さげわたし

凛江

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第一章 セドリック

二度目の晩餐①

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その晩、セドリックは二ヶ月ぶりに離れで夕食をとることにした。
そのことをアメリアに伝えるためソニアを離れに出向かせたのだが、それを聞いたアメリアの反応が気になった。
何せ新婚早々二ヶ月も放っておいたのだ。

しかも初夜の晩に『私が貴女を愛することはない』『公爵夫人としてのつとめは後継を生むことだ』などと暴言を吐いた。
仕事を理由に離れから足が遠のいていたのも、正直顔を合わせるのが気まずかったこともある。

しかしソニアやカリナをはじめ皆がアメリアに興味を持ち、絆されていく過程を聞き、セドリック自身もアメリアに興味がわいてしまった。
彼女の顔を見たいと思ったのだ。
そして会ってみれば、今度は言葉を交わしたいと思った。

そして二ヶ月ぶりに晩餐を共にしようと思ったのだが、今度はそれを聞いた彼女の反応が気になった。
離れから戻ってきたソニアにアメリアの反応を聞くと、ソニアはちょっと言いずらそうに眉をひそめた。

「ソニア、王女殿下は何か言っていたのか?」
「え?何をですか?」
「ほら。今日私と晩餐を共にすることをだ」
「ええ、まぁ、そうですわね」
「ソニア?」
「ええ…、直接私に言ったわけではないのですが…。奥様はハンナにこぼしていましたわ。着替えるのが面倒だと…」
「着替えるのが…、面倒だと?」

たしかに、公爵夫人として夫と晩餐を共にするなら、少々のドレスアップは必要だろう。
しかし、面倒か?
彼女は生まれた時から貴族であり王族であったのだから、そんなことは当然なことだろうに。
着替えるのがというより、そもそもセドリックとの晩餐が面倒だということではないのだろうか。

「王女殿下は、いつもどんな格好で食事をとっていたんだ?」
セドリックが全く離れに顔を出さなかったこの二ヶ月間、アメリアは毎日一人で食事をしていたのだ。
新妻を放置しているという事実をあまり考えたくなくて、セドリックは夕食のことは部下に報告させていなかった。

「今朝旦那さまがご覧になったような、質素なワンピースで毎日お過ごしです。食事も奥様の指示で、わざわざ奥様用に作らず、使用人たちが食べるものと同じでいいとおっしゃって。食事はハンナやカリナととったり、時には厨房の料理人たちと一緒にとってもいるようです」
「一人では…、なかったのか…」
だからあんなに料理長たちとの仲も良さそうだったのだ。

彼女はどうやら毎日楽な格好で、趣味に没頭し、気に入った時間に気に入った人たちと、気に入ったものを食べていたらしい。
そこに二ヶ月も顔も見せない夫の存在など必要ない。
今更その夫と食事をとるからといって、着飾るのも馬鹿馬鹿しいのだろう。
「たしかに…、面倒に思うだろうな」
セドリックはぽつりと呟いた。

早めに仕事を切り上げて離れへ向かい、アメリアの部屋の扉をノックした。
だが、彼女は部屋にいなかった。
晩餐に向かうにはまだ早い時間だが、セドリックはダイニングルームに足を向けてみる。
厨房の前を通りかかった時、中からアメリアのものらしき声が聞こえてきた。

「もうあげていいわね!豆は茹ですぎるとクタッとなっちゃうから!」
「奥様危ないですよ。私がやりますから」
「ダメよ、私にやらせて!だって私が種から育てたんだもの!調理だって私がやりたいわ!」

明るい声と、いかにも少女らしい幼さの残る話し方。
これが、本来の彼女の姿なのだろう。
セドリックは黙って厨房の前を通り過ぎると、ダイニングルームに入って行った。
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