たまご屋の卵は何が生まれるか分からない

りんご飴

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巨大な卵4

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「リュカ、その本は上の棚に置いて頂戴。タンクはブランケットを洗濯に持って行って」

 棚の上の物を箱に詰め込みながら、ビビアナは指示を出す。
 ただいまビビアナのたまご屋は改装中だ。と言っても、増築したり壁をぶち抜いたりするような改装ではなく、大規模な模様替えのような物なのだけれど。

「ビビアナァ~~この棚、どこに持って行くの? 置き場所なくない?」

「ひとまず納屋に……あ、あそこは今、たまごでいっぱいか。今日は良いお天気だから、たまごは一旦外に出そうか」

 チッと軽い舌打ちをしたリュカは、納屋の方を見て目を細めた。

「ビビアナに迷惑かける卵なんて、僕が地の果てに捨てて来ようか」

「もう。明日まで我慢してよ。明日引き取って貰えるでしょう」

 あの日、雨の中で気を失った男が、町の療養所で無事に回復した。どうやら過労と心労で身体がギリギリまで弱っていたらしい彼は、一週間ほど寝込んで、ついでに持病の腰痛も緩和出来て元気いっぱいらしい。
 明日には巨大な卵を取りに来る予定だ。

「そしたら、リュカもちゃんと自分の部屋に戻ってね!」

「え~~っ」

 最近急激に大人っぽくなったリュカが、子供のように口を尖らせた。
 客人が来てから毎晩ビビアナの部屋に寝に来るリュカは、タンクの寝床の隣で寝ている。でもこれが、一筋縄にはいかないのだ。
 ビビアナのベッドに入れてくれと子犬のようにク~ンク~ン訴えるリュカを、ビビアナは気力を振り絞って全力で拒否。手強いけれど、負ける訳にはいかない。

(だって、一緒になんて寝たら……私の心臓が持たないもの! 絶対に寝れないわ)
 
 一通り攻防を繰り広げた後、リュカはふてくされながらタンクを枕にして寝る。最近そのパターンが続いている。
 苦労して睡眠を確保しているのに……それなのに……朝起きると決まってビビアナはリュカの抱き枕なっているのだ。
 目が覚めたらあり得ない美青年。ギャァと叫んで起きちゃうのは仕方がない。更にビビアナの耳元で「おはよ」と甘く囁かれたら……。

(頭の先から足の先までゾワゾワするんだから!)

 今朝のことを思い出してしまったビビアナの顔を見て、リュカはニヤリと笑った。

「ぷぷ、ビビアナったら、顔が真っ赤じゃん。さてはエッチなことを考えてたな」

「えっ、ちって! まさかっ!!」

「ゴンドルキーの尻くらい真っ赤っかだ。
 どんな事を想像したの? 僕が関係してたら嬉しいんだけど。って言うか、ビビアナって意外とムッツリだよね~」

「ちちちちがぁぁう!!」

 じゃれる二人を生ぬるい目で見ていたタンクは、大きなため息を吐いた。
 白いモフモフの耳がピクリと動く。


 ガタン。


 椅子の倒れる音。
 続いてドドドと重量級の足音。

「店主!」

 突然店に響いた大声に、ビビアナは驚いて少し跳びはねた。
 ビビアナの手から持っていた花瓶がツルリと離れる。
 パシりと空中でキャッチしたリュカのおかげで、割れずにすんだけれど。

「あの、フォルカーさん、どうしました?」

 客人であるフォルカーは、長身の背を丸めて少し気まずそうに頭を掻いた。

「あ、失礼しました……。つい、興奮してしまって。決してお二人を邪魔しようとしたわけでは……」

「ごほんごほん! フォルカーさん、どうしましたか?」

 妙に強い口調のビビアナに、フォルカーは首を傾げる。

「いやその……孵卵器の卵が動いたもので……」

 そういえば今朝、フォルカーに孵卵器の卵を見ているようにお願いしたんだった。
 どうしても何か手伝いたいとしつこく言うフォルカーに、リュカが「おっさんは卵でも見てなよ」と適当に言っただけなんだけど。
 朝からずっと孵卵器の前で卵を見ていたのだろうか。彼の真面目な性格からしたら、たぶんそうなんだろう。

「……ありがとうございます。では見に行きましょうか。
 リュカは棚をお願いね」

「行ってらっしゃ~い」

 ビビアナとの時間を邪魔されたリュカは、大きな棚をヒョイと片手で持ち上げ、出て行った。

「あいつ、邪魔だな」

 呟いた声は誰にも聞こえなかった。

 







 白地にグレーのラインが入った卵が孵卵器の中でゆらゆら揺れていた。
 そっと手に取ると、手のひらに振動が伝わる。

「ああ、もう生まれますね。フォルカーさんも見学します?」

「是非とも!」

「ふふ。では声を出さず、そちらで見ていて下さい」

 誰かに見られながら、卵を孵すのは久しぶりだ。
 リュカ以外では、父親が生きていた頃以来かもしれない。

 卵を乗せた手のひらから、生まれたい意志を感じる。

「おいで」

 ビビアナの呼びかけに空気が変わった。
 フォルカーが食い入るように身を乗りだす。
 ピシリと小さな音が鳴った時、思わず声を出しそうになって、ぐっと奥歯を噛みしめる。言われた通り、声を出すつもりはない。見学者の自分が、少しでもビビアナの邪魔になってはダメだ。

 ピシリピシリと卵にヒビが入り、そして止まった。

 何の反応も見せなくなった卵に、ビビアナは軽く首を傾げる。そして優しく撫でた。

「大丈夫。おいで」

 その瞬間、一気にクシャっと全体が崩れた。

 ピョ~~。

 間の抜けた鳴き声と共に、崩れた卵の中から小さな生物が出て来た。
 魔鳥の雛だ。
 濡れてボソボソの灰色の身体。その小さな身体に不釣り合いな、大きな嘴。
 決して可愛いと呼べる見た目ではない。

 生まれたばかりの小さな魔鳥は、頭を上げてビビアナの方を見た。
 小さな灰色の瞳がビビアナの濃紺の瞳と重なった時。

「あなたの名前はカラフルよ。コロルバードのカラフル」

 ビビアナが言った瞬間。雛の小さな瞳が一瞬ピカッと光る。
 生まれたばかりの小さな瞳に、使い魔としての契約紋を刻みつけた瞬間だった。

「カラフル。よろしくね」

 カラフルと名付けられた雛は、ピョ~~と鳴いて消えた。




「どうでした? フォルカーさん」

 フォルカーは無意識に止めていた息をプハと吐き出した。

「声を出さないように必死でした。
 しかし、コロルバードの雛があのような見た目だったとは……」

 コロルバードは世界一美しいと言われる魔鳥だ。
 頭と同じほど大きな嘴は虹色に輝いて、同じ色の長い長い尾は装飾品として希少価値がある。
 そんな美しい魔鳥の雛が灰色一色だなんて。

「あのコロルバードも何れ誰かを主人に選ぶ……たまご屋とは、実に不思議ですね」

「ふふ。私も未だに不思議に思いますよ。
 あ、フォルカーさんも使い魔契約を試してみます?」

 誘ったのは、使い魔に選ばれた客をジッと見つめていたのを知っているから。

「いろいろお手伝いしてくれたお礼に。まぁ値引きは出来ませんけどね」







 上空を飛ぶように駆ける大きな魔物がいた。
 頭が3つある真っ黒な魔犬の最上位種だ。

 リュカの金色の瞳がキラリと光る。

「焼き払え。ケルベロス」

 言った瞬間、3つの口から黒い炎が吹き出る。
 ゴウゴウと音を立てて、黒い炎は巨大な卵を包んだ。
 
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