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貧民から平民に

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無事に事件が解決されて新居へお引っ越しとなった。

先に案内された新居には気のせいかな新品のようにキレイな家具が揃えられていて、私たち全員のサイズぴったりの服が揃えられていた。
商業ギルドがいつサイズを知ったのか兄ズもわからない。
まぁ一言で言えば、彼らはプロなんだなってことよね。

食器もリネンも何もかもが新品で、それらは全てあの事件の情報提供による事件解決の功労者への領主からの褒賞だという事なので、遠慮なくいただくことにした。
それとは別にお金もいただいて、口座へ入れてもらった。

聞いてなかった家賃を聞いたら、かなりお安くしてもらっていたので、なるはやで手土産持ってお礼に行かねばならなくなった。

新居は道が開けたところで、玄関から街の見渡しの良い場所だった。
前世の私が、犯罪に巻き込まれるリスクの低い立地だと言っている。
玄関から見渡しが良いということは、外からもうちの様子が見えやすいということで、怪しい人物がうろついていたら周囲の誰かの目にとまる。

監視もしやすいだろうね。
まさかと思うけど。

ギルドにも近目だ。

赤い屋根の可愛い2階建ての家で、天井にはロフトがあり、収納に使ってもいいし臨時の宿泊もできそうだった。
そして南側には庭がある。
緑がたくさんだ。
家庭菜園もできるかもしれない。

1階にはキッチン、食糧庫、食器棚、リビングダイニングにテーブルセット、ラグが敷かれたそばに暖炉があって、その裏の部屋は浴室とトイレ、脱衣所、洗面所になっていた。
欧米式で浴室内にトイレがあった。

でも私が知ってる欧米とはちょっと違うのが浴槽だった。
ちょうど暖炉に面した壁は石造りになっていて、暖炉にくっつくようにタイル張りされた浴槽が作られていた。
ちゃんと排水口もある。
暖炉の熱を利用して水を温めるように考えられたのだろう。
子どもでも安全に入れるように壁側に手すりと階段も造られていた。

異世界のくせに平民の家に合理的な浴室があるなんて!

って思ったエラだが、これも商業ギルドのマスターの計らいであった。
普通の平民の家には大きなタライがあるだけだ。

貧民街から平民街に引っ越しをしただけで、まるで平民になったかのよう。
いくら情報提供して犯人を捕らえることができたからって、ちょっと褒賞が多過ぎないかと勘繰ってしまう。

次もしまた何かあったら、平民から貴族になったりして。

浴室の反対側は広めの部屋があり、そこは私とルドの部屋になった。
エラが1階で寝るなんて心配だ!と兄ズの反対にあったが、ルドを抱いて階段をあがる危険性を説いて納得させた。

しかもその部屋の奥に続き部屋があって、そこを工房にさせてもらった。
ルドが寝てる時に扉を開けておいて、工房で作業ができるのだ。
まるで私たちのために誂えたかのよう。

浴室の隣り、工房の反対側は物置部屋な感じで、ドアがあってそこから庭に出られる。
2階、ロフトへの階段が奥中央にあって、上がるとすぐ左に部屋がひとつ。中央のひらけたスペースにラグ、ソファベッドがふたつ。

兄ズは雨の日にここで鍛錬ができそうだ、なんて言っていた。

そして隣り合わせのふた部屋が、兄ズそれぞれの部屋となった。

ロフトも見てみたけど、ロフトだから天井が低くて、兄ズは何度も頭をぶつけていた。

普段は物置にして、誰か泊まりに来たらここに雑魚寝させようぜって言ってるけど、そんな予定を作るつもりですか?兄ズよ。落ち着け。

貧民街の家からは私の収納魔法で荷物全部持っていくことにした。
古びた食器も冒険者が野営するときに必要になるし、古い布や服は私の趣味に使えるし雑巾に再利用もできる。

あ、雑巾・・・・・・クリーン魔法があるから掃除なんてしなかったな。

次の入居者のためにベッドや何やら置いていくとか考えない。
うちの財産は全て持っていく。
といっても、貧民だから荷物という財産は少なかった。

住まいが良くなったら、次は食事を良くしていこう。
お金がない時に1番切り詰めるところって食費だから。
美味しくなくても柔らかいパンを買えるようになりたい。
私の商品が売れたら余裕ができそうだけど。
ここにずっと住むとしても、私たち老後の資金も貯めないといけないから、あまり贅沢はできないよね。




引越しの片付けも済んで少し落ち着いてから、すぐに商業ギルドのマスターに会いにいくことにした私たち。
アポなしで行ってしまったが、マスターはタイミングよくギルドにいた。

「ギルマスさん、こんにちは。今日はお礼に来ました」

マスターは柔らかい笑みで招き入れてくれた。

「新居は気に入ってくれたかな?」

「はい、ありがとうございました。家具も新しいし、服もたくさん。平民になった気分です」

「喜んでもらえてよかった。みんなこの領地の民だからね、貧民も平民も関係ないよ。エラのお陰で無事に事件が解決したことは私の父である領主もとても感謝していたんだ。私からも礼を言うよ。ありがとう」

「マスター。俺たちはエラの兄、レオとユーリだ。今回の事件もそうだけど、以前からエラが世話になってるみたいだな。ありがとうございます」

レオが挨拶したけど、なんだか緊張してるみたい。

「俺がユーリだよ。色々ありがとう。エラのこと、これからもよろしく」

ユーリが緊張しながら拙いながらも礼を述べて、過剰なくらいにペコペコ頭をさげていた。

「ギルマスさん、お礼の品と、商品化は難しいものを良ければ買っていただけませんか?これです」

出したのは象牙多層球。
木で作ってるから象牙じゃないんだけど。

「なんだこれは・・・・・・!」

お礼の品とあわせて5個の象牙多層球をテーブルに出した。
ギルマスはすぐに手に取って驚いていた。
穴に指を突っ込んでクルクルしている、というか、頑張って回してる。

「ええと、多層球と言います。すでにおわかりのように、球体の内側にひと回り小さい球体があり、それが2層のもの、3層のものを持ってきました。ひとつはお礼の品として差し上げます。他4点をギルドで買っていただけませんか?」

「あ、ああ・・・・・・もちろんだよ、是非買わせてくれ。素晴らしい芸術作品だ。これはオークションにかけてみるか」

買取が決まった。
暫定の金額を即日入金してもらって、オークションで落とされた金額の差し引き分を後日もらうことになった。
3層のはひとつ、王室へ献上するかもだって。

結構な金額で売れて懐が暖かい。
兄ズがドン引きしていた。

そのあと私たちは市場へ行って、いつもよりたくさんの食材と調味料も買ってしまった。
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