花婿が差し替えられました

凛江

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突然の花婿交替劇

ミツバチはやっぱりミツバチ

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晴れて婚約者になったナルシスははじめの頃こそせっせとアリスに会いに伯爵邸に通ったが、それもすぐに飽きた。
全く合わないのだ。趣味も。話も。感性も。

ナルシスにとって女の子というのは愛でる存在であった。
女の子たちは皆ナルシスを潤んだ目で見上げ、可愛らしい声で甘えてくる。
だが、アリスはその見目こそ麗しいが、話す内容は小難しいことばかり。
ナルシスを見て小さく微笑みはするが、その瞳には全く甘さを含んでいない。
それに、なんといっても触れ合いが少ない。
エスコートする時腕にそっと手を沿わせたり、ダンスの時手を軽く重ねたりするくらいで、それ以上の接触を彼女は許そうとしないのだ。
正直、ナルシスに触れられて顔を赤らめない女性など、彼にとっては初めてであった。

結局、しばらくするとナルシスは相変わらずのミツバチ野郎に戻り、サンフォース伯爵家にアリスを訪ねることも外に連れ出すことも減って行った。
ナルシスにすれば、結婚すれば二人の仲も変わるだろうという楽観的予想もあっただろう。
今はもう結婚が決まっている婚約者の機嫌をとるより、独身生活最後の足掻きとばかりに遊び回った方がいい。

そうして二人の姿が共に見られる場は徐々に減っていった。
別々に夜会に参加してバッタリ顔を合わせるなどということもしばしば。
そんな時ナルシスはアリスとは別の女性をエスコートしていて、アリスは家族や親戚、または事業の提携相手と共に参加していたものだ。
ある日など、アリスが見ていることも知らず、ナルシスがどこぞの令嬢と物陰でキスを交わしていることもあった。

それは、ある家のガーデンパーティに参加した時のことである。
別々に参加はしたがいちおう婚約者に挨拶しようと探していたアリスが、婚約者とその日のパートナーが物陰で寄り添っているのを見かけた。
パートナーはたしか、婚約の話が出る前から恋人の一人だと噂になっていたどこぞの令嬢である。
アリスが声をかけるのを躊躇しているうち、令嬢が鼻をすすって泣き始めた。
「本当にひどいですわ、ナルシス様。私という者がありながら…」
「仕方ないだろう?僕もコラール侯爵家の息子として、父に逆らうわけにはいかないんだよ」
「私とは遊びだったのですね?」
「とんでもない。今でも僕の一番は貴女だよ。でも、どうかわかっておくれ。僕だって身を切られるように辛いんだ」
ナルシスは令嬢を慰めるように抱きしめると、優しくキスをした。
まるで恋愛小説のワンシーンのように美しい場面だが、アリスは鼻白んだ。
このようなシーンを、一体何人の令嬢と繰り広げたのか、このミツバチはと。

結局婚約期間の一年余り、アリスとナルシスは最低限しか顔も合わせず、行動を共にしてもいない。
双方の両親は心配して苦言を呈し、とりわけサンフォース家と縁が結べることに狂喜していたコラール侯爵は息子を口うるさく叱っていたはずだ。
たがナルシスの素行が変わることもなく、また、それに対してアリスが抗議するようなこともなかった。

正直、アリスはナルシスに対して全く恋愛感情はなく、誠実な夫としての期待もしていなかった。
だって夫など、誰でもよかったのだ。
サンフォース家の事業に役立ち、友好的な関係を保てる家の息子なら誰でも。
法に触れるようなことをせず遊んでいるだけなら可愛いものだ。
下手に頭が切れすぎたり、野心を抱いてサンフォース家を乗っ取ろうとするような男では困るし、女伯爵になるアリスを妬んでそれに取って代わろうとするような男でも困る。
かえって、事業に興味がなく女の尻を追いかけているような男なら都合がいいではないか。
それにあれだけ女好きな男なら、アリスが後継を産む手伝いも上手にしてくれることだろう。
ひとり娘である自分には跡継ぎを作るという使命もあるから。

幸いナルシスは見目麗しく清潔感はある。
生理的に受け付けないこともないだろう。多分。
数多くの女性と付き合ってきたことは特に気にならない。
お互い嫉妬も独占欲もなければ、案外うまくやれるだろうと思うのだ。
 
要するにアリス自身、こと恋愛に関してはポンコツだったのである。
アリスだって、恋愛を馬鹿にする気はないし、実際未だに仲良くイチャイチャしている両親を見て素直に微笑ましいとも思う。
しかし自分は、普通の女性たちのように想い想われることに幸せを感じるような可愛い女じゃないのだ。
立派な女伯爵になること…、それこそが、自分の夢なのだから。
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