
 なめらかに回転するその感触から施錠されていないことがわかる。
 そこでひとまず手を止め、ギィアを見る。
 ギィアが無言で頷く。
 静刻が静かに扉を開く。
 同時に中にいた女生徒が驚いたように顔を向けた。
「小幌か、おどかさないでよー」
 “完璧超人”――船引和江だった。
 和江は笑いながら手にしていたブルマをコンテナボックスへと放り込む。
 そして、突っ立っている静刻とギィアを見比べる。
「どうしたの?」
「いや、えーと、その、なのです」
「前を通りかかったら中に誰かいる感じだったから――」
 予想外の展開にうろたえるギィアのとなりで静刻が首を伸ばして、たった今和江がブルマを投げ込んだコンテナを見る。
「――船引はなにやってんだ」
「落とし物見つけたから持ってきた」
 ブルマを投げ込んだコンテナを見下ろす。
 “落とし物保管箱”と書かれたプレートが貼られたコンテナボックスの中にはギィアの仕込んだブルマがすべて入っていた。
 和江が持ってきた時点で、すでに他のブルマも、別の生徒や教師の手によってここへ回収されていたらしい。
「どういうことなのかしらね。ブルマばっかり」
 思案顔で首を傾げる。
「どどどどどういうことなのでしょうなのです」
 あからさまにしどろもどろなギィアに和江が微笑む。
「おもしろいね、ギィアちゃんって」
「そ、それほどでもないのです」
 和江は改めてコンテナを見下ろす。
「でも、本当になんなのかしら……あ」
 和江はひらめいたようにはっとした顔でギィアを見る。
「泥棒が盗んだの捨てていったとか」
 その言葉に、今度はギィアと静刻がはっとする。
「ぬ、盗まれたこととかあるのです?」
 しかし、和江は――。
「私? ない、ない」
 そう言って笑う。
「でもニュースとかで下着泥棒とかいるんだから、ブルマ泥棒がいてもおかしくないと思わない?」
 “ね?”と言わんばかりの表情を不意に向けられて静刻はどう答えたものかと逡巡する。
 その隙にギィアが返す。
「ブルマとパンツは違うものなのですっ」
「同じようなものよ――」
 和江がそう言って倉庫を出ようと扉へ向かう。
 その進路を塞ぐ格好になっている静刻が半歩、身体をずらせて、和江の退室を促す。
 和江は静刻の前を通り過ぎざま、ぽつり。
「――こんないやらしいもの」
 その言葉に反応したのは静刻。
「いやらしい目で見られたことがあるのか」
 船引は立ち止まり、静刻を振り返る。
 そして、なにか言おうと口を開きかけたが、結局なにも言わず、そのままターンして倉庫を出て行った。
 ふたりだけになった倉庫でギィアが興奮気味に静刻へ声を掛ける。
「いいいいい今の言葉は“いやらしい目で見た者がいる”ことの証言なのですっ、ですっ」
 しかし、静刻は同意を保留する。
 さっきの船引の表情になにか奇妙な違和感を覚えたからに他ならない。
 船引はなにを言おうとしたのだろう。
 いや。
 船引はなぜ答えを躊躇ったのだろう。
 ギィアはそんな静刻には構わず――
「次の作戦なのですっ」
 ――コンテナのブルマを鷲づかみにして不敵に笑う。
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