たまご屋の卵は何が生まれるか分からない

りんご飴

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閑話 ある日のロニ

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23話「希望という名前」の少し後くらいのお話。





ーーーーーーーーーー



「こんにちは。パンとジャムをください」

 パン屋のおばさんに、半分に割ったコッペパンにジャムを塗ってもらって、お金を渡す。 

「ありがとうございます」

 お礼を言うと、パン屋のおばさんは目を見開いた。

「おやおや、誰かと思ったらロニ坊じゃないか。気取ったしゃべり方してどうしたのさ」

「へへっ。俺、シェマール先生のところに弟子入りしたんだ。だからちゃんとしなくちゃって思ってさ」

「シェマール先生って、薬屋の先生かい。よくまぁあんな立派な先生のところに弟子入り出来たもんだ」
 
 頑張りなよと言って、ゆで卵をオマケしてくれる。
 ロニはニカッと笑ってペコリとお辞儀をした。ロニの肩の上で、使い魔の魔鼠も真似してペコリと頭を下げる。
 その可愛らしい仕草に、パン屋の中は笑いに包まれた。

 パン屋のおばさんは、帰って行くロニの後ろ姿を見つめながら、小さくため息をついた。

「まだ子供なのにねぇ……一人で生きて行く道を選ぶなんて強い子だよ。
 トレバーとソフィ……天国から見守ってやりな」




※※※※




 せまい室内をチョロチョロと魔鼠が走る。
 ロニの使い魔、トレバーだ。

 棚の一番上から乾燥した草を一房。2つ隣の棚から葉を一枚。奥のカゴから乾燥花びら二枚。
 すべてを素早く集めてロニの元へ持って行く。

「ありがとうトレバー」

 ロニが集めた物と一緒にカゴにいれた。

「シェマール先生。薬草、すべてそろえたので置いておきますね」

「ああ、ありがとうロニ。いつもながら早いね。トレバーもありがとう」

 シェマールは柔らかく微笑む。ロニからカゴを受け取ると、すり鉢にすべていれた。
 すり棒でゴリゴリと薬草を粉砕していく。
 この薬草の粉を練って腰に乗せれば、腰痛によく効くのだ。

 シェマールが薬を作っている姿を、ロニはジッと見つめた。

「よし、完成だ」

 シェマールはフゥと息を吐いた。
 彼は長身で痩せていて、ヒョロガリと言う言葉がピッタリだ。薬屋としては優秀だが、一つ薬を磨り潰すだけで顔色が青くなるほど体力がない。
 それでいて腕は確か。

 いつか自分もシェマールのような技術を身に付けたいと思う。

 完成した薬を瓶の中に入れるのは、今のロニに手伝える仕事の一つだ。

「ロニ、この薬を大工のトラビスさんに届けてくれないかい?」

「はい。師匠!」

 まだ若いのに自分より圧倒的に体力がない師匠に変わり、ロニと魔鼠は走り出した。







 一枚、二枚……。

 
 夕飯に魔鼠のトレバーと一緒に固パンのサンドイッチを齧りながら、銅貨を数えるのが、いつの間にか習慣になっていた。
 屋台の安価な食事とはいえ、脂身の多い薄いベーコンが一枚入っている。今日はチーズをサービスで挟んでくれたから、トレバーが喜んでしっぽから電気をパチパチさせている。
 薬屋で働くようになったからと言って、ロニの生活が劇的に豊かになったりはしない。とはいえ、食べる物に困ることはなくなった。朝晩の食事は出来るし、昼は師匠のシェマール特製薬草サラダを大皿一杯食べさせられる。味はともかく、栄養があるらしい。

 ベーコンの脂が染み込んだ固パンを飲み込んで、ロニは銅貨を数えるのを終えた。

「まだまだ先は長いな」

 魔鼠のトレバーと契約した時の代金はまだ未納だ。少しづつ貯めて、五年後には全額たまご屋に持って行くつもりだ。

 銅貨を布袋にサッとしまって、枕の下に隠した時だった。


 ドンドンドンドン。


 扉を叩く音。

「おい、ロニ! シェマール先生を知らないか!?」

 声の喧騒に驚いて扉を開けると、小間物屋の親父が慌てた様子でロニの肩を掴んだ。瞬間、「痛てっ」と掴んだ肩を離した。
 魔鼠のしっぽがパチパチと音を立てている。静電気程度の威力しかないトレバーの電撃攻撃だが、地味に痛い。
 どうやら主人を害されたと判断したようだ。

「ああ、悪いなトレバー」

「トレバーがすみません。で、師匠がどうかしましたか?」

 不機嫌な魔鼠を宥めながら話の先を促した。

 こんな夜中に、嫌な予感しかない。

 心臓がドキドキする。
 あの日もそうだった。
 両親と妹の訃報を聞いた日。突然の知らせに、心臓が激しく鳴って目の前が真っ暗になった。

「子供が熱を出してな、慌てて薬屋に行ったんだが……シェマール先生がいないんだよ。部屋の明かりは点いていて、鍵も開いてたんだ。部屋は物が散乱していたし、嫌な予感がしてな。
 どこかに出かけるとか聞いてないか?」

「……いいえ」

 今夜は予定はなかったはずだ。ロニが帰る時、明日酒場に納品する二日酔いの薬を作らないとと言っていたし……。
 師匠も大人だ。心配はないのかもしれない。
 
 でももし招かれざる誰かが訪ねて来たら……。それが強盗だったら……。

「俺、探して来ます!」

 たまらずに走り出した。








「ししょょーーっ! ししょょーーっ! いたら返事してくれ!」

 心当たりがある場所は探したつもりだ。酒場も、行き付けの小料理屋も。治安の良くない倉庫街も。

「くそっ! どこにいるんだよ」

 途方にくれながら薬屋まで戻った。
 小間物屋の親父が言っていたように、扉の鍵は開いていた。部屋の中は薬箱が一つひっくり返っていて、そこら中に粉状の薬が散乱してる。床で乾燥させていた薬草と混ざって、ひどい状態だ。同じく果物の入った籠もひっくり返り、中の熟れたザーラの実がべっちょりと潰れて、真っ赤な果汁が流れ出ている。
 ロニの肩に乗っていたトレバーがチョロリと降りて、潰れた果物をペロペロ舐めた。

「トレバー、師匠を探さないと」

「チュ?」

 トレバーはザーラの果汁で真っ赤になった顔でチョコリと首を傾げた。ロニを見上げると、ボッと毛を逆立てる。それも一瞬で、突然外に走って行った。

「お、おい! トレバー! どうしたんだよ! どこに行くんだよ!」

 追ってロニも外に出た。
 店の裏側に回って、そこは草木が自由に伸び広がる、何もない場所だ。この時間は本当に真っ暗で、先ほどトレバーが舐めていたザーラの木もあるはずなのに、すっかり闇に紛れている。

 ロニはトレバーのしっぽからバチバチ光る微かな灯りを目印に追った。

「チュ!」

 その灯りがピョーーーンと跳ね上がった。

「え? お、おい、トレバー?」

「チチチチュ!」

「ん?」

 トレバーの灯りが見える場所を見上げると、風の音に混じって弱々しい声が聞こえた。

「…………もしかして、師匠?」

「…………ロ、ニ?」

 あまりに風の音に負けるくらい小声で、「助けてぇ~~」と聞こえた声は確かに師匠の声だ。暗くて姿は見えないけれど。

「何だよ~~」

 ドサリと膝から崩れ落ちた。

 安堵とその他いろいろな感情が入り交じって、しばらく立てそうにない。
 その間も弱々しい声は続いている。

「師匠~~もっと声張ってくれよ~~」





 その後、無事師匠は救出されました。




「めでたしめでたし、じゃねぇからな! なんであんなことになってたんだよ!」

「……いやぁ、二日酔いの薬を作ってたんですけどねぇ、途中で材料のギザの葉が足りなくなって、取りに行ったんだけど……木に登ったものの真っ暗で降りられなくてね」

 散らかった部屋は、乾燥させていた薬草を踏んで滑ってドンガラガッシャ~ン! だったらしい。

 ロニはぷんぷん怒りながらも師匠の家を掃除した。鼻歌を歌いながら。


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