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こころ、近づく
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それからもオレリアンの公爵家通いは続き、コンスタンスはエントランスまで出て彼を待つようになった。
時間がはっきり決まっているわけではないのに、そろそろ彼が来るだろうと思うと部屋でジッとしていられないのだ。
そんなコンスタンスを、両親も兄も生暖かい目で見守っている。
一方オレリアンも、またもや頭痛を起こしたコンスタンスを目の当たりにして戸惑いはしたが、公爵家通いを止める気は毛頭なかった。
会いたい気持ちの方がはるかに勝っていたからだ。
あの時、コンスタンスはオレリアンが触れるのを拒否しなかったー。
頭痛を起こしたコンスタンスを思わず抱き上げてしまったが、彼女は拒否しないばかりか、オレリアンの胸に頭を預けていた。
そのことは、たしかに、オレリアンの気持ちを強くしていた。
オレリアンの次の非番の日、コンスタンスは大きなバスケットと共に彼を待っていた。
その格好はあきらかに軽装で、膝丈のワンピースに帽子を被っている。
なんだか『7歳の時のコニー』を見ているようで、オレリアンは目を細めた。
「今日はサンドイッチを用意しましたの。
ご一緒にランチはいかがですか?」
東屋の下で、コンスタンスはバスケットを開けた。
その中身は色とりどりのサンドイッチと飲み物だった。
「用意したって…、貴女が作られたのですか?」
「ええ。リアにも手伝ってもらいましたけど。
まぁ…、サンドイッチなんて料理のうちには入りませんわ」
「え?普段から料理をされるのですか?」
「趣味の一つですわ。
以前は時間があるとよく厨房に入り浸っておりましたの。
お嫌じゃなければ、次はもっと手の込んだものを披露いたしますわ」
恥ずかしそうにはにかんだ笑顔を見せるコンスタンスに、オレリアンは目を見張る。
公爵令嬢が、しかもお妃教育を受けていたような生粋の貴族のお嬢様であるコンスタンスが料理をすることに驚いたのである。
しかもこんな趣味があるなんて、1年以上夫婦であったのに知らなかった。
もしかしたら、オレリアンと別居し、ヒース領で過ごした1年の間にも、自ら料理をしたりしていたのかもしれない。
今となってはなんとももったいない1年間だったと思う。
「美味しい」と伝えると彼女は嬉しそうに微笑み、暖かな陽射しの中、2人は和やかな午後を過ごした。
(もしかしたら…、王太子殿下とも、こんな時間を過ごしていたのかもしれないな)
突然そんな考えが浮かび、オレリアンはそのバカバカしさに苦笑した。
王太子とは10年間も婚約者同士だったのだ。
当然公的な付き合いや厳しい教育ばかりではなく、穏やかに交流する時間だってあっただろう。
一緒に庭を散歩したり、彼女の手料理を振る舞う機会など、数限りなくあったに違いない。
それをいちいち嫉妬するとは、自分はなんて面倒臭い男なのだろう。
「明日は王宮へ行かれる日ですよね?」
オレリアンはモヤモヤを吹き払うように話題を変えた。
明日はいよいよ、コンスタンスが王妃に会いに行く日である。
「ええ、まぁ…」
コンスタンスは困ったように曖昧に笑い、目を伏せた。
正直王妃に会うのも、王宮に近づくのも気が重い。
そんな彼女を見つめ、逆にオレリアンは気を強く持った。
彼女が決して王宮に上がるのを喜んではいないと確認出来たからだ。
「私は任務についておりますが、上司から許可が下りたので、エントランスまで貴女をお迎えに上がりますね」
「本当ですか?」
途端に彼女がパーッと顔を輝かせる。
「母や兄はついてきてくれますけど、それでも本当は少し不安だったのです。
侯爵様がいてくださるなら心強いですわ」
「私は貴女を守る、貴女の騎士ですから」
真っ直ぐに彼女を見つめてそう言うと、コンスタンスは恥ずかしそうに頬を染め、はにかむように小さく笑った。
時間がはっきり決まっているわけではないのに、そろそろ彼が来るだろうと思うと部屋でジッとしていられないのだ。
そんなコンスタンスを、両親も兄も生暖かい目で見守っている。
一方オレリアンも、またもや頭痛を起こしたコンスタンスを目の当たりにして戸惑いはしたが、公爵家通いを止める気は毛頭なかった。
会いたい気持ちの方がはるかに勝っていたからだ。
あの時、コンスタンスはオレリアンが触れるのを拒否しなかったー。
頭痛を起こしたコンスタンスを思わず抱き上げてしまったが、彼女は拒否しないばかりか、オレリアンの胸に頭を預けていた。
そのことは、たしかに、オレリアンの気持ちを強くしていた。
オレリアンの次の非番の日、コンスタンスは大きなバスケットと共に彼を待っていた。
その格好はあきらかに軽装で、膝丈のワンピースに帽子を被っている。
なんだか『7歳の時のコニー』を見ているようで、オレリアンは目を細めた。
「今日はサンドイッチを用意しましたの。
ご一緒にランチはいかがですか?」
東屋の下で、コンスタンスはバスケットを開けた。
その中身は色とりどりのサンドイッチと飲み物だった。
「用意したって…、貴女が作られたのですか?」
「ええ。リアにも手伝ってもらいましたけど。
まぁ…、サンドイッチなんて料理のうちには入りませんわ」
「え?普段から料理をされるのですか?」
「趣味の一つですわ。
以前は時間があるとよく厨房に入り浸っておりましたの。
お嫌じゃなければ、次はもっと手の込んだものを披露いたしますわ」
恥ずかしそうにはにかんだ笑顔を見せるコンスタンスに、オレリアンは目を見張る。
公爵令嬢が、しかもお妃教育を受けていたような生粋の貴族のお嬢様であるコンスタンスが料理をすることに驚いたのである。
しかもこんな趣味があるなんて、1年以上夫婦であったのに知らなかった。
もしかしたら、オレリアンと別居し、ヒース領で過ごした1年の間にも、自ら料理をしたりしていたのかもしれない。
今となってはなんとももったいない1年間だったと思う。
「美味しい」と伝えると彼女は嬉しそうに微笑み、暖かな陽射しの中、2人は和やかな午後を過ごした。
(もしかしたら…、王太子殿下とも、こんな時間を過ごしていたのかもしれないな)
突然そんな考えが浮かび、オレリアンはそのバカバカしさに苦笑した。
王太子とは10年間も婚約者同士だったのだ。
当然公的な付き合いや厳しい教育ばかりではなく、穏やかに交流する時間だってあっただろう。
一緒に庭を散歩したり、彼女の手料理を振る舞う機会など、数限りなくあったに違いない。
それをいちいち嫉妬するとは、自分はなんて面倒臭い男なのだろう。
「明日は王宮へ行かれる日ですよね?」
オレリアンはモヤモヤを吹き払うように話題を変えた。
明日はいよいよ、コンスタンスが王妃に会いに行く日である。
「ええ、まぁ…」
コンスタンスは困ったように曖昧に笑い、目を伏せた。
正直王妃に会うのも、王宮に近づくのも気が重い。
そんな彼女を見つめ、逆にオレリアンは気を強く持った。
彼女が決して王宮に上がるのを喜んではいないと確認出来たからだ。
「私は任務についておりますが、上司から許可が下りたので、エントランスまで貴女をお迎えに上がりますね」
「本当ですか?」
途端に彼女がパーッと顔を輝かせる。
「母や兄はついてきてくれますけど、それでも本当は少し不安だったのです。
侯爵様がいてくださるなら心強いですわ」
「私は貴女を守る、貴女の騎士ですから」
真っ直ぐに彼女を見つめてそう言うと、コンスタンスは恥ずかしそうに頬を染め、はにかむように小さく笑った。
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