新米女神の運命の赤い糸

りんご飴

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可能性の話

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 その場に残されたのは、アレクシスと三人の令嬢だけ。

「リ、リア様……」

 また消えてしまった。

「くそっ、失態だ。俺はアホか」

 本気で口説くと決めたものの、愛しい女神を前にすれば抱き寄せて、人目なんて気にせずキスをして、彼女の温もりを、香りを、味を、全てを貪りたくて堪らなくなる。
 それらを全力で抑え込んで、自分をアピールして来たのに。

 関係を持った令嬢を前にして、不覚にも動揺してしまった。
 もっとスマートに対応するべきだった。

 情けないと思われただろうか。気のきかない男だと思われただろうか。
 彼女に何らかの不快感を与えてしまっただろう。

「あの……アレクシス様?」

「あら? 先ほどのご令嬢はどちらへ?」

 アレクシスの背中にすっぽり隠されていた為、女性達からリアが消えた瞬間は見えなかったらしい。ただ一人、リアが女神だと知る黒髪の令嬢は、小刻みに震えている。

「ミラベル嬢」

 思うようにいかない焦りと苛立ちが声に現れた。けれど、名を呼ばれた令嬢はニコリと笑った。自分達の行動が二人のデートを邪魔した結果になったことを、令嬢は理解している。それなのに罪悪感どころか、妙に嬉しそうで、アレクシスは眉をしかめた。

「アレクシス様。お連れのご令嬢は帰ってしまったようですね。お一人なら、私達とご一緒に過ごしませんか?」

「そうですわ! カフェで一緒にお話でもどうでしょう。
 最近、アレクシス様ったら全然お会いしてくれないんですもの。私、寂しかったのですよ?」

 見目麗しい令嬢が好意を向けてくれるのは、男として正直嬉しい。
 以前なら令嬢達のあざとい行動も、それなりに可愛らしいと思っていたが、今のアレクシスには少しも響かなかった。
 けれどそれなりに身分ある令嬢達だ。無下に扱う訳にはいかない。

 心配してくれたことに関して礼をのべ、ガラス玉のような瞳を細めた。

「君たちとは一緒には行けないな」

 冷たく見えても構わない。キッパリと、少しの期待も持たせないように。

「私が心から求めている女性は、君たちではないんだ」

 令嬢達を前にしていても、アレクシスの頭の中には愛しい女神しかいない。美しく可愛らしく、ピュアでありながら男を翻弄する女神の姿を思い浮かべ、自然と笑っていたようだ。
 だらしなく緩んだ口元をさりげなく隠しながら、どうやって彼女を捕まえようかと策を練る。

 何故か顔を赤くして立ち尽くす彼女達とは別に、どこからか舌打ちが聞こえた気がした。



※※※※※※※※※※※※※※



 黄金の神殿の黄金の椅子に、ゆったりと腰掛けた運命の女神ファタは、赤い唇からフゥと息を吐いた。

「何か良いことでもありましたか、ファタ様」

 アレクシスとよく似た顔立ちの、彼よりも柔和な顔立ちをしたアストロン国王は、背もたれに凭れる女神に目を見開いた。

「ふむ。先ほどお前の息子が来たぞ」

「アレクシスが、ですか?」

「大地の女神の使命を知っていて尚、リアを諦められないらしい」

 リアが子を生まなければ、大地は枯れ、飢えて人間は数を減らすだろう。
 それでも、リアがいいと。リアでなくては意味がないと、アレクシスは言った。

「多数の人間の命より、自分の幸せを選ぶとは……アレは稀に見る馬鹿だな。誰に似たのやら」

 アレクシスの選択は、王族として人間として落第点だ。
 自分が犠牲になってでも他者を救いたいと言った、古の英雄とは真逆。しかし、神には意外と好まれた。

 その強欲っぷりに欲望の神デシルは大声で笑い、愛の女神は辺りにハートを散らした。

「愛の姉上が息子をえらく気に入ってな、お前達王族の呪いを解いてやると言っていた」

「…………い、今、何と?」

 息子の所業に打ちひしがれていた国王は、恐る恐る顔を上げる。

 先祖の過ちでアストロン国王族は、愛の女神から呪いを受けた。本当に愛する者と結ばれなければ子供が生まなけれない呪い。
 国王は王妃を心から愛し、息子が生まれた。
 その後、側室を迎えたことで、子が出来なくなった。
 表向きは政治的な結婚。その後、王妃との間に子が出来なかったのは、国王がほんの一時、側室に心を移したからだ。

 若気の至りだった。
 王妃を愛していながら、他の女の色香に負けるなんて完全に裏切り行為だった。自業自得だ。

 王妃は一度も責めなかった。柔らかく微笑み、けれど陰で泣いていた。
 大事な妻を泣かせてどれほど後悔しても、時は戻らない。

「くくっ……どうしたアストロンの国王よ。
 姉上の怒りは解けた。お前も久しぶりに二、三人、子を仕込んでみたらどうだ」

 運命の女神の言葉は魅力的だった。
 王族の跡継ぎが息子一人なのは、以前から問題視されていた。もしも息子に何かあった場合、王族の血筋は途絶える。後数人、子がいれば理想的だ。
 そういう未来の運命もあるのだ。

 王妃の年齢を考えれば、今さら子を望むのは身体に負担がかかるだろう。しかし側室なら……。一番若い側室はまだ三十歳になったばかり。可能性はある。

 一瞬浮かんだ思いに、国王は首を振った。

「止めておきます。王妃に……ミルドレッドに悲しい顔をさせたくありません」

 へにょりと眉を下げて力なく笑った国王に、ファタは「そうか」とだけ呟いた。

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