ネイビーブルー・カタストロフィ――誰が○○○を×したか――

７ ネイビーブルー・カタストロフィ（その３）

　階段を上がって角を曲がったすぐ先に第二放送室があった。
　静刻はこれまで何度かギィアがやったのを思い出しながらきちきちと三次元カッターの刃を繰り出し、扉へ縦一直線の切り込みを入れる。
「これでいい、はず」
　その切り込みに両手を差し入れ、左右に開く。
　厚く重い防音扉がゴムでできているかのようにびよ～んと開いた。
「よし」
　ひとりしかいないのにいちいち口に出してしまうのは、歴史改変をこれから自身の手で果たすことによる緊張と高揚によるものだろう。
　開いた裂け目に身体をねじ込んで、第二放送室へと侵入する。
　室内は最初に来た時のまま、なんの変わりもない。
　続いて入ってきた円盤型万能ロボが放送機材に自身から垂れ下がったコードを触手のように這わせて操作方法を解析している。
　最初にこの部屋で見た円盤と同一の個体である以上、なんらかの事情で都度の解析が必要なのだろう、単純に記録装置がないだけなのかもしれないが。
　そんなことを考えながらぼんやりと解析を待つ静刻のアタマによぎるのは、オルゴールの旋律が流れる部屋に現れて以来、ずっと自分を振り回し続けてきたギィアのこと。
　ネイビーブルー・カタストロフィを回避するために泣いて笑って怒って落ち込んで慌ててうろたえて放心して……刻々と変わり続けたギィアの表情が、静刻の脳裏に浮かんでは消える。
　ギィアと一緒に過ごした日々はもうすぐ終わる。
　ネイビーブルー・カタストロフィは回避され、歴史は変わるのだ。
「そして、オレは元の生活へ戻り、ギィアは――」
　無意識に口にして、思考が止まる。
　そして、ギィアは……ギィアは……ギィアは？