サンタクロース株式会社のクリスマス

K.C

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第1話:12月19日・秘密の契約書

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 レイラがその音を聞いたのは、もう夜の十一時を過ぎたころだった。

 かちり、と小さく鳴るドアの音。  ひそひそと、抑えた声。

 いつもなら、とっくに眠っている時間だ。でもその日は、なぜか眠れなかった。胸の奥が、ちくちくしていたからだ。

 クリスマスまで、あと六日。

 学校では、もう何週間も前からその話ばかりだった。サンタさんが来るかどうか。プレゼントは何か。良い子にしていないと、来てくれないらしい、という話。

 レイラは八歳だ。  サンタクロースを、信じているかと聞かれたら、正直に言えば、よくわからなかった。

 いるような気もするし、いないような気もする。  でも、もし本当にいるのなら――会ってみたい、とも思っていた。

 だから、その夜の音が気になった。

 ベッドからそっと抜け出して、廊下に出る。床は冷たくて、足の裏がひやりとした。

 リビングのドアは、少しだけ開いていた。

 中では、両親が小さな声で話している。

「……今年は、どうする?」 「もう時間がないわ。規約が……」 「でも、あの子は……」

 レイラは、息を止めた。

 両親は、スマートフォンを机の上に置いて、画面をのぞき込んでいた。知らない文字が並んでいる。赤と白の、見慣れないマーク。

 電話が終わると、父は深くため息をついた。

「……仕方ないな」

 母は、うつむいたまま、うなずいた。

 レイラは、その場に立ち尽くしていた。

 どうして、隠れて話すの?  どうして、こんなに悲しそうなの?

 疑問は、胸の中でふくらんでいった。

 次の日。

 両親が仕事に出かけたあと、レイラはリビングに戻った。昨日と同じ机の上に、ノートパソコンが置きっぱなしになっている。

 よくないことだ、とわかっていた。  でも、知りたかった。

 そっと電源を入れると、画面には昨夜のページがそのまま残っていた。

『サンタクロース株式会社 家庭連携契約書』

 レイラは、目を見開いた。

 ゆっくり、文字を追っていく。

 ――本契約は、対象となる子どもが誕生した時点で締結されるものとする。  ――契約期間中、サンタクロース株式会社は年次イベント「クリスマス配送」を行う。

「……イベント?」

 知らない言葉が多かったけれど、意味は、だんだんわかってきた。

 サンタクロースは、一人じゃないこと。  会社であること。  クリスマスは、年に一度の大きな仕事であること。

 レイラの指は、次の項目で止まった。

 ――子ども本人に本契約の存在、または配送主体を認識された場合、契約は自然解除とする。

「……え?」

 自然解除。

 その下には、はっきりと書いてあった。

 ――解除後、当該家庭は配送対象外となる。

 胸の奥が、ぎゅっと縮んだ。

 つまり。

 見てしまったレイラは、もう……。

 続きを読む。

 ――なお、契約解除後も、保護者が独自にプレゼントを用意することを禁ずるものではない。

 画面が、にじんだ。

「じゃあ……」

 サンタさんは、いる。  でも、来ないこともある。

 大人の決まりごとで。

 レイラは、パソコンを閉じた。

 胸の中に、言葉にできない気持ちが広がっていく。

 信じてたのに、裏切られた、とは少し違う。

 ただ――

「大人って、ずるい」

 ぽつりと、こぼれた。

 その瞬間だった。

 胸の奥で、何かが、もぞりと動いた。

 黒い影。

 それは、まだ小さくて、形もはっきりしない。でも、確かにそこにあった。

 レイラは、それに気づかないふりをして、カーテンを開けた。

 外は、冬の夜。

 星は少なく、空は静かだった。

 ――クリスマスまで、あと五日。

 その夜、レイラは夢を見なかった。

 ただ、胸の奥の影だけが、静かに、息をしていた。
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