たまご屋の卵は何が生まれるか分からない

りんご飴

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巨大な卵6

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 黒い炎の中で燃える卵。
 その表面に小さくヒビが入っていた。

 鳥系の魔物が生まれる時、中の雛は、小さな小さな嘴でコツコツとつつくことで卵を割る。
 これだけ大きな卵の中に入っているフェニックスの雛。卵の大きさと比例して、その殻も厚いだろう。

 ゴツゴツ、ガンガン。

 可愛いらしい雛が中からつついているにしては、逞しすぎる音がする。

「ち、ちょっと待って。このまま生まれたら……雛は焼き鳥状態にならない?」

「ぷは。ならないならない。そもそもフェニックスって常にメラメラ燃えてて暑苦しいヤツなんだから。
 あ、ちょっとおっさん、離れろってば」

 フォルカーの瞳がおかしい。焦点が合っていないような……以前ビビアナが描いた落書きのタンク画を見たリュカが、死んだ魚の目みたいと言ってからかったけれど、まさにソレ。まるで自分の意思とは裏腹に、魅了でもされたかのようにフラフラと卵に近付いて行く。
 ビビアナには何だか分からないけれど、良くない気がする。

「ああ、おっさんがヤバい。フェニックスのフェロモンに酔うヤツがたまにいるんだよね。今生は雌なんだろうな。雌のフェロモンか。面倒臭い。
 ビビアナは近付かない方がいいみたいだ。フェニックスの雌は他の雌を嫌うから」

「ええ? じゃあフォルカーさんはどうすればいいの」

「簡単だよ。正気に戻すなら衝撃を与えてやればいい」

 スパンとね、と言うと、リュカはフォルカーの頭を見てニヤと笑った。

「待って待って! 私がやるから!」

 ビビアナは慌ててリュカを止めたのは、リュカがスパンとやったらフォルカー頭が無事とは思えないからだ。
 とはいえ、ビビアナがフォルカーの頭を狙うのは身長差から無理だった。
 筋肉質な男性にビビアナの一撃が効くのか。

 その結果。

 ピョーーーンとビビアナの頭上を飛び抜ける白い影。

 フォルカーの背中を一蹴りして着地したのは、タンクだ。
 大柄な男性といえども魔狼の体重を受けては、ズベンと倒れるしかない。

「あ、おっさんの顔が潰れちゃったな」

「物騒なこと言わないで」

 確かに地面に顔を伏せているけれど。
 ムクリと起き上がったフォルカーの頬と鼻の頭が汚れているのは、土汚れだと思いたい。赤い色なんて見えないぞ。

「店主……」

 そんな目で見ないで欲しい。

「あ! ほら、卵が!!」

 決して話を反らした訳ではない……はず。リュカの生暖かい視線も……気にしない。

 ミシミシミシミシ。

 ゴツゴツと鳴っていた卵の表面に大きなヒビが入った。ヒビの隙間から朱色の炎がチロチロと漏れでて、表面の黒い炎と混じる。

 そこからは一瞬だった。

 ゴトリと卵のカケラが剥がれ落ち、中から朱色の炎が勢い良く出てくる。黒い炎と卵の殻はあっという間に燃えて消えさった。

 残ったのは、朱色の羽を持った大きな鳥。
 羽の先が燃えているように見えるのは気のせいだろうか。

「これは……雛っていう大きさじゃないよね……」

「だね。立派な成体だよ。卵のまま成長したんだねー。変なヤツだよ」

 納屋で羽化しなくて良かった。フェニックスの大きさは、天井スレスレ。いや間違いなく美しい頭の飾り羽が折れ曲がっていただろう。ゴージャスな姿が窮屈な納屋に詰め込まれるなんて、それはそれで残念な気がする。
 いや、その前に納屋もすべて燃えて消えるだろうか。

 揺らめく朱色の炎を見ていると、雌のフェロモンに酔ったというフォルカーの気持ちが分かる気がする。
 リュカから近付かない方がいいと言われているけれど、花に誘われる蜜蜂のように気持ちが引き寄せられる。


 なんて気高く美しい。
 なんて神々しい炎。

 
「店主! フェニックスに名前をつけましょう!」


 フォルカーの言葉はビビアナの頭に響く。


 名前を。
 美しい彼女にふさわしい名前を。


「リン「ビビアナ、落ち着いて」」

 ハッと我に帰った。

 リュカの手のひらがビビアナの目元を覆う。

「駄目だよ。こいつは人間には従属しない」

 視界を奪われて、ビビアナの瞳の中で発動仕掛けたモノがシュンと閉じた。

(恥ずかしい)

 穴があったら入りたい。

 たまご屋なら、相手と自分の力の差はわかる。
 それでも、強く美しい目の前の魔物に自分の契約紋を……と思うのは、たまご屋の性なのか。祖父も父親もそうして亡くなったのに。
 けれどそれは、身の程知らずもいいところだ。痛いほど知っているはずなのに、同じことをしようとした。
 火に飛び込む虫のように。

「……ありがとう、リュカ。もう大丈夫」


 リンデセーニョ。
 ビビアナの口から出かけた名前は、最良の美を意味する名前だった。
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