たまご屋の卵は何が生まれるか分からない

りんご飴

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使い魔になれなかった魔物

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「お帰り、タンク」

 今朝タンクが持って来た卵は一個だけ。
 ここ最近、孵卵器がいっぱいになるくらいの卵を持って帰って来ていたことを考えると、今日は少ない。そういえば昨日は久しぶりに卵なしの日だった。

「あれ? 何を持っているの? お土産?」

 口に咥えている小さな物体に気が付いた。
 タンクは時々、魔物の肉をお土産に持って来てくれることがある。今回もそれかと思ったが、様子がおかしい。

「どうしたの?」

 タンクは居心地悪そうにその場でグルグル回る。やがて観念して咥えていた物を放した。

 タンクが咥えていたのは、小さな小さなネズミの魔物だ。弱ってグッタリしている。生存競争に負けたのだろうか。

「この子……野生じゃない?」

 何か野生の魔物と違う気がする。
 弱々しく開かれた瞳には、契約紋はない。
 契約主に捨てられたなら、瞳に契約紋が残っているはずだ。完全に契約紋がないということは、契約主を亡くしたか、そうでなければ、たまご屋が契約紋を刻むことを拒んだか。

「どうして弱ってるんだろう……。タンクが見つけた時からこんな感じだったの?」

「……ガゥ……グゥ」

「…………ふむ。元々弱っていたけど、逃げたから追いかけ回して、よけいにグッタリした……ってとこ?」

「……ガゥ」

 タンクの言葉が分かるわけではない。しかし長い付き合いから何となく伝わる。

「とりあえず外傷はないみたいだから、ゆっくり休ませて様子見だね」

 小さな小さな魔鼠を両手でそっと包んで、柔らかいブランケットの上に寝かせた。

 見たところ、種類はザップラットのようだ。使い魔なら色変わりが当たり前だが、このザップラットは山吹色一色で、野生の個体と変わらない見た目をしている。

「……もしかして、この子はオコ……?」

 使い魔として卵から孵化しても、稀に野生の個体と変わらない能力しか持っていない魔物がいる。愚かな使い魔という意味で『オコ』と呼ばれることもある。
 たまご屋の中には、オコには契約紋は刻まないと言う者もいるらしい。
 ビビアナはまだオコに出会ったことはないが、能力が劣るから放置することには疑問を感じる。
 かと言って、そのたまご屋を責めることは出来ない。
 客は使い魔の能力を求めてたまご屋にやって来る。そこにオコが現れたら……気に入らないと捨てられたり、不当に害されたりする可能性が高くなる。
 通常の使い魔は高い能力で一方的に害されることはないが、オコは違う。野生の個体と変わらないザップラット程度なら、平民でも駆除出来てしまうほど弱いのだ。

「この子が持っている能力がどんな物か分かればいいんだけど……」

 孵したたまご屋なら、ある程度の能力は把握出来る。ビビアナが孵していないザップラットの能力は全く分からないのだ。

「元気になったら、検証しようか。タンクも手伝ってね」

 少し責任を感じているらしいタンクは、グッタリと横たわるザップラットに寄り添った。






「タンク! ザップラットをちゃんと見てて!」

 元気になったザップラットは、ビビアナの足元をチョロチョロと絡み付く。

「チチュィ~~!」

「こら、落ち着きなさぁい!」

 あまりにも小さなザップラットは、踏みつけてしまいそうで気が気ではない。
 小さく弱い魔物でも、ザップラットは電撃を得意とする魔物だ。長いしっぽを踏んだりしたら、ビリッと来るのだ。
 実際にビビアナは一度踏んで痛い目を見た。

 卵を手に持っている時に、足元をチョロチョロされてはたまらない。

「タンク~~っ。卵落としちゃうよ~~っ」

 素早く動くザップラットをパクリと咥えたタンクは、外に出ていく。

 ようやく落ち着いて
作業が出来るようになった。ザップラットの襲撃から守った卵を持ったまま椅子に座る。

 今、孵化するのは一つだけだ。
 白地に上半分だけピンク色の卵を触ると、ポカポカと温かい。小刻みにブルブル動いている。

「いい感じね。大丈夫だよ。出ておいで」

 声に反応したのか、ビビアナの手から力を感じとったのか、大きくグラリと揺らぐ。

 パキパキッ、パキパキッ。

 上から順に細かくヒビが入っていく。全体的にヒビが入った時、クシャリと一瞬で殻が潰れた。

 潰れた殻の上に、黒いネズミがいた。
 緑色の瞳がジッとビビアナを見つめる。

 ビビアナはゴクリと唾を飲み込んだ。
 よりによって今、このタイミングでザップラットだ。

「あなたの名前はピカ。ザップラットのピカ」

 契約紋が緑色の瞳に吸い込まれた。

 ザップラットのピカは、野生の個体と色が違う。身体は黒く、耳としっぽが山吹色だ。身体の大きさも一回り大きい。

 ピカはクルリと宙返りをして、しっぽからバリバリと電気を放電させた。
 静電気程度の電気しかない野生の個体とは、すでに威力が違う。

「よろしくね。ピカ」

 黒い身体を撫でると、甘えた声でチィーチィーと鳴き声を出す。
 人懐こい性格のようだ。

「チィチィー?」

「ん? どうしたの?」

 ピカの視線を追って見ると、タンクの頭に乗った山吹色のザップラットがいた。

「あ~~、何か嫌な予感がする……ザップラットの雄って縄張り意識が高いからなぁ」

 ピカは素早くタンクの前に行くとピョンピョンその場で跳ねた。山吹色のザップラットに下りて来いと言っているようだ。
 いきなりタンクの頭に乗らないところを見ると、きちんと相手の力量を測っているようだ。

 山吹色のザップラットはプルプル震えて、コロンとタンクの頭から転がり下りた。
 ピカがしっぽからバチバチッと放電する。辺りに火花が飛ぶほどの威嚇だ。対して山吹色のザップラットは、パチッと冬のセーター程度の音を出した。

「あちゃ~~っ。この縄張り争いはピカの圧勝かぁ」

「チィーチィー!」

 勝者のピカは堂々とした姿で、ビビアナの元に戻って来る。黒い身体を撫でてやると満足したのか、外に走り去った。

「……この場合の縄張り争いって、私ってことね。……ということは、敗者は私に近寄って来ない?」

 山吹色のザップラットに手を近付けると、サササッと避けてしまった。

「あ~~あ。でもこれで分かったね」

 ザップラットの特徴である、しっぽからの放電。縄張り争いの時でさえ、静電気程度の威力だった。

「……オコか」

 普通のザップラットとして生きて行くにしても、弱肉強食。最初に衰弱していたのは、やはり生存競争に負けたのだろう。

 ビビアナの契約紋を刻むことは簡単だ。しかし……。

「私の契約紋を刻んで、この子が害されることになったら……やっぱり簡単には出来ないね。
 しばらくは現状維持で様子を見ようか。何か特殊能力が現れるかもしれないし……」

 可能性は低いが、身体が癒えたばかりのザップラットをこのまま放り出すなんて出来ない。

 悶々と考えていると、タンクの耳がピクリと動いた。
 チラリと何か言いたげにビビアナを見る。外に何か気になる事があるようだ。

「いいよ。行っておいで」

 何だか分からないが、許可をだすと、すごいスピードで森の中に消えて行った。





 店の床の掃き掃除を終えた頃、タンクは戻って来た。

「お帰りタンク。突然出て行くからどうしたか……と……。
 え? ええっ?」

 タンク背中に、グッタリとした子供が乗っていた。
 慌てかけより、子供の状態を確認する。

 意識はないが、息はある。

 とりあえず生きているようで、ビビアナは肩の力を抜いた。

「その子、私の部屋にに連れて来て」

 ビビアナの部屋のベッドに子供を寝かせる。細かい外傷がたくさんある。小型の動物か魔物に、引っ掛かれたりしたのだろう。幸い命に関わる傷はなさそうだ。毒の類いも心配ない。

 傷を消毒するために濡らした布で身体を拭いていく。

「あれ? この子もしかして……」

 ふと子供の顔に見覚えがあることに気が付いた。

「この子……弟子入り志願の少年?」

 数日前、街で出会った少年だった。
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