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羞恥心を覚える
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柔かな白い色が辺りを包む。
白と言っても純白とは違う。僅かに灰がかった、優しい白だ。
白亜の神殿は黄金の神殿と比べると、華やかさはない。けれど、落ちついた居心地のいい空間だった。
「綺麗」
ホゥと呟いたリアに、ジェイスは有難うございますと礼を述べた。
自国の神殿を誉められることが嬉しいらしい。
「大地の女神様。我が国へ……白亜の神殿へようこそ」
「案内をお願い出来ますか? ええと、ジェイス様?」
「ジェイスと呼んでください。女神様に名を呼んでいただければ、至極の喜びです」
芝居じみた言い方にリアが吹き出してしまうと、同じくジェイスも笑った。
「ふふふ。では、私もリアと呼んで欲しいです。ジェイス」
「ありがとうございます、リア様。こちらへどうぞ」
ジェイスのエスコートで、白亜の神殿の祭壇に案内された。
本来ならここは、知性の女神ティスが座っていることが多いはずだ。
「ティス様は……いらっしゃらないのね」
リアが来るまでは、この場所にティスがいただろう。まだほんのりと、シナモンような残り香がある。慌てて姿を消したのかもしれない。
「私、避けられているのかしら」
しょんぼりとため息をつくと、後ろから肩を優しく引かれ、背中がトンと彼にぶつかる。
後ろから抱き込まれるような体勢に驚いて上を向けば、優しげなジェイスの茶色い瞳と目が合った。
(ジェイスの温もり、何だか安心する)
「失礼しました。リア様が倒れてしまいそうに見えたもので」
「ありがとう」
肩の力を抜いて体重をすべて背中のジェイスに預けても、彼はフラリともしない。
「大丈夫ですよ。知性の女神様は極度の人見知りなんです。私もまともに顔をあわせるまでに20年かかりました」
「ふふっ。人の時間の20年……それは長いですね」
大きな手がリアの頬に触れようとして、寸前でピタリと止まった。
「すみません。許可もなく女性に触れるなんて、失礼でした」
すぐにでも身体ごと離れて行ってしまいそうなジェイスに寂しくなって、リアは彼の手を取って自ら頬を寄せた。
一瞬目を見開いたジェイスは、嬉しそうに笑う。
「リア様に触れる許可をいただけたと思っても、いいでしょうか」
「ええ」
「お手に、口付けをしてもよろしいでしょうか」
「…………はい」
手の甲に唇が寄せられる。
手ではなく唇にして欲しいと思ってしまうのは、唇へのキスが気持ちいいことを知ってしまったから。
思わず自分からキスをねだるように、無意識に彼の頬に指を這わせた。
リアの赤く染まった頬や潤んだ瞳に、ジェイスはぐっと拳を握りしめる。
「……リア様、私の理性を試さないでください。知性の女神様に見られてしまいますよ」
「え?」
整ったジェイスの顔がほんの少し歪む。
「……ティス様に、見られ……る?」
リアの髪をすくい露になった耳に、ジェイスの息を感じる。
「私は、リア様の色付いた頬も、乱れた呼吸も、蕩けた瞳も……リア様の可愛らしい姿を誰にも見せたくありません。例え神であっても」
ティスのような熟練の神が、こっそり様子を伺っていたとしても、神として未熟なリアには分からない。しかもこの場所は、ティスのお気に入りの神殿だ。
他人の家のような場所でキスをねだって、快楽に流される姿を見られるなんて……それも会ったこともないティスに。
とたんにリアの顔が熱を持った。
(嫌だ。私ったら)
覚えたての快楽に溺れそうになっていた。そんな姿をティスに見られたら、はしたないと言われてしまう。
「顔が赤いですよ。恥ずかしいのですか?」
「……恥ずかし、……っん」
耳にジェイスの息が触れて、思わず声が出る。
「可愛らしい声」
「ん……ぃや……っ」
恥ずかしい。
言われると、どんどん気になってしまう。
キスは気持ちいい。
アレクシスに抱きしめられた時も、グレンに尻をまさぐられた時も、気持ちよくて身体が震えた。
そもそも先代の大地の神から受け継いだ知識には、子作りについて詳しい知識はない。ただ相手に任せろとしか、知らされていなかった。
キスも、抱き合うことも、子を作る課程の一つだと本能が感じていたから、素直に快楽を受け入れた。
「私……恥ずかしいことだなんて、知らなかったわ」
隠れるようにジェイスの広い胸に顔を隠す。
「すみません」
赤く熱を持ったリアの耳を名残惜しそうに触れて、ジェイスはやんわりと身体を離した。
「これ以上リア様に触れると、自分を押さえる自身がありません」
「ご、ごめんなさい」
リアはジェイスから一歩遠ざかる。
それでも、彼の腕に抱きしめられたいと思ってしまうのは、使命感故だろうか。
大地の女神として、人間との間に子を産まなければいけない。地上の大地の力は弱まり悲鳴をあげていることに、リアには本能で気付いていた。だから焦ってはいけないと思いながらも、貪欲に男達に近付いた。
もしかしたら、愛の女神の力が働いているのかもしれないけれど。
(私、はしたなかったわ! 恥ずかしい!)
気付くことが出来たのは、ジェイスのおかげだ。
このまま知らずに、気に入った男性に本能のまま流されていたら……きっと後悔する。
「ありがとう、ジェイス。私、大事なことを忘れるところでした」
羞恥に顔を赤く染め、潤んだ瞳で、リアは微笑んだ。ふわりと頭上にピンク色の花びらが舞う。
小指の赤い糸がユラユラと揺れ初めたことに、リアはまだ気付いていなかった。
白と言っても純白とは違う。僅かに灰がかった、優しい白だ。
白亜の神殿は黄金の神殿と比べると、華やかさはない。けれど、落ちついた居心地のいい空間だった。
「綺麗」
ホゥと呟いたリアに、ジェイスは有難うございますと礼を述べた。
自国の神殿を誉められることが嬉しいらしい。
「大地の女神様。我が国へ……白亜の神殿へようこそ」
「案内をお願い出来ますか? ええと、ジェイス様?」
「ジェイスと呼んでください。女神様に名を呼んでいただければ、至極の喜びです」
芝居じみた言い方にリアが吹き出してしまうと、同じくジェイスも笑った。
「ふふふ。では、私もリアと呼んで欲しいです。ジェイス」
「ありがとうございます、リア様。こちらへどうぞ」
ジェイスのエスコートで、白亜の神殿の祭壇に案内された。
本来ならここは、知性の女神ティスが座っていることが多いはずだ。
「ティス様は……いらっしゃらないのね」
リアが来るまでは、この場所にティスがいただろう。まだほんのりと、シナモンような残り香がある。慌てて姿を消したのかもしれない。
「私、避けられているのかしら」
しょんぼりとため息をつくと、後ろから肩を優しく引かれ、背中がトンと彼にぶつかる。
後ろから抱き込まれるような体勢に驚いて上を向けば、優しげなジェイスの茶色い瞳と目が合った。
(ジェイスの温もり、何だか安心する)
「失礼しました。リア様が倒れてしまいそうに見えたもので」
「ありがとう」
肩の力を抜いて体重をすべて背中のジェイスに預けても、彼はフラリともしない。
「大丈夫ですよ。知性の女神様は極度の人見知りなんです。私もまともに顔をあわせるまでに20年かかりました」
「ふふっ。人の時間の20年……それは長いですね」
大きな手がリアの頬に触れようとして、寸前でピタリと止まった。
「すみません。許可もなく女性に触れるなんて、失礼でした」
すぐにでも身体ごと離れて行ってしまいそうなジェイスに寂しくなって、リアは彼の手を取って自ら頬を寄せた。
一瞬目を見開いたジェイスは、嬉しそうに笑う。
「リア様に触れる許可をいただけたと思っても、いいでしょうか」
「ええ」
「お手に、口付けをしてもよろしいでしょうか」
「…………はい」
手の甲に唇が寄せられる。
手ではなく唇にして欲しいと思ってしまうのは、唇へのキスが気持ちいいことを知ってしまったから。
思わず自分からキスをねだるように、無意識に彼の頬に指を這わせた。
リアの赤く染まった頬や潤んだ瞳に、ジェイスはぐっと拳を握りしめる。
「……リア様、私の理性を試さないでください。知性の女神様に見られてしまいますよ」
「え?」
整ったジェイスの顔がほんの少し歪む。
「……ティス様に、見られ……る?」
リアの髪をすくい露になった耳に、ジェイスの息を感じる。
「私は、リア様の色付いた頬も、乱れた呼吸も、蕩けた瞳も……リア様の可愛らしい姿を誰にも見せたくありません。例え神であっても」
ティスのような熟練の神が、こっそり様子を伺っていたとしても、神として未熟なリアには分からない。しかもこの場所は、ティスのお気に入りの神殿だ。
他人の家のような場所でキスをねだって、快楽に流される姿を見られるなんて……それも会ったこともないティスに。
とたんにリアの顔が熱を持った。
(嫌だ。私ったら)
覚えたての快楽に溺れそうになっていた。そんな姿をティスに見られたら、はしたないと言われてしまう。
「顔が赤いですよ。恥ずかしいのですか?」
「……恥ずかし、……っん」
耳にジェイスの息が触れて、思わず声が出る。
「可愛らしい声」
「ん……ぃや……っ」
恥ずかしい。
言われると、どんどん気になってしまう。
キスは気持ちいい。
アレクシスに抱きしめられた時も、グレンに尻をまさぐられた時も、気持ちよくて身体が震えた。
そもそも先代の大地の神から受け継いだ知識には、子作りについて詳しい知識はない。ただ相手に任せろとしか、知らされていなかった。
キスも、抱き合うことも、子を作る課程の一つだと本能が感じていたから、素直に快楽を受け入れた。
「私……恥ずかしいことだなんて、知らなかったわ」
隠れるようにジェイスの広い胸に顔を隠す。
「すみません」
赤く熱を持ったリアの耳を名残惜しそうに触れて、ジェイスはやんわりと身体を離した。
「これ以上リア様に触れると、自分を押さえる自身がありません」
「ご、ごめんなさい」
リアはジェイスから一歩遠ざかる。
それでも、彼の腕に抱きしめられたいと思ってしまうのは、使命感故だろうか。
大地の女神として、人間との間に子を産まなければいけない。地上の大地の力は弱まり悲鳴をあげていることに、リアには本能で気付いていた。だから焦ってはいけないと思いながらも、貪欲に男達に近付いた。
もしかしたら、愛の女神の力が働いているのかもしれないけれど。
(私、はしたなかったわ! 恥ずかしい!)
気付くことが出来たのは、ジェイスのおかげだ。
このまま知らずに、気に入った男性に本能のまま流されていたら……きっと後悔する。
「ありがとう、ジェイス。私、大事なことを忘れるところでした」
羞恥に顔を赤く染め、潤んだ瞳で、リアは微笑んだ。ふわりと頭上にピンク色の花びらが舞う。
小指の赤い糸がユラユラと揺れ初めたことに、リアはまだ気付いていなかった。
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