ネイビーブルー・カタストロフィ――誰が○○○を×したか――

古間降丸

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4 エロ魔王に訊いてみな(その11)

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「ますますわからなくなったな」
「はいなのです」
 静刻はギィアのとなりでオペレーションルームのソファに身体を沈め、背もたれに体重を預けて目の高さに掲げたエロネタランキングを眺める。
 校内のどこにもブルマに対する男子生徒からのエロ目線は存在しなかった。
 つまりこのランキングはまちがってなどいなかった。
 さらに第六エロ魔王による考察では、この先においてもブルマに対するエロ目線が生じる可能性は低いという。
 たとえ、エロアイテムという側面が都会からテレビニュースを通じてやってくるとしても、それがブルマに対するエロ目線を発生させる原因にはなり得ないという。
 それでも――
 一旦、思考を中断し、ちらりととなりのギィアを見る。
 ギィアも静刻と同じように身体を沈め、背もたれに体重を預けてぼんやりと天井を見上げている。
 その様子を見ながら思考を再開する。
 ――ネイビーブルー・カタストロフィは確実に起きる。
 改めて整理する。
 男子のエロ認識が意識間移動によって女子に伝わり、それが理由でブルマは女子から否定されネイビーブルー・カタストロフィに発展していった。
 が、そもそもの発端である“ブルマに対するエロ認識”が、どこにも存在していないことが確認されてしまった。
 ではなぜネイビーブルー・カタストロフィが発生したのだ?
 そこがわからない。
 船引和江は確かに“いやらしいもの”と言った。
 その認識はエロ目線固有のものだ。
 しかし、そのエロ目線が校内のどこにも存在しない、ブルマはエロアイテムとして認知されていない。
 にもかかわらず和江は“いやらしいもの”と言ったのだ。
 なぜ? なぜ? なぜ?
 静刻はため息をつき、改めてランキングを見る。
 “順位”があって、“項目名”があって、そして、“数値”が書かれている。
 もちろん“順位”は“数値”の大きい順である。
 ちなみに一番上は“巨乳店員”であり、一番下は“その他”となっている。
 となりでギィアもため息をつく。
 室内の雰囲気が重く、淀んできていることを感じた静刻は換気代わりにと口を開く。
 いまさら訊くまでもないだろう――と思いつつ、天井を仰ぎ見ながら訊いてみる。
「この“数値”だけどさ」
 ギィアもまた天井を見たまま答える。
「はいなのです」
「単位はなんだ」
「そのエロネタを支持している男子生徒の数なのです」
「ふーん」
 適当に答えて気付く。
 そして、背もたれから身体を起こす。
「いや、待て」
「どうかしたのです?」
 まだぼんやりと天井を見上げているギィアに問い質す。
「“人数”なんだな」
「他になにがあるのです?」
 やっとギィアが静刻を見る。
「“執着の強さ”を数値化したとか」
「違うのです。“人数”なのです」
 ギィアは“いまさらかよ”とばかりにため息をつきながら、再度、天井を見上げる。
 が、静刻の――
「だったら説明がつくじゃないか」
 ――その一言に身体を起こし、静刻を見る。
「どういうことなのです?」
「ここだ」
 そう言ってびしいとランキングの一点を指差す。
 そこに書かれているのは“その他”。
「第六エロ魔王が言ってただろ。“日常”にエロを見いだすヤツが常に少数派として存在してるって。“日常”のブルマにエロを見いだす者が存在する可能性はゼロじゃないって。逆に言えば、ブルマにエロを見いだす者が存在するのならそれは常に少数派ってことじゃないか。つまり、このランキングでは一番下の“その他”でひとくくりにされてるのが当たり前のはずだ」
「それはないのです」
 ギィアがすかさず返す。
「ランキングで“その他”に括られるていどの少人数では意識間移動を生じさせるほどのエネルギーは確保できないのです」
 男子生徒の抱いたエロ妄想が男子生徒の顕在意識から潜在意識を経て集合無意識に到達し、それが女子生徒の潜在意識を通じて女子生徒の顕在意識で認識され、ブルマに対する嫌悪感を生じさせた――それがネイビーブルー・カタストロフィの原因だったはずである。
 ギィアが言うのは男子の顕在意識から女子の顕在意識へ伝播するには莫大なエネルギーが必要であり、それを確保するには多くの男子生徒がブルマをエロアイテムとして認識している必要があるということだ。
 しかし――静刻は考える。
「とは限らないんじゃないか。もし、少数派でありながら多数派に匹敵するほどの、いわゆるチート級のエロ執着を持つ者がいたと考えればどうだ」
 言ってる意味がわからないと首を傾げるギィアへ続ける。
「意識間移動に必要なエネルギーがたとえば百だとして、ひとりあたりのエネルギーが平均で一なら百人が必要になる。でもひとり当たりのエネルギーが百ならひとりで十分だ。必ずしも多数派である必要はない」
「ということは……どういうことなのです?」
「異常なまでに強烈なエロ妄執を持つごく一部の男子生徒が存在するのなら、このランキングにブルマが出てこないにもかかわらずネイビーブルー・カタストロフィが発生する説明が付く。ていうか、そう考えないと説明が付かない。あとはそのチート野郎がどうやって音源の効能から逃げたかさえ説明が付けば」
「それは簡単なのです」
 ギィアがあっさり答える。
「あの音源はカビ取り剤みたいなものなのです」
「カビ取り……剤?」
 思わぬ言葉に静刻が眉をひそめる。
「あくまでも“モノノタトエ”なのです。第二放送室から流したのは“表面のカビを拭き取る”レベルのもの、すなわち“軽微なエロ執着に広く作用するタイプ”だったのです。このタイプを採用した理由は“エロ目線の主が多数派”だと想定したためです。でも、もしそんな強烈な“根の深いエロ執着を持つ者”が存在したとしたなら、音源が効いてない可能性は十分にあるのです。なのでそういうタイプには“根こそぎタイプ”の音源を聞かせればいいのです」
 そこまで言うと、不意に言葉を切ってじっと静刻の目を覗き込むように見つめる。
 その様子に戸惑う静刻にギィアが答える。
「今、“なんで最初からそれ使わないんだよ”と思ったのでしょう? 理由があるのです。“理由その一”として未来から過去へ送れる物資には上限があるのです。なのでできるだけローグレードなもので済ませたいのです。たとえばファージ凝固ガスみたいにグレードの低いものを初期装備として、必要に応じてハイグレードなものを追加で用意する、みたいな」
「な、なるほど」
「“理由その二”として仕様上、音源の“表面拭き取りタイプ”は広く不特定に聞かせれば効果が得られるのに対し、“根こそぎタイプ”は効果が大きい分、特定した相手へ集中的に聞かせる必要があるのです。だから表面拭き取りタイプだけを初期装備として用意してきてたのです。おわり」
「よしっ」
 ギィアの言い訳めいた解説を聞き終えた静刻は、右の拳を左の手のひらにぱちんと合わせる。
「上位にブルマがランクインしていない理由、にもかかわらずネイビーブルー・カタストロフィが発生した理由、そして、音源の効果がなかった理由。ここまで矛盾なくつながった――正解かどうかは断言できないけど」
 とは言いつつも、静刻の中には根拠のない確信めいたものがある。
「これが正解ならあとは明日にでも“隠れブルフェチ”を特定して、“根こそぎタイプの音源”を聞かせれば、今度こそネイビーブルー・カタストロフィを回避できる――かも」
 向けた目線の先で、ギィアの目が燃えている。
「明日まで待たないのです。今夜中に終わらせるのです」
 静刻はその迫力に気圧されながらも“まあ、落ち着け”とばかりに声を掛ける。
「いや、もう、みんな帰ってるし」
「“秘密兵器”が、あるのです」
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