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7歳、やり直し
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「じゃあ、ヒース侯爵様は私の旦那様なの?」
コンスタンスはコテンと首を傾げて父とオレリアンを交互に見た。
要するにコンスタンスは理不尽にも王太子と婚約解消され、オレリアンはさらに理不尽にも王命でコンスタンスを押し付けられたのである。
しかし、今のコンスタンスにそんな難しいことが理解できるわけがない。
コンスタンスが理解したのは、フィリップが隣国の王女様に見初められて、婚約者のいなくなった自分がオレリアンと結婚した…ということだけである。
「ねぇお父様。
侯爵様は私の旦那様なのでしょう?」
「ああ、そうだ、書類上は」
ルーデル公爵が微かに苦虫を潰したような顔をする。
「ふうん」
コンスタンスは夫だというヒース侯爵の顔をマジマジと見つめた。
彼の方もジッとコンスタンスを見返してきたが、やがて居心地が悪そうに視線を逸らした。
(本当にぜんっぜん笑わない人ね)
お顔は綺麗なのにもったいない…、と、コンスタンスは人ごとのように思った。
夫だと聞いても、何も感じない。
それより、フィリップと破局していたということの方がショックである。
一方オレリアンの方も、コロコロと表情を変えるコンスタンスに不思議な感覚を覚えていた。
結婚していた1年余りの間、オレリアンはコンスタンスの笑顔をほとんど見たことがない。
笑顔といっても、口角を僅かに上げ、顔に貼り付けたような笑顔である。
常に公爵令嬢として、王太子の元婚約者としての威厳を保っていた彼女は、いつだって背筋をピンと伸ばし、凛として立っていた。
人に傅かれるのが常であり、弱いところは一切見せなかった。
喜怒哀楽を表情に出さず、可愛げもなかった。
つまり…、つまらない女だったのである。
先日まで子爵家の息子でしかなかったただの騎士である自分を、見下しているようにも思えた。
花嫁と引き換えに爵位と莫大な持参金を手にした金の亡者のように思って蔑まれているのかもしれないとも思った。
実際貴族の中ではそんな風に噂されているのも知っている。
でも…、別に、金も高位貴族の身分もいらなかった。
王命だから、断れなかっただけだ。
元々子爵家の次男で継ぐ爵位もなかったオレリアンは、騎士として身を立てるつもりであった。
それが、突然嫡子のいなかった伯父の養子として伯爵家に入ることになり、その後伯父の急死で伯爵家を継ぐことになった。
そして、伯爵家を継いですぐに公爵令嬢との縁談だ。
侯爵に叙爵されたのは、元王太子の婚約者の嫁入り先にしては落差があり過ぎるとの王家の判断であり、押し付けだ。
寧ろオレリアンは騎士として身を立てたかったのであり、伯爵位を継いだのは伯父の急死でやむを得なかったから。
しかし、瞬く間に侯爵にまでなったオレリアンに、世間の目は冷たい。
それまで味わったことのない嫉妬、蔑みの目に、オレリアンは屈辱を覚えた。
爵位に興味のなかった彼にとって、叙爵なんてかえっていい迷惑だったのだ。
そして、爵位と共に与えられた、冷たく、自分を見下すような高位貴族出身の妻。
だから…、オレリアンにとっては最初から愛のない押し付けられた花嫁であり、愛そうとする努力も必要ないように思われたのである。
オレリアンはもう一度コンスタンスの顔を見た。
妻の顔ではあるが、さっきから父親の話に赤くなったり青くなったり、笑ったり怒ったり…、まるで百面相だ。
最初は記憶喪失なんて彼女の狂言かもしれないと思う気持ちもあった。
だって家族は覚えていて夫だけ覚えていないなんておかしいではないか。
それ程、自分は彼女にとって憎むべき相手であって、存在さえ否定したいのかと。
だが…、今、7歳だというコンスタンスを見ていて思う。
あの仕草、言葉遣いは狂言では出来ないだろう。
でも不思議に思うのは、コンスタンスが父親の話を全て受け入れていることだ。
たしかに目覚めてすぐの時は動揺して泣き叫んでいたが、今は全て納得するように静かに聞いている。
7歳だと思っていた自分が突然19歳だと言われ…、全く知らぬ、23歳の夫がいると言われ…。
取り乱しもせず、怒りもせず、こんなに淡々と受け入れられるものなのだろうか。
お妃教育は、10年近くにも及んだと聞いている。
記憶は消えても、彼女の中に、潜在能力としてまだその教育が潜んでいるのかもしれない。
幼な子のように足を揺らしたり目をキョロキョロとさせながらも父親の話を聞くコンスタンスを、オレリアンは興味深く眺めていた。
てっきり、オレリアンが夫だと知った彼女は怯えて泣き叫ぶと思っていた。
だが、彼女の目からはオレリアンに対する嫌悪感は伺えない。
(毛嫌いされては、いないようだ…)
オレリアンはそれだけで、心が少しだけ軽くなったような気がしていた。
コンスタンスはコテンと首を傾げて父とオレリアンを交互に見た。
要するにコンスタンスは理不尽にも王太子と婚約解消され、オレリアンはさらに理不尽にも王命でコンスタンスを押し付けられたのである。
しかし、今のコンスタンスにそんな難しいことが理解できるわけがない。
コンスタンスが理解したのは、フィリップが隣国の王女様に見初められて、婚約者のいなくなった自分がオレリアンと結婚した…ということだけである。
「ねぇお父様。
侯爵様は私の旦那様なのでしょう?」
「ああ、そうだ、書類上は」
ルーデル公爵が微かに苦虫を潰したような顔をする。
「ふうん」
コンスタンスは夫だというヒース侯爵の顔をマジマジと見つめた。
彼の方もジッとコンスタンスを見返してきたが、やがて居心地が悪そうに視線を逸らした。
(本当にぜんっぜん笑わない人ね)
お顔は綺麗なのにもったいない…、と、コンスタンスは人ごとのように思った。
夫だと聞いても、何も感じない。
それより、フィリップと破局していたということの方がショックである。
一方オレリアンの方も、コロコロと表情を変えるコンスタンスに不思議な感覚を覚えていた。
結婚していた1年余りの間、オレリアンはコンスタンスの笑顔をほとんど見たことがない。
笑顔といっても、口角を僅かに上げ、顔に貼り付けたような笑顔である。
常に公爵令嬢として、王太子の元婚約者としての威厳を保っていた彼女は、いつだって背筋をピンと伸ばし、凛として立っていた。
人に傅かれるのが常であり、弱いところは一切見せなかった。
喜怒哀楽を表情に出さず、可愛げもなかった。
つまり…、つまらない女だったのである。
先日まで子爵家の息子でしかなかったただの騎士である自分を、見下しているようにも思えた。
花嫁と引き換えに爵位と莫大な持参金を手にした金の亡者のように思って蔑まれているのかもしれないとも思った。
実際貴族の中ではそんな風に噂されているのも知っている。
でも…、別に、金も高位貴族の身分もいらなかった。
王命だから、断れなかっただけだ。
元々子爵家の次男で継ぐ爵位もなかったオレリアンは、騎士として身を立てるつもりであった。
それが、突然嫡子のいなかった伯父の養子として伯爵家に入ることになり、その後伯父の急死で伯爵家を継ぐことになった。
そして、伯爵家を継いですぐに公爵令嬢との縁談だ。
侯爵に叙爵されたのは、元王太子の婚約者の嫁入り先にしては落差があり過ぎるとの王家の判断であり、押し付けだ。
寧ろオレリアンは騎士として身を立てたかったのであり、伯爵位を継いだのは伯父の急死でやむを得なかったから。
しかし、瞬く間に侯爵にまでなったオレリアンに、世間の目は冷たい。
それまで味わったことのない嫉妬、蔑みの目に、オレリアンは屈辱を覚えた。
爵位に興味のなかった彼にとって、叙爵なんてかえっていい迷惑だったのだ。
そして、爵位と共に与えられた、冷たく、自分を見下すような高位貴族出身の妻。
だから…、オレリアンにとっては最初から愛のない押し付けられた花嫁であり、愛そうとする努力も必要ないように思われたのである。
オレリアンはもう一度コンスタンスの顔を見た。
妻の顔ではあるが、さっきから父親の話に赤くなったり青くなったり、笑ったり怒ったり…、まるで百面相だ。
最初は記憶喪失なんて彼女の狂言かもしれないと思う気持ちもあった。
だって家族は覚えていて夫だけ覚えていないなんておかしいではないか。
それ程、自分は彼女にとって憎むべき相手であって、存在さえ否定したいのかと。
だが…、今、7歳だというコンスタンスを見ていて思う。
あの仕草、言葉遣いは狂言では出来ないだろう。
でも不思議に思うのは、コンスタンスが父親の話を全て受け入れていることだ。
たしかに目覚めてすぐの時は動揺して泣き叫んでいたが、今は全て納得するように静かに聞いている。
7歳だと思っていた自分が突然19歳だと言われ…、全く知らぬ、23歳の夫がいると言われ…。
取り乱しもせず、怒りもせず、こんなに淡々と受け入れられるものなのだろうか。
お妃教育は、10年近くにも及んだと聞いている。
記憶は消えても、彼女の中に、潜在能力としてまだその教育が潜んでいるのかもしれない。
幼な子のように足を揺らしたり目をキョロキョロとさせながらも父親の話を聞くコンスタンスを、オレリアンは興味深く眺めていた。
てっきり、オレリアンが夫だと知った彼女は怯えて泣き叫ぶと思っていた。
だが、彼女の目からはオレリアンに対する嫌悪感は伺えない。
(毛嫌いされては、いないようだ…)
オレリアンはそれだけで、心が少しだけ軽くなったような気がしていた。
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