花婿が差し替えられました

凛江

文字の大きさ
34 / 48
近づく、離れる

再び王宮で

しおりを挟む
クロードが避寒地から戻ってきて一月くらい経った頃、アリスは再びルイーズ王女と王宮で遭遇した。
その日は仕事で王宮を訪れた帰りに王太子妃ゾフィーの部屋でお茶を楽しんでいたのだが、非常識にも、突然ルイーズ王女が現れたのだ。

「お義姉様!私もご一緒させてくださいませ!」
先触れもなく現れた義妹に、ゾフィーは眉を顰める。
「ルイーズ、いつも言っているけれど、王族としての自覚と品位を持ちなさい」
「わかってるわよ!でも来年には隣国に嫁ぐのだもの。それまでは甘えさせてくれたっていいでしょう?」
「仕方ないわね…。ごめんなさいアリス。少しだけ付き合ってくれる?」
ゾフィーに申し訳なさそうに頼まれ、アリスは「とんでもない」と首を横に振った。
いつもなら兄である王太子からこってり叱られるからと、ルイーズはゾフィーに対してはあまり無茶なことをしないらしい。
しかしここ数日は王太子が視察で王都を出ているので、王女は増長しているようなのだ。
これは、後でゾフィーが話してくれたことだ。

「クロードの奥さんね、ごきげんよう」
ルイーズはアリスのすぐ側に腰をかけた。
彼女の護衛騎士たちは部屋の外で控えている。
「お目にかかれて光栄です、王女様」
「ああ、今日は残念ながらクロードはいないわよ。まぁ、奥さんなら知っているでしょうけど」
「……はい」
クロードは夜勤明けで、今頃まだサンフォース邸で眠っている。
ここでクロードと顔を合わせなくて済んだことに、アリスは少しホッとしていた。
正直、ルイーズにべったり侍っているクロードなどあまり見たくはない。
しかしこの後のルイーズとの会話で、アリスは神経をすり減らすことになる。

「私、クロードの奥さんと色々話してみたかったのよね」
「私と…、ですか?」
「ほら、来年私が隣国に嫁ぐ時、クロードは私に付いてくるでしょう?貴女はどうする気なのかと思って。だって貴女だって女伯爵としてのお仕事があるでしょうし。それに、クロード自身は貴女をどうするつもりなのかしら」
「はぁ…」
「ほら、クロードがいない方が言いやすいことだってあるでしょう?」
意味ありげに含み笑いするルイーズに、アリスは苦笑で返した。

「夫のことは私より…、王女様の方が良くご存知かもしれません」
「そうね。私の方がずっと長く一緒にいるもの。でも最近クロードったら自宅へ帰ることが多くなったのよね。前はいつも宿舎に寝泊まりしていたから、呼び出せばすぐに駆けつけて来たのに」
そう言うとルイーズは横目でアリスを流し見た。
何やら愚痴を言いはじめたルイーズに、アリスは少し面倒臭くなってきた。
いや、最初から居心地は悪かったけれど、正直もう色々放ってここから出て行きたい。
そんなアリスの代わりに、ゾフィーが口を挟んでくれる。
「そうね、それは良い傾向だわ。休みの日も王宮にいるのでは、クロードだって身も心も休まらないでしょうから」
しかしゾフィーの言葉はかえってルイーズの気持ちを煽ったようだ。

「自宅だからって休まるかしら。ねぇ、家にいる時クロードは何してるの?まさか、伯爵家の手伝いなんてさせてないわよね?夫婦で、いつもどんな話をしてるのかしら?私はクロードの主人なのだから教えてくれてもいいでしょう?」
「いい加減になさいルイーズ。夫婦の会話を聞くなんて下品よ」
ゾフィーに嗜められたルイーズは、目を吊り上げてふいっと顔をそらした。
王女は一体アリスに何をしたいのだろうか。

「ところで…」
ルイーズはふとアリスの髪を見上げて、髪飾りに目を留めた。
「あなたのその飾り、クロードからプレゼントされたの?」
それは大きなサファイアの付いた、宝石加工で有名な貿易相手から買った一点物だ。

もちろんクロードからもらった物ではない。
「これは…、自分で購入しました」
「そう…」
ルイーズはにわかに口角を上げ、自分の髪に手をやった。

「まぁ、クロードに宝石を見る目なんてないものね。だって見てよ。これね、クロードに買ってもらったのよ。ほら、離宮にいた時に私に似合うからって贈ってくれたんだけど、これなんてガラス玉よね。でも色や形のセンスはいいから使ってあげてるの。それにしても自分の瞳の色を私に付けさせるなんて、クロードったら、何考えてるのかしらね。ホント笑っちゃう。それからね、王都に帰ったら寒いからって言ってショールも贈ってくれたの。安物だったけど、結構温かかったわ」

ルイーズが延々と語る中、アリスはただ黙って聞いていた。
ゾフィーがなんとかルイーズの話をやめさせようと何度も口を挟んでいたが、ルイーズはとうとう言いたいことを全て言い切ったようだ。
晴れ晴れとした顔でルイーズが引き上げて行くと、ゾフィーは心配そうにアリスに声をかけた。
「今日は本当にごめんなさいねアリス。ルイーズの言っていたことは気にしないで。あんなこと、全部嘘に決まっているから」

嘘…、なのかな?とアリスは思う。
アリスはクロードから装飾品などもらったことがない。
あんな、女慣れしていないような人だから当然のように思っていたけど、実は、ルイーズ王女には贈っていたのだとしたら…。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

月夜に散る白百合は、君を想う

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。 彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。 しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。 一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。 家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。 しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。 偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】呪言《ことほぎ》あなたがそうおっしゃったから。

友坂 悠
恋愛
「君はまだ幼い、私は君を大事にしたいのだ」  あなたがそうおっしゃったから。  わたくしは今までお飾りの妻でがまんしてきたのに。  あなたがそうおっしゃったから。  好きでもない商会のお仕事を頑張ってこなしてきたのに。  全部全部、嘘だったというの?  そしたらわたくしはこれからどうすればいいっていうの?  子供の頃から将来の伴侶として約束された二人。  貴族らしく、外あたりが良く温厚に見えるように育ったラインハルト。  貞淑な令嬢、夫を支えるべき存在になるようにと育てられたアリーシア。  二人は両家に祝福され結婚したはず、だった。  しかし。  結婚したのはラインハルトが18になった歳、アリーシアはまだ14歳だった。  だから、彼のその言葉を疑いもせず信じたアリーシア。  それがまさか、三年後にこんなことになるなんて。  三年間白い結婚を継続した夫婦は子を残す意思が無いものと認められ、政略的な両家のしがらみや契約を破棄し離縁できる。  それがこの国の貴族の婚姻の決まりだった。  元は親同士の契約に逆らって離縁しやり直すための決まり事。  もちろん、そんな肉体的繋がりなど無くても婚姻を継続する夫婦は存在する。  いや、貴族であれば政略結婚が当たり前、愛はなくても結婚生活は続いていく。  貴族の結婚なんて所詮そんなもの。  家同士のつながりさえあれば問題ないのであれば、そこに愛なんてものがなくってもしょうがないのかも、知れない。  けれど。  まさかそんなラインハルトから離婚を言い出されるとは思ってもいなかったアリーシア。  自分は傾いた家を立て直すまでのかりそめの妻だったのか。  家業が上手くいくようになったらもう用無しなのか。  だまされていたのかと傷心のまま実家に戻る彼女を待っていたのは、まさかのラインハルトと妹マリアーナの婚約披露。  悲しみのまま心が虚になったまま領地に逃げ引き篭もるアリーシアだったが……  夫と妹に、いや、家族全てから裏切られたお飾り妻のアリーシア。  彼女が心の平穏を取り戻し幸せになるまでの物語。

【完結】恋が終わる、その隙に

七瀬菜々
恋愛
 秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。  伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。  愛しい彼の、弟の妻としてーーー。  

愛する人のためにできること。

恋愛
彼があの娘を愛するというのなら、私は彼の幸せのために手を尽くしましょう。 それが、私の、生きる意味。

処理中です...