7歳の侯爵夫人

凛江

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7歳、やり直し

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草だらけになってしまった服を着替えるためにコンスタンスが部屋に戻ると、窓辺の花瓶にまた見慣れない花が飾ってあった。

「また、贈ってきたの?」

コンスタンスは彼女の汚れた服を脱がせて眉間に皺を寄せている乳母のアンナにたずねた。

コンスタンスの知っていたアンナはおばさんくらいだったが、公爵邸に戻ってきて再会したアンナは変わってしまっていてびっくりしたものだ。

思わず
「アンナ、おばあちゃんになっちゃったの⁈」
などと言って母に叱られたものである。


窓辺の花は、ヒース侯爵が贈ってくるものだ。

侯爵は、3日に一度はこうしてコンスタンスに花を贈ってくる。

何度か面会も申し込まれているらしいが、それは父が断り続けている。

家族は、ヒース侯爵をコンスタンスに会わせたくないらしい。

どうやら侯爵はコンスタンスの夫らしいのだが、記憶にない夫など彼女にとっては遠い親戚よりもさらに遠い存在だった。




コンスタンスが自分の今の状況を知ったのは、ルーデル公爵邸に戻る日の朝だった。

目覚めてからヒース侯爵邸を出るまでの数日間、家族はコンスタンスを混乱させないためにと、鏡も見せず、オレリアンにも会わせなかった。

しかし、この先全ての鏡を隠すわけにも、ずっと彼女を外に出さないわけにもいかない。

それに、鏡は見なくとも成長して女性らしくなった自分の体に気がついたコンスタンスは、最初見た時怯えて泣き叫んでいた。

彼女からすれば昨日まで7歳だった自分の体が、一晩で手足も、胸もお尻も大きくなってしまったのだから、怯えるのは当然のこと。

だが父の話を聞き、ひとしきり泣くと、コンスタンスは今の不思議な状況を少しだけ理解した。



公爵はヒース侯爵邸からコンスタンスを引き取る前に、コンスタンスに今までのことを告げた。

細かい、心に痛みを伴うような話はなるべく排除して、だが、事実はほぼ伝えたつもりだ。

7歳の知能のコンスタンスがどこまで理解するかはわからないが、彼女に隠したり、嘘をつくのは嫌だったから。

それは、コンスタンスが記憶を取り戻した時、再び彼女を傷つけることになるだろうから。


告白の場には、母や兄、そしてこの邸の主人であるヒース侯爵もいた。

目覚めた日、部屋に飛び込んできたのはこの人だ…、とコンスタンスは彼を見て思った。

あの時は驚いて泣き出してしまったけど、よく見るととても綺麗な男の人だ。


そもそも、何故怪我をしたのか。

そして何故、怪我をした自分が何日も、何も関係のないヒース侯爵邸で寝ていたのか、それがコンスタンスにはわからない。

例えば怪我をしたのがたまたまこの邸の前で、彼は親切にも自分を保護してくれて…、などと、7歳の知能なりに推理してはみたのだが。

とにかく理由はわからないが、この男の人は見ず知らずのコンスタンスを自分の邸に置いてくれているのだから、絶対に良い人なのだろう。

そんなことを考えながら、コンスタンスはヒース侯爵を見ていた。

すると、視線を感じたのか、こちらを向いた侯爵と目が合う。

コンスタンスは思わず、ニコッと笑って見せた。

侯爵の目が驚いたように見開かれる。

(どうして驚くのかしら)

コンスタンスはなんだか気持ち悪くなって、すぐに視線を逸らした。

ルーデル公爵邸で働く人も、公爵邸を訪ねてくるお客様も、皆、コンスタンスがニコッと笑うと笑って返してくれたのに。

(あの人はどうして私を見て驚くのかしら?)

金髪に蒼い目のヒース侯爵は、パッと見王子様みたいに素敵な人だと思う。

でも…。

(お兄様みたいな気さくな人なら話してみたかったのに…)

微笑み返してくれないヒース侯爵を不満に思ったコンスタンスは、その後父が真実を語り終えるまで二度と彼の方を見なかった。

そう。

自分が本当は19歳で、ヒース侯爵オレリアンが自分の夫と知るまでは。

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