花婿が差し替えられました

凛江

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近づく、離れる

その日のクロード

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その日クロードは、夜勤明けで昼近くまで眠っていた。
目を覚ますといつものように庭で鍛錬し、軽く昼食をとり、ゆっくり身支度を整える。
今から、アリスを王宮に迎えに行くのだ。
その後は一緒に外食する予定で、レストランも予約してある。
庶民も行くような、気軽なレストランである。

ただ、レストランに行く前に、クロードは宝飾品の店に寄るつもりだ。
来月はアリスの誕生日があるから、何か贈り物をと思ったのだ。
本当はサプライズでプレゼントしたいところだが、クロードは自分には絶望的にセンスが無いとわかっている。
だから、アリスの好むような物を、彼女に似合うような物を、一緒に見て選びたいと思っている。
先日避寒地の土産として買おうと思った物は全て先に王女に買われてしまった。
今度こそ、心を込めてアリスに贈り物をしたいと思う。

今朝サンフォース邸に帰って来た時は、ちょうど今から出かけるというアリスがダイニングから出て来たところだった。
クロードを見つけて「おかえりなさい」と顔を綻ばせるアリスがなんとも可愛く、夜勤で疲れた心と体が一瞬で癒された。
そう、何故か彼女は日に日に可愛くなっていくのだ。
最初の頃はその態度も言葉遣いも年上の年相応の女性にしか見えなかったが、今の彼女は年齢とか関係なく可愛い人だと思う。

「今日、忘れないでくださいね、旦那様」
「もちろん。何をおいても迎えに行くよ」
「約束よ」
最近ではよそよそしい言葉遣いも減り、気の置けない話し方をするようにもなってきている。
もう少し距離を詰めたら…。
そうしたら、クロードは今の自分の気持ちを伝えたいと密かに思っている。
そう、この、いつの間にか大きく育ってしまった気持ちを。
例えば、来月のアリスの誕生日を祝いながら…。

気持ちを伝えて、それでどうなるかはわからないし、自分の気持ちをアリスに押し付けるつもりはない。
万が一アリスとの離縁が回避できたとしても、クロードが簡単に護衛騎士を辞めるわけにもいかない。
結局は、もっと大変でもっと悩むことになってしまうかもしれない。
でも、もうクロードはアリスと離れる未来は考えたくなかった。

王宮のエントランスには、貴族家の馬車が列を成していた。
地位の高い家の馬車から順に、主人を待っているのだ。
そんな中、サンフォース家の馬車もまた列の中程で並んでいて、クロードはエントランス付近でアリスが現れるのをしばらく待っていた。
しかし、どんどん貴族たちが出て来て馬車が減って行っても、なかなかアリスは現れない。
元々会合の後王太子妃に顔を見せてから帰ると言っていたから多少遅くなるとは思っていたが、それにしても約束の時間を過ぎても現れないアリスに、クロードはだんだんおかしいと思うようになってきた。
アリスはクロードが迎えに来ることも、その後食事に行くことも楽しみにしていたはずなのだ。
なのに、何の言伝もなく遅れるのは、誰に対しても必ず約束を守ろうとする彼女の性格からいってもおかしい。
いっそ王太子宮まで迎えに行きたかったが、一介の騎士である、しかも特に今日はサンフォース家の護衛でしかないクロードが王太子夫妻の宮に足を踏み入れるわけにもいかない。
仕方なくエントランス付近を守っていた騎士を通じて王太子妃に言伝を頼んだのだが、なんと、王太子妃からは『待っていたがアリスは来なかった』という返答があった。

(絶対におかしい…!)
心配でたまらなくなったクロードは、馬車の御者にこのままここで待つように言い、自分は騎士の宿舎に急いだ。
宿舎の部屋には隊服があるから、それを着れば少しは王宮内を自由に歩き回れると考えたのだ。

隊服に着替えて宿舎を飛び出したところで、クロードは同僚の騎士と出会い頭にぶつかりそうになった。
クロードも急いでいたからだが、相手も慌てるように駆け込んできたところだったからだ。
一瞬その顔が見えて違和感を感じたが、時間の惜しいクロードは「悪い」とだけ言ってその場を去った。

会合のあった部屋がある執務棟の前に戻ると、クロードはエントランス付近を守っている騎士に「会合の部屋にサンフォース伯爵が残っていないか確認して欲しい」と頼んだ。
騎士は訝しんではいたがすぐに確認を取ってくれたようで、少し待っているとアリスと直接話したという騎士が現れた。
その騎士の話では、アリスから王太子宮に案内を頼みたいと言われたところに、ちょうど迎えの騎士が来たとのことだった。
彼女は王太子妃殿下と約束があるとの話だったから妃殿下が騎士を迎えに寄越したのだろうと思ったのだが、その後妃殿下の方から「サンフォース伯爵がなかなか来ないが、まだ会合が続いているのか」と問い合わせがあったと言う。
「私も、何が何だかわからないのです」
騎士は困ったように眉尻を下げた。

(アリスは妃殿下のところに行くと案内された…。なのに、妃殿下には会っていない…。…まさか…!)
「その、サンフォース伯爵を案内した騎士はどんな男でしたか⁈」
突然クロードに迫られた騎士は思わず仰け反りそうになりながら答えた。
「貴方と同じように、護衛騎士の隊服を着ていましたが…」
「彼は王太子妃殿下の護衛騎士と言っていましたか?年頃は?背格好は⁈」
「…王太子宮から迎えに来たとは言っていましたが、妃殿下の護衛騎士だとは言っていませんでした。…そうですね。年齢は貴方と同じくらいで、背はもう少し低かったか…。栗色の髪で、眼鏡をかけておりました」
「…アイツ…!」
クロードは騎士に礼を言うと執務棟のエントランスを飛び出した。
アリスを連れ出した騎士に思い当たったのだ。
それは、先程騎士の宿舎前ですれ違った、栗色の髪に眼鏡をかけた同僚の騎士。
今朝まで一緒に夜勤をしていた、ルイーズ王女の護衛騎士だった。
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