俺に取り憑いた幽霊が同級生を求めて困る

ことりさん

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気付いた気持ち

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 そのとき確かに、自分の意識がはっきりしている中で、自分とは別の意識が存在していることを暁生ははっきり感じた。
 そしてそれはとても恐ろしい感覚だ。
 このままこの得体の知れないヤツに乗っ取られでもしたら――そんなことが頭を廻り、悪夢にうなされるように飛び起きると、どこかの部屋だった。


「目覚めたか」
「弥彦、ここは?」
「俺の部屋だ」
「……入れてくれたんだ」
「目の前で倒れられたんだ、外に放っておくわけにもいかないだろう」

 大沢という名を口にしてから、弥彦はどこか複雑な表情をしており、いつもの弥彦とは明らかに違った。


「なあ、お前、俺が倒れる前に、”大沢”って言ったよな……正体わかったんだな」
 暁生が本題を切り出すと、弥彦は神妙な顔つきで答えた。
「……ああ」
「どういうやつなの?」
「クラスメイトだった。あんたが事故に合った同じ日に、死んだんだ」
「え……」
 そういえば、弥彦のクラスを訪ねたとき、女生徒の一人が、事故の話で大沢の名前を口走らなかっただろうか。そうだ、確かに大沢だった。
 しかし、暁生は自分の事故について完全に自分と車の衝突事故だと思っていたので、”大沢”という人物の関与については全く知らされていない。


「大沢ってお前のことが好きだったんだな」
「……大沢が死ぬ前、告白された」
「一応、確認しとくが、男だよな?」
「ああ」

「……何て、応えたんだ?」
「あんたの気持ちには応えられないって言ったんだ、それでもあいつは諦められないって、他に好きなやつがいるなら仕方がないけどって言ったんだ。だから、適当にさ、あんたの名前を使った……」
 後ろめたそうに、弥彦がちらりと暁生を見る。
「はぁーーー!!?」

「……すまん」
「なんで、俺の名前なんか」

「あんた、目立ってからさ、あの黄色いチャリで……クラスの女子がよく騒いでいるのを聞いてたし」
「なんだよ、それ。じゃあ、俺、完全にとばっちりじゃないか」
「あんたの名前を勝手に使ったのは謝るよ、ごめん。でも大沢がそのあと死ぬなんて思ってなかったし……」

 弥彦は、泣きそうな表情をしているように見える。

――どきん。

(そんな顔を、するなよな……)

 実を言うと暁生は、初めて弥彦とキスをしたときから、その唇に触れたいという気持ちに支配され続けている。そして、誰もいないこの部屋でも、暁生は弥彦に自分から口づけをしてしまった。
 これが”大沢”の影響なのか、魔が差しただけの衝動なのか、暁生には判断できない。だけれど、抵抗されない限りこの衝動を、今の暁生には止められなかった。

「んん」

 暁生に押し倒された弥彦は、初めて冷静を欠くような態度で両手を互いの体の間に挟んで抗ったが、結局は暁生の力にねじ伏せられ、最終的には暁生に身を任せた。
 大人しくなった唇からは、少し離れて再びくっつく度に震えが伝わってきたが、それは拒絶ではないと感じられた。


 暫くの間、味わっていた唇を離し、弥彦の顔を見つめると、すっかり逆上せたような顔をしていて、その表情が、自分の行為によって齎されたと思うと暁生はまた高揚した。暁生は完全に、どうにかなってしまったようだ。


「俺の名前を使ったのって、少しは俺に興味を持ってくれていたってこと? 違うかな」

「……」

「自惚れかな」

 弥彦は応えない。顔を背け、言葉を探しているようだ。

「そうだったら、名前を使ったこと許すよ」

「俺は……昔から、もしかしたら人を好きになれない質なんだって思ってたんだ。でも、あんたを初めて見たとき、惹き付けられたのは確かなんだ。だから……」
「何?」
「……大沢とは普通にダチだったんだ。でもあいつ、粘着気質なところがあって、きっぱり断るにも、もし女の子の名前を挙げたら攻撃されたら困るなって思ってさ。あんたなら男だし、何かあっても……その、もしかしたらそれを口実に話せたりするのかな、とか……思わなかったわけじゃない……」
「う~~なんだよその回りくどい説明は! こじらせ女子かよお前はっ!」

 弥彦は恥ずかしそうに暁生を突き離した。その一つ一つの仕草が暁生には可愛く見えて仕方ない。
「あんたはノーマルだろ? だったら、冗談で何度もこういうことすんの、やめろよな」
「なんで、だめなの?」
「……はあ?」
「俺さ、今ようやく自覚したんだけど、お前のこと、好きなんだよきっと。なんでかわかんないんだけど、俺の心臓がお前に反応すんのよ」
 暁生は、決心したように告白した。こんな積極的な告白を、思えば今までしたことがない。

「それは、お前の中の大沢が、だろ」
「いや、違う、俺だよ」
「違わないよ」

「……お前、強情だな」

「大沢が成仏したら、絶対にさっきの告白を後悔するよ……」
 弥彦は、ふっと笑い、暁生を跳ね除け、立ちあがった。
「あんたに取り憑いている霊がさ、大沢だって分かって、そいつの望みが分かったよ」
「本当か?」
「ああ」
「なんだよ、それを叶えたら、成仏して出ていってくれるんだろう」
「ああ」
「なんて、言っているんだ」
「……けるか…」
 その声は消え入りそうに小さかった。暁生の耳に全く入ってこなかった。

「なんだって? 」

「……俺のこと、抱けるかって、聞いたんだ」

「え……」

(いいのか、そんなことをしても……)

 暁生は、弥彦の想像していなかった言葉に困惑した。具体的にそんなことを想像したことがなかった。自分は弥彦のことが好きなことは自覚した。けれども、男が男を抱く、というのは……。
 暁生はもう一度確認した。
「……それが、大沢の願いなのか」
「……ああ、無理だろ絶対」

「……お前は、それでいいのかよ」

 弥彦は何も言わない。暁生は何と言葉を繋げて良いのか悩んだ。


「あんた、今日はもう帰れよ。あと、これ、肌身離さず持ってな」
「え」
 渡されたのはお守りだった。
「時間がないと思う、俺を好きなんて言っちゃって、脳まであいつに乗っ取られ始めたってことだろ。でも、正体は分かったからさ、お前を救う方法、他にもあると思うんだ。俺にはできないけど、親父ならできると思う」
「おい」
「変なこと言ってごめんな、忘れてくれ。明日また連絡するよ」
 そう言って半ば強引に帰された。

 そしてその夜、暁生は夢を見た。大沢が見せる夢である。

 夢の中で、暁生は大沢目線で授業を受けている。その目線の片隅には弥彦の後ろ姿が常にあった。大沢の感情が流れてくる。

――スキダ……ドウシヨウモナイケド、スキナンダ……。


 なんとなく、大沢は自分の気持ちが報われないことを知っているようだ。暁生がよく涙を流していた理由が分かった。あれは失恋を理解しての涙だ。
 大沢は、本当は成仏したいんだということも、なんとなく感じた。
 けれども、きっかけが、やはり必要なようだ。暁生は、頭を抱えた。

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