18 / 40
妖精の名前
しおりを挟む
「ラルフさん。おめでとうございます」
二度目の来店で使い魔の契約者になったラルフに、ビビアナはニッコリ微笑んだ。
ビビアナから見たラルフは、爽やか系の整った顔をしていて、話していても真面目さがよく分かる、いい青年だと思う。真面目さ故か、笑った顔を見たことがないが、使い魔を大切にしてくれそうな人だ。
ラフな服装をしているが、立派な剣を持っていることと、動きの俊敏さから、騎士かな……とビビアナは心の中で思う。
「この子の種類はクロスパピヨン。契約名はマリンです」
海色の羽をした蝶が頭上をフヨフヨと飛ぶ。
なかなか降りて来ないクロスパピヨンのマリンを、ビビアナとタンクはドキドキしながら見守った。
以前、このクロスパピヨンは契約主に拒まれたことがある。もう人間を信用しないのではないかと心配していたが、こうしてまた現れてくれた。
ラルフはポカンとした顔でマリンを見つめている。
「魔蝶……俺の使い魔……」
呟いた声に、ビビアナは少し不安になって、ラルフの顔色を伺った。
大丈夫だろうか。
またマリンが傷つくことにならないだろうか。
タンクもじっと見つめている。
ラルフが空中に手を差し出す。すると、引き付けられるかのように、手のひらに止まった。
「お前、綺麗だな。海の色だ」
笑顔さえなかったが、目尻が若干柔らかくなった。
ビビアナはホッと息をついた。ラルフならマリンを任せて大丈夫そうだ。
「クロスパピヨンは幻覚効果の高い鱗粉が特徴です。
鱗粉に細かい刺状の鱗粉を混ぜて、相手にダメージを与えることも出来ます。一度食らえば、十年は痛みが持続するでしょう。対人間には、拷問になってしまいますね。
基本的に大人しい種類ですので、マリンも幻覚、催眠などの方が得意です」
「小さいのに、優秀だな」
反応は悪くないが、先ほどと違ってラルフの表情が固い。
やはり気に入らなかったのだろうか。
「ラルフさん。どうかしましたか?」
「俺は……職業柄、危険な戦場にも行くこともある。綺麗で繊細な魔蝶が危険かも知れない」
まだ出会ったばかりのマリンの心配をする辺り、誠実さを感じる。
(何だか私、マリンの恋人を値踏みしているみたいだな……)
マリンは確かに見た目は繊細で、空中では風圧に弱い。しかしマリンはただの蝶ではなく、れっきとした魔蝶だ。見た目ほど弱くはない。
「ラルフさん。外に出ましょうか。マリンの能力を試してみましょう」
外に出ると、マリンはヒラヒラと飛んだ。太陽の光が青い羽をキラキラ輝かせた。
「ラルフさんは戦場に連れて行くのが心配と言っていましたが……おいで、マリン」
ヒラヒラと降りて来てビビアナの手首に止まった。
ビビアナは腕を勢いよくグルグルとマリンごと回す。かなり激しく腕を回して見せた後、ふぅと息をはいて腕を止めた。
マリンは最初と同じようにビビアナの腕にくっついたままだ。
「ほら。激しく動いても、マリンは離れないので大丈夫ですよ」
マリンはヒラヒラ飛んで、ラルフの腕に止まった。最初は怖々ゆっくりと、次第に激しく腕を動かして試している。
「剣を持つ時は、頭や胸に着けてもリボンみたいでいいと思いますよ。試してみましょうか。
タンクお願いね」
「ガゥ」
タンクが森の中に走って行った。
「魔狼はいったい何を?」
「ふふふっ。少し協力をお願いしました。すぐ戻って来ますよ」
すぐにタンクは戻って来た。タンクの後を追って、ホルンラビット三匹走って来る。
「魔狼が魔兎に追いかけられているなんて……」
ラルフが驚いたのは、ホルンラビットよりデスウルフの方が圧倒的に強者だからだ。相当手負いのデスウルフならともかく、元気いっぱいのタンクがホルンラビットに近付いたら、それだけで一目散に逃げ出すのが普通だった。タンクは軽快にピョンピョン跳ねながら、ホルンラビットの攻撃をかわす。
「ふふふっ。私がタンクに適当な魔物を連れて来るようにお願いしたんですよ。わずかな殺気も出さずにホルンラビットを挑発する……なかなか器用なんですよ、うちのタンクは。
それじゃあマリンの出番だよ」
マリンはラルフの腕からヒラヒラ飛んで頭の上にとまった。マリンの身体が光り、辺りが一瞬グラリと揺れる。
「な、なんだ? いつの間に……?」
地面が一瞬にして水分を含んだ湿地に変わっていた。靴が水に取られて一歩一歩が重い。
「どういうことだ? さっきまでただの地面だったのに……」
「マリンが得意な幻術です。今回は、私のイメージを元にしているので、あまり精巧にいかなくてすみません。本当の湿地ならもっとぬかるんでカエルの鳴き声とかしてもよさそうですよね」
言った瞬間、足下がぬかるんで、カエルの鳴き声が聞こえた。
「……これが幻術。野生のクロスパピヨンは精々、森の中で人間を迷わせるくらいの力しかないはず……」
「ふふふっ。マリンは使い魔ですから、野生のクロスパピヨンとは一味違いますよ」
「確かに……現実と区別がつかないな」
靴の中に水が染み込む感触も、靴の底に泥が絡む感触も、水辺特有の匂いもする。これが幻術だなんて、言われなければ気がつかないだろう。
「あまり長くは持ちませんが、私の貧相なイメージの幻術でも、足止めくらいは出来るはず……。ほら、ホルンラビットの動きが鈍くなった」
ピョンピョンとタンクを追いかけていた三匹のホルンラビットは、ぬかるんだ湿地に足を取られてバシャバシャと水の音をさせて、軽快に動くことが出来ないでいた。
「ラルフさんまで幻術の影響がでてしまってますね。これは私のイメージ不足です。マリン、ホルンラビットだけ足止めして」
湿地の見た目は変わっていないのに、ラルフのぬかるんだ足下が普通の地面のように固くなった。踏みならして見ても、水の音も泥が絡み付くこともなくなった。
水が染み込んで、ぐちゅぐちゅ不快だった靴の中も、もとの通り乾いた状態に戻った。
「すごいな……」
「マリンの幻術は主のイメージを正解に表現します。今後はラルフさんの発想力でいろいろな幻術を作ることが出来ますよ。精神耐性が強い相手には幻術は効きづらいこともありますが……魔物には大抵有効です。
ラルフさん、マリンをくっつけたまま、あのホルンラビットをやっつけちゃって下さい」
「分かった。行くぞ、マリン」
マリンを頭にくっつけたまま、剣を抜いて走り出す。
さすがの身のこなしで、ホルンラビットを一匹瞬殺する。バシャッと水を散らして飛び上がった二匹目をヒラリと交わし、背後から突進しようとする三匹目を叩き切った。
本来ホルンラビットはピョンピョンと身軽に動いて敵を翻弄する魔物だが、マリンの幻術で動きの鈍った状態では、ラルフの敵ではない。
あっという間に三匹とも仕留め、ニッと口角を上げた。
「いい具合だ。お前のおかげで戦闘が楽になりそうだ」
マリンはヒラヒラ飛んでラルフの手のひらにとまる。
グラリと視界が一瞬揺らいで、辺りの様子が元の森の中に戻った。
「ふふふっ。マリン、どうでした?」
「美しいうえに戦闘の補助も出来るとは、素晴らしいと思う」
「良かったです。マリンという名は契約名なので、ラルフさんが新しい名前をつけてあげて下さいね」
「名前か……」
青く美しい羽を持つ魔蝶。繊細でか弱い見た目に反して、見事な幻術を見せてくれた。
クロスパピヨンは色のバリエーションが豊富で、野生でも様々な色がいる。その中でも、マリンの青い羽はとびきり美しいとラルフは思う。
青い羽を見つめながら、一つの名前が頭に浮かんだ。
青い色を意味する、澄んだ泉に住むと言われる妖精の名前。
「キュアネ」
クロスパピヨンのマリンはこの瞬間、ラルフの使い魔、キュアネになった。
「ねぇタンク。マリンの契約主が決まって良かったね。ラルフさん、いい人だし、きっと大事にしてくれるね」
タンクの毛をワシワシ撫でながら、ビビアナはマリンのことを考えていた。
「キュアネ……か。ふふふっ。青い泉の妖精の名前をつけるなんて、ラルフさんも見かけによらずロマンチックだよね。
頭に乗ってるとリボンみたいで……可愛かったね。すごく似合ってた。でも……」
その先を口に出しそうになって、慌てて口をつぐんだ。もっと似合う人をビビアナは知っている。
マリンに契約主が決まったこと、素敵な名前をつけてもらったことを伝えたくてたまらない。
(…………リュカに)
実は……セイレーンに消されたはずの記憶は、何故か何もなくなってはいなかった。
ビビアナにはリュカの記憶が全部ある。
マオの記憶も全部ある。
卵の秘密の記憶も全部ある。
記憶が消えなければセイレーンに命を消されるということも、全て覚えている。
(セイレーンは私の記憶を消したと思ってる。でも実際は全部覚えてる。これって……絶対に口に出したらまずいよね)
リュカの名前を口に出したら、ビビアナの記憶が消えていない事がセイレーンにバレるだろう。
(バレたら絶対、殺される!)
セイレーンにとってはビビアナの命を取るのは、花を摘むのと同じくらい簡単な事だろう。
(魔族にとって人間は餌だって言ってたし!)
リュカがいなくなる前、しばらく留守にすると言っていた。きっとこの家に戻って来るはずだ。リュカが戻って来るまで、記憶が消えていない事をセイレーンにバレないようにしなくては。
小さくため息をついて、タンクを撫でる。
「……ねぇタンク。この家って、こんなに静かだったっけ」
ほんの数ヶ月前まで、タンクと二人で暮らして来たはずなのに、リュカがいないだけで、胸にポッカリ穴が空いたような気分になるのはなぜだろう。
タンクの首に抱きつくと、タンクがキューと喉を鳴らした。
「あれ? タンクも?」
タンクも同じような気持ちを感じているのかもしれない。甘えるようにビビアナの頬に顔を擦り付けた。
「……寂しいね」
二度目の来店で使い魔の契約者になったラルフに、ビビアナはニッコリ微笑んだ。
ビビアナから見たラルフは、爽やか系の整った顔をしていて、話していても真面目さがよく分かる、いい青年だと思う。真面目さ故か、笑った顔を見たことがないが、使い魔を大切にしてくれそうな人だ。
ラフな服装をしているが、立派な剣を持っていることと、動きの俊敏さから、騎士かな……とビビアナは心の中で思う。
「この子の種類はクロスパピヨン。契約名はマリンです」
海色の羽をした蝶が頭上をフヨフヨと飛ぶ。
なかなか降りて来ないクロスパピヨンのマリンを、ビビアナとタンクはドキドキしながら見守った。
以前、このクロスパピヨンは契約主に拒まれたことがある。もう人間を信用しないのではないかと心配していたが、こうしてまた現れてくれた。
ラルフはポカンとした顔でマリンを見つめている。
「魔蝶……俺の使い魔……」
呟いた声に、ビビアナは少し不安になって、ラルフの顔色を伺った。
大丈夫だろうか。
またマリンが傷つくことにならないだろうか。
タンクもじっと見つめている。
ラルフが空中に手を差し出す。すると、引き付けられるかのように、手のひらに止まった。
「お前、綺麗だな。海の色だ」
笑顔さえなかったが、目尻が若干柔らかくなった。
ビビアナはホッと息をついた。ラルフならマリンを任せて大丈夫そうだ。
「クロスパピヨンは幻覚効果の高い鱗粉が特徴です。
鱗粉に細かい刺状の鱗粉を混ぜて、相手にダメージを与えることも出来ます。一度食らえば、十年は痛みが持続するでしょう。対人間には、拷問になってしまいますね。
基本的に大人しい種類ですので、マリンも幻覚、催眠などの方が得意です」
「小さいのに、優秀だな」
反応は悪くないが、先ほどと違ってラルフの表情が固い。
やはり気に入らなかったのだろうか。
「ラルフさん。どうかしましたか?」
「俺は……職業柄、危険な戦場にも行くこともある。綺麗で繊細な魔蝶が危険かも知れない」
まだ出会ったばかりのマリンの心配をする辺り、誠実さを感じる。
(何だか私、マリンの恋人を値踏みしているみたいだな……)
マリンは確かに見た目は繊細で、空中では風圧に弱い。しかしマリンはただの蝶ではなく、れっきとした魔蝶だ。見た目ほど弱くはない。
「ラルフさん。外に出ましょうか。マリンの能力を試してみましょう」
外に出ると、マリンはヒラヒラと飛んだ。太陽の光が青い羽をキラキラ輝かせた。
「ラルフさんは戦場に連れて行くのが心配と言っていましたが……おいで、マリン」
ヒラヒラと降りて来てビビアナの手首に止まった。
ビビアナは腕を勢いよくグルグルとマリンごと回す。かなり激しく腕を回して見せた後、ふぅと息をはいて腕を止めた。
マリンは最初と同じようにビビアナの腕にくっついたままだ。
「ほら。激しく動いても、マリンは離れないので大丈夫ですよ」
マリンはヒラヒラ飛んで、ラルフの腕に止まった。最初は怖々ゆっくりと、次第に激しく腕を動かして試している。
「剣を持つ時は、頭や胸に着けてもリボンみたいでいいと思いますよ。試してみましょうか。
タンクお願いね」
「ガゥ」
タンクが森の中に走って行った。
「魔狼はいったい何を?」
「ふふふっ。少し協力をお願いしました。すぐ戻って来ますよ」
すぐにタンクは戻って来た。タンクの後を追って、ホルンラビット三匹走って来る。
「魔狼が魔兎に追いかけられているなんて……」
ラルフが驚いたのは、ホルンラビットよりデスウルフの方が圧倒的に強者だからだ。相当手負いのデスウルフならともかく、元気いっぱいのタンクがホルンラビットに近付いたら、それだけで一目散に逃げ出すのが普通だった。タンクは軽快にピョンピョン跳ねながら、ホルンラビットの攻撃をかわす。
「ふふふっ。私がタンクに適当な魔物を連れて来るようにお願いしたんですよ。わずかな殺気も出さずにホルンラビットを挑発する……なかなか器用なんですよ、うちのタンクは。
それじゃあマリンの出番だよ」
マリンはラルフの腕からヒラヒラ飛んで頭の上にとまった。マリンの身体が光り、辺りが一瞬グラリと揺れる。
「な、なんだ? いつの間に……?」
地面が一瞬にして水分を含んだ湿地に変わっていた。靴が水に取られて一歩一歩が重い。
「どういうことだ? さっきまでただの地面だったのに……」
「マリンが得意な幻術です。今回は、私のイメージを元にしているので、あまり精巧にいかなくてすみません。本当の湿地ならもっとぬかるんでカエルの鳴き声とかしてもよさそうですよね」
言った瞬間、足下がぬかるんで、カエルの鳴き声が聞こえた。
「……これが幻術。野生のクロスパピヨンは精々、森の中で人間を迷わせるくらいの力しかないはず……」
「ふふふっ。マリンは使い魔ですから、野生のクロスパピヨンとは一味違いますよ」
「確かに……現実と区別がつかないな」
靴の中に水が染み込む感触も、靴の底に泥が絡む感触も、水辺特有の匂いもする。これが幻術だなんて、言われなければ気がつかないだろう。
「あまり長くは持ちませんが、私の貧相なイメージの幻術でも、足止めくらいは出来るはず……。ほら、ホルンラビットの動きが鈍くなった」
ピョンピョンとタンクを追いかけていた三匹のホルンラビットは、ぬかるんだ湿地に足を取られてバシャバシャと水の音をさせて、軽快に動くことが出来ないでいた。
「ラルフさんまで幻術の影響がでてしまってますね。これは私のイメージ不足です。マリン、ホルンラビットだけ足止めして」
湿地の見た目は変わっていないのに、ラルフのぬかるんだ足下が普通の地面のように固くなった。踏みならして見ても、水の音も泥が絡み付くこともなくなった。
水が染み込んで、ぐちゅぐちゅ不快だった靴の中も、もとの通り乾いた状態に戻った。
「すごいな……」
「マリンの幻術は主のイメージを正解に表現します。今後はラルフさんの発想力でいろいろな幻術を作ることが出来ますよ。精神耐性が強い相手には幻術は効きづらいこともありますが……魔物には大抵有効です。
ラルフさん、マリンをくっつけたまま、あのホルンラビットをやっつけちゃって下さい」
「分かった。行くぞ、マリン」
マリンを頭にくっつけたまま、剣を抜いて走り出す。
さすがの身のこなしで、ホルンラビットを一匹瞬殺する。バシャッと水を散らして飛び上がった二匹目をヒラリと交わし、背後から突進しようとする三匹目を叩き切った。
本来ホルンラビットはピョンピョンと身軽に動いて敵を翻弄する魔物だが、マリンの幻術で動きの鈍った状態では、ラルフの敵ではない。
あっという間に三匹とも仕留め、ニッと口角を上げた。
「いい具合だ。お前のおかげで戦闘が楽になりそうだ」
マリンはヒラヒラ飛んでラルフの手のひらにとまる。
グラリと視界が一瞬揺らいで、辺りの様子が元の森の中に戻った。
「ふふふっ。マリン、どうでした?」
「美しいうえに戦闘の補助も出来るとは、素晴らしいと思う」
「良かったです。マリンという名は契約名なので、ラルフさんが新しい名前をつけてあげて下さいね」
「名前か……」
青く美しい羽を持つ魔蝶。繊細でか弱い見た目に反して、見事な幻術を見せてくれた。
クロスパピヨンは色のバリエーションが豊富で、野生でも様々な色がいる。その中でも、マリンの青い羽はとびきり美しいとラルフは思う。
青い羽を見つめながら、一つの名前が頭に浮かんだ。
青い色を意味する、澄んだ泉に住むと言われる妖精の名前。
「キュアネ」
クロスパピヨンのマリンはこの瞬間、ラルフの使い魔、キュアネになった。
「ねぇタンク。マリンの契約主が決まって良かったね。ラルフさん、いい人だし、きっと大事にしてくれるね」
タンクの毛をワシワシ撫でながら、ビビアナはマリンのことを考えていた。
「キュアネ……か。ふふふっ。青い泉の妖精の名前をつけるなんて、ラルフさんも見かけによらずロマンチックだよね。
頭に乗ってるとリボンみたいで……可愛かったね。すごく似合ってた。でも……」
その先を口に出しそうになって、慌てて口をつぐんだ。もっと似合う人をビビアナは知っている。
マリンに契約主が決まったこと、素敵な名前をつけてもらったことを伝えたくてたまらない。
(…………リュカに)
実は……セイレーンに消されたはずの記憶は、何故か何もなくなってはいなかった。
ビビアナにはリュカの記憶が全部ある。
マオの記憶も全部ある。
卵の秘密の記憶も全部ある。
記憶が消えなければセイレーンに命を消されるということも、全て覚えている。
(セイレーンは私の記憶を消したと思ってる。でも実際は全部覚えてる。これって……絶対に口に出したらまずいよね)
リュカの名前を口に出したら、ビビアナの記憶が消えていない事がセイレーンにバレるだろう。
(バレたら絶対、殺される!)
セイレーンにとってはビビアナの命を取るのは、花を摘むのと同じくらい簡単な事だろう。
(魔族にとって人間は餌だって言ってたし!)
リュカがいなくなる前、しばらく留守にすると言っていた。きっとこの家に戻って来るはずだ。リュカが戻って来るまで、記憶が消えていない事をセイレーンにバレないようにしなくては。
小さくため息をついて、タンクを撫でる。
「……ねぇタンク。この家って、こんなに静かだったっけ」
ほんの数ヶ月前まで、タンクと二人で暮らして来たはずなのに、リュカがいないだけで、胸にポッカリ穴が空いたような気分になるのはなぜだろう。
タンクの首に抱きつくと、タンクがキューと喉を鳴らした。
「あれ? タンクも?」
タンクも同じような気持ちを感じているのかもしれない。甘えるようにビビアナの頬に顔を擦り付けた。
「……寂しいね」
0
あなたにおすすめの小説
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした
エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ
女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。
過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。
公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。
けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。
これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。
イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん)
※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。
※他サイトにも投稿しています。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
能天気な私は今日も愛される
具なっしー
恋愛
日本でJKライフを謳歌していた凪紗は遅刻しそうになって全力疾走してたらトラックとバコーン衝突して死んじゃったー。そんで、神様とお話しして、目が覚めたら男女比50:1の世界に転生してたー!この世界では女性は宝物のように扱われ猿のようにやりたい放題の女性ばっかり!?そんな中、凪紗ことポピーは日本の常識があるから、天使だ!天使だ!と溺愛されている。この世界と日本のギャップに苦しみながらも、楽観的で能天気な性格で周りに心配される女の子のおはなし。
はじめて小説を書くので誤字とか色々拙いところが多いと思いますが優しく見てくれたら嬉しいです。自分で読みたいのをかいてみます。残酷な描写とかシリアスが苦手なのでかかないです。定番な展開が続きます。飽き性なので褒めてくれたら続くと思いますよろしくお願いします。
※表紙はAI画像です
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
敵国に嫁いだ姫騎士は王弟の愛に溶かされる
今泉 香耶
恋愛
王女エレインは隣国との戦争の最前線にいた。彼女は千人に1人が得られる「天恵」である「ガーディアン」の能力を持っていたが、戦況は劣勢。ところが、突然の休戦条約の条件により、敵国の国王の側室に望まれる。
敵国で彼女を出迎えたのは、マリエン王国王弟のアルフォンス。彼は前線で何度か彼女と戦った勇士。アルフォンスの紳士的な対応にほっとするエレインだったが、彼の兄である国王はそうではなかった。
エレインは王城に到着するとほどなく敵国の臣下たちの前で、国王に「ドレスを脱げ」と下卑たことを強要される。そんなエレインを庇おうとするアルフォンス。互いに気になっていた2人だが、王族をめぐるごたごたの末、結婚をすることになってしまい……。
敵国にたった一人で嫁ぎ、奇異の目で見られるエレインと、そんな彼女を男らしく守ろうとするアルフォンスの恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる