37 / 100
蜜月、やり直し
5
しおりを挟む
森を抜けると、目の前には大きな湖が広がった。
「うわー、綺麗!
旦那様の目の色みたい!」
馬から下ろしてやると、コンスタンスは靴を脱ぎ捨て、湖へ向かって走った。
躊躇することなく湖に足を踏み入れると、
「冷たい!」
と声を上げる。
膝の上までスカートを持ち上げてはしゃぐ妻の姿に目を細めていると、
「旦那様も早く!」
とこちらに向かって手を振った。
オレリアンもブーツを脱ぎ捨てると、妻の元へ走り寄る。
「気持ちいい!ね、旦那様!」
「ああ!……そらっ!」
オレリアンは妻を軽々と抱き上げると、水の中でくるくると回った。
コンスタンスがキャッキャと声を上げる。
だが、目が回ったのか、藻に足が取られたのか、オレリアンはバランスを崩し、コンスタンスを抱いたまま水の中に尻餅をついた。
「もー!旦那様ってば!
濡れちゃったじゃない!」
「ハハッ!コニーはちょっとだろ?」
たしかに水深が浅いため、抱き上げられていたコンスタンスはそれほど濡れていない。
「でも旦那様が風邪ひいちゃうわ」
「日向に出てれば乾くだろ?」
オレリアンは水に浸ったまま、妻を抱きしめ、微笑んだ。
「…コニー。
私の…、いや、俺のことも、名前で呼んでくれないかな」
夫にそう言われ、コンスタンスは目を輝かせた。
「もちろんよ!…オレリアン…、様?」
「コニーに呼ばれる『旦那様』も『オレリアン』もいいんだけどね…。
俺は実家では、両親や兄から『オレール』と愛称で呼ばれていたんだ」
「オレール!素敵ね!
じゃあ私もオレール様って呼ぶわ!」
「…様は…、いらないな」
「じゃあオレール!オレールね!」
コンスタンスはそう言うと夫の首に抱きついた。
「オレール!」
「うん」
「オレール!大好きよ!
これからもよろしくね!」
「うん、こちらこそよろしく。コニー」
翌日も、またその翌日も、オレリアンはコンスタンスを連れて馬で出かけた。
今日は山へ、今日は草原へ、そして今日は街へ、という具合に。
朝のうちにいわゆるデスクワークは終わらせ、弁当持参で出かけるのだ。
領内の視察も兼ねているから、行く先々で領民に声をかけ、農作物の出来や、仕事の具合、生活の様子などを聞いたりもする。
3ヶ月前までのコンスタンスも領内を廻ってはいたから、多くの領民は侯爵夫人と話したことがある。
だが今回夫と一緒に廻る夫人は以前の彼女と違いすぎて、領民たちは少なからず戸惑った。
今回の夫人は挨拶のみで会話に入ってくることは無いが、とにかくいつも夫の隣でニコニコしている。
以前の彼女はいかにも貴婦人然としていたが、今の彼女は見るもの聞くもの何にでも興味を示し、キョロキョロしたり触ってみたり食べてみたり…、なんというか、子供の様だ。
だがヒース侯爵はそんな妻をさも愛おしそうに見つめ、その睦まじい夫婦の姿は、やがて領内の名物にまでなった。
オレリアンは馬で出かけない日も、仕事が終われば妻を誘って庭で遊んだりカードゲームをして遊んだ。
使用人たちは皆そんな2人をあたたかく見守り、毎日、ヒース侯爵邸に笑いが絶える日はなかった。
こうしてオレリアンは毎日飽きることなく、幼妻(中身)の相手をして過ごした。
コンスタンスはよく食べ、よく学び、よく遊んで、楽しい毎日を送っている。
そして夜も。
コンスタンスは夫の腕枕で、毎晩健やかに眠っている。
一度別々の部屋で寝もうとしたら泣かれたため、オレリアンは諦めた。
オレリアンの寝不足の日々は続く。
「うわー、綺麗!
旦那様の目の色みたい!」
馬から下ろしてやると、コンスタンスは靴を脱ぎ捨て、湖へ向かって走った。
躊躇することなく湖に足を踏み入れると、
「冷たい!」
と声を上げる。
膝の上までスカートを持ち上げてはしゃぐ妻の姿に目を細めていると、
「旦那様も早く!」
とこちらに向かって手を振った。
オレリアンもブーツを脱ぎ捨てると、妻の元へ走り寄る。
「気持ちいい!ね、旦那様!」
「ああ!……そらっ!」
オレリアンは妻を軽々と抱き上げると、水の中でくるくると回った。
コンスタンスがキャッキャと声を上げる。
だが、目が回ったのか、藻に足が取られたのか、オレリアンはバランスを崩し、コンスタンスを抱いたまま水の中に尻餅をついた。
「もー!旦那様ってば!
濡れちゃったじゃない!」
「ハハッ!コニーはちょっとだろ?」
たしかに水深が浅いため、抱き上げられていたコンスタンスはそれほど濡れていない。
「でも旦那様が風邪ひいちゃうわ」
「日向に出てれば乾くだろ?」
オレリアンは水に浸ったまま、妻を抱きしめ、微笑んだ。
「…コニー。
私の…、いや、俺のことも、名前で呼んでくれないかな」
夫にそう言われ、コンスタンスは目を輝かせた。
「もちろんよ!…オレリアン…、様?」
「コニーに呼ばれる『旦那様』も『オレリアン』もいいんだけどね…。
俺は実家では、両親や兄から『オレール』と愛称で呼ばれていたんだ」
「オレール!素敵ね!
じゃあ私もオレール様って呼ぶわ!」
「…様は…、いらないな」
「じゃあオレール!オレールね!」
コンスタンスはそう言うと夫の首に抱きついた。
「オレール!」
「うん」
「オレール!大好きよ!
これからもよろしくね!」
「うん、こちらこそよろしく。コニー」
翌日も、またその翌日も、オレリアンはコンスタンスを連れて馬で出かけた。
今日は山へ、今日は草原へ、そして今日は街へ、という具合に。
朝のうちにいわゆるデスクワークは終わらせ、弁当持参で出かけるのだ。
領内の視察も兼ねているから、行く先々で領民に声をかけ、農作物の出来や、仕事の具合、生活の様子などを聞いたりもする。
3ヶ月前までのコンスタンスも領内を廻ってはいたから、多くの領民は侯爵夫人と話したことがある。
だが今回夫と一緒に廻る夫人は以前の彼女と違いすぎて、領民たちは少なからず戸惑った。
今回の夫人は挨拶のみで会話に入ってくることは無いが、とにかくいつも夫の隣でニコニコしている。
以前の彼女はいかにも貴婦人然としていたが、今の彼女は見るもの聞くもの何にでも興味を示し、キョロキョロしたり触ってみたり食べてみたり…、なんというか、子供の様だ。
だがヒース侯爵はそんな妻をさも愛おしそうに見つめ、その睦まじい夫婦の姿は、やがて領内の名物にまでなった。
オレリアンは馬で出かけない日も、仕事が終われば妻を誘って庭で遊んだりカードゲームをして遊んだ。
使用人たちは皆そんな2人をあたたかく見守り、毎日、ヒース侯爵邸に笑いが絶える日はなかった。
こうしてオレリアンは毎日飽きることなく、幼妻(中身)の相手をして過ごした。
コンスタンスはよく食べ、よく学び、よく遊んで、楽しい毎日を送っている。
そして夜も。
コンスタンスは夫の腕枕で、毎晩健やかに眠っている。
一度別々の部屋で寝もうとしたら泣かれたため、オレリアンは諦めた。
オレリアンの寝不足の日々は続く。
227
あなたにおすすめの小説
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
記憶が戻ったのは婚約が解消された後でした。
しゃーりん
恋愛
王太子殿下と婚約している公爵令嬢ダイアナは目を覚ますと自分がどこにいるのかわからなかった。
眠る前と部屋の雰囲気が違ったからだ。
侍女とも話が噛み合わず、どうやら丸一年間の記憶がダイアナにはなかった。
ダイアナが記憶にないその一年の間に、王太子殿下との婚約は解消されており、別の男性と先日婚約したばかりだった。
彼が好きになったのは記憶のないダイアナであるため、ダイアナは婚約を解消しようとするお話です。
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする
夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、
……つもりだった。
夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。
「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」
そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。
「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」
女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。
※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。
ヘンリック(王太子)が主役となります。
また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる