新米女神の運命の赤い糸

りんご飴

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運命の行方

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 闇の中から声がする。

「面白いことになってんなぁ」

 闇から姿を現したのは、背の高い黒髪の男だった。
 金色の瞳が闇の中でギラギラ光る。

 リアはゆっくりと頭を下げた。

「欲望の神デシル様ですね。私はリアと言います」

 簡単な挨拶をすると、デシルはクックッと喉を鳴らした。

「固いな~~。
 俺は人間に最も近しい神。人間の欲望は底がないから、面白いだろ?」

 食欲、睡眠欲、性欲。人間から切り離せない感情だ。

「リア。お前を前にした人間の男は、時に醜いほど欲望を膨らませるだろう。純粋なお前が、それでも人間を愛せるか……見物させて貰おうか」

 クックックッとひきつった笑い声は、闇に消えて行った。


※※※


 闇が消えたリアの前では、グレンとエルサが修羅場を繰り広げていた。

(運命の相手って難しいわ)

 グレンは恋人はいないと言った。婚約者は恋人と違うのだろうか。

 リアのため息を聞いたグレンは慌てて、彼女の肩を掴んだ。

「リア様、彼女は家同士が決めた婚約者で……」

「つまり近い将来、結婚する相手ということですね」

「…………っはい。ですが」

「グレン、大丈夫です」

 怒りながらも涙を流すエルサを、一緒にやって来た男女がオロオロしながら宥めている。

 そんな彼女にリアはニコリと微笑んだ。

「泣かなくても大丈夫です」

「っ!」

 赤い目でキッと睨み付けて来る。
 彼女はグレンを取られると思って怒り、泣いているのだろう。

(彼女の思いは、きっと愛なのね。
 誰かを愛するって不思議だわ。私にはまだ分からないみたい)

 恋人がいないと言ったグレンからしたら、今はまだ婚約者に対する気持ちは、恋や愛じゃないのかもしれない。今は……だ。これから先、結婚して、一緒に暮らして行くうちに、グレンの婚約者に対する気持ちも愛に育って行くかもしれない。グレンもそう思ったこともあったのだろう。リアがグレンに対して感じたように。

 リアを睨み付けるエルサの目を、真っ直ぐに見つめる。
 少女の赤い糸とグレンの赤い糸が繋がっているのかどうかは、リアには分からない。けれど、繋がっていればいいなと思った。

「私からグレン様を取らないで! 彼は私の婚約者なの!」

 叫ぶように言ったエルサの目から、涙がどんどん落ちて来る。

(私が彼女を泣かせたようなものね……)

 それなら、ちゃんとグレンを返してあげないといけない。

「グレンは、私の役目に協力しようとしてくれたんです。
 でも、大丈夫。
 グレンは私の運命の相手ではありませんでした。グレンの子供はあなたが産んで下さいね」

「こ、子供?」

「はい。結婚されるのでしょう?」

 結婚もまだ先なのに、いきなり子供の話なんて。涙が引っ込みポカンとした顔をしたエルサに、リアはふふふっと楽しそうに笑った。
 それから少しだけ眉を下げる。


「グレンは可愛らしい婚約者がいるのに、大地の為に自分の身を犠牲にしようとしたのね。
 ごめんなさい。私が浅はかでした」

「そうではーーーー」

 グレンが慌てて口を挟もうとした時。

「あら? ファタお姉様が呼んでるわ。
 それでは、さようなら。
 私から二人に、お詫びの贈り物です。幸運が訪れますように」

 頭上からキラキラと光の粒が降り注いで来る。
 それが青い小さな花で、幸運を運ぶ「女神の花」だと気付いた時には、すでにリアの姿はなかった。



※※※※※※※※※※※※※※※※



「アストロンの王よ」

 運命の女神ファタは青い瞳を細めて、自身の前に跪くアストロン王を眺めた。

「そなた、よけいなことをしたな」

「私はただ、あやつの婚約者を心配したまでです」

 グレンの婚約者を葡萄畑に誘導したのは、アストロン王の指示だ。
 グレンがなかなかの美形だったこともあり、女神に気に入られるのではと焦った結果だった。

「そなたの策略は実を結んだようだな」

 昨夜一睡も出来なかったアストロン王は青い顔をしながら、心の中でガッツポーズをする。

「ほう。そなた、まだ息子と我が妹の運命が交わると思っているのか」

「ぐっ……」

 昨夜、息子と女神の運命が繋がらなかったことを知った。
 けれど、まだ諦めきれないのだから仕方がない。

 親の欲目でなくとも、息子の見た目は親に似て中々だと思う。
 美しい物が好きな女神のお眼鏡にかなえば、国の将来も安泰だ。

 そんな考えを見抜いて、ファタはニッと口角を上げた。

「リアが、顔で相手を選ぶとでも思っているのか」

 確かにファタをはじめ、神と名の付く者は美しい物が好きだ。
 ファタがアストロンの王族に目をかけるのも、好みの見た目をしているからだった。

「顔のいい男なぞ、いくらでもいるだろうに」

 好みなことと、愛することは違う。

「我がかつて愛した人間は、熊のような男であったぞ」

 愛の女神の領域は特に、顔の良し悪しは関係ない。ファタも身を持って体験したことだ。
 愛した男は、決して美しい見た目ではなかった。けれど、ファタの愛は彼に向いた。

 愛の女神は恋に落ちたファタを見て、「あなたも一人前になったわね」と楽しそうに笑ったものだ。

 愛とは不思議だ。

「では……本当にもう、息子がリア様に愛される可能性はないのですか」

「ふむ」

 静かに青い瞳を閉じる。
 皇太子が進むたくさんの運命を覗き見て、小さく息をはいた。

「無、ではないな」

「本当ですか?」

「ふむ。例えば今すぐ皇太子がこの場に来たらーーーー」

 コンコン。

 黄金の神殿の扉のノッカーが叩かれた。
 神殿は神の部屋の様なもの。ノックもなしに扉を開けることは、人間であれば許されない。

「ふむ。許可する」

 ファタの許しと共に、黄金の神殿の扉が開いた。
 二人の男がファタの前に跪く。

「「麗しき運命の女神、ファタ様。お目通りいただき、感謝いたします」」

 一人はアストロン王国の皇太子、アレクシス。
 もう一人は、緑色の髪の男だ。

「ふむ。実に面白い。そちらの運命に進むのか。
 アストロンの王よ、どうやら首の皮が繋がったようだ」
 
 チラとアストロン王を見ると、青白かった顔に分かりやすく喜びが浮かぶ。

「アストロンの皇太子と……ふむ。そなたはメレニール王国の者か」

「お久しぶりでございます、ファタ様。
 メレニール王国から参りました、ジェイス・ベルニールと申します」

 緑の髪の壮齢の男が跪いたまま挨拶する。

「ふむ。そなたが子供の頃に会ったことがあるな。メレニールの王族か」

「はい。ファタ様とお会いした時は私は五つに満たない子供でした。
 今は兄が王というだけで公爵の地位にいる、しがない男でございます」

 気品ある姿に、ファタは面白い物を見つけたと言うように口角を上げた。

「三十年はたったか。育ったものよ。
 リア、こちらに参れ」

 ファタの呼び掛けに、室内にフワリと風が吹いた。
 青い花びらが舞ったかと思うと、そこには一瞬にして大地の女神が姿を現した。
 
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