ミステリータウンへようこそ

町の入り口、そして突然の声

　みなさん、大分緊張されているようですね。　表情が少し硬いですよ。でも心配はいりません。怖がることはありませんよ。なぜなら、恐ろしいことなどこの町では起こりませんから。不安にならないでください。みなさんが傷つくようなことは、この町にはないのです。どうぞご安心を。さぁみなさん、リラックスしましょう。肩の力を抜いてください。リラックス、リラックス、いいですか。
　そうは言っても、突然聞こえてきた声に驚かない人はいないでしょう。びっくりされたみなさんは、あちこち見回していましたね。どうやらみなさんを驚かせたようです。ごめんなさい。
　ただ、「あれっ？」と思われた方もいらっしゃるようです。「この声に聞きお覚えがあるぞ」と記憶を手繰たぐり寄せられた方。そう、私たちは初対面ではないのです。
　ヒント、声の便り。思い出していただけましたか？
　あはは、思い出された方もいらっしゃるみたいですね。みなさんのお顔を拝見すればわかりますよ。
　私は、今日という日を指折り数えて待っていましたよ。まだかまだかと皆様をお待ち申しておりました。みなさんに声としてお会いすることを楽しみしておりました。そして、今日こうしてみなさまにお会いすることができた。私はうれしい。本当にうれしいですよ。私に日記が書けたなら、この喜びを真っ白なページに記すことでしょう。うれしさのあまり私の書いた文字が、飛んだり跳ねたり、踊ってたりしているかもしれませんね。
　空を見上げてください。どこまでも続くスカイブルー。青は薄まることなく、みなさんの頭上に広がっています。太陽はみなさんを照らすために、一生懸命光を放っています。こんなに素晴らしい青空の中で、形の違う白い雲たちは、遠慮気味えんりょぎみに空を流れていますね。ちょっと雲たちが可哀そうです。でも雲たちだって活躍する日があります。なんてったって雨を運ぶ役目は、彼らでなければなりませんから。晴れた日もあれば、雨の日もある。そう言う日々を地球は作っているのです。
　誰かが定規を使って引いたような飛行機雲もあります。飛行機はどこに行くのでしょうね。真っすぐな白い線がどこまでも伸びていく。行き先を考えたりすることすら、心が笑顔になりますね。
　おやおや、みなさんの表情も大分和らいできたように見えますよ。とてもいいことです。心が張り詰めていては、楽しむことができない。それに体にもよくない。
　素晴らしいお天気だ。こんな日にみなさんが、この町を訪れるなんてとてもラッキーなことです。
　さぁ、それでは町をご覧ください。
　どうです？　素敵な町が見えるでしょ。この町に入っていただければ、山がありますよ。海だってある。耳を澄ましてください。小鳥の声が、町から聞こえてきませんか？　鳥たちはみなさんを歓迎して歌っているのでしょうね。とてもいい歌声です。ひょっとしたらみなさんのために、毎日練習していたのかもしれませんね。
　この町はみなさんの希望を百％……失礼、正確にお話ししなければいけませんね。九十九％叶えることができるのです。残りの一％気になりますか？
　誠に申し訳ないのですが、この町にはまだ改善しなければならないことがあります。できる限りみなさんの願いが叶う町を作ってまいりました。それでも直さなければならないところ、付け足さなければならないこともあります。予測不能なことだって起るかもしれない。何せ出来立てほやほやの町です。どうかそのへんをご理解いただけるとありがたいのですが。
　それからちょっと言いにくいことなのですが、この町にはまだ名前がついておりません。その理由についてはのちほどお分かりいただけるかと思います。したがいまして、町の名前は来るべき時に募集する予定です。たくさんの方々から送られてくる町の名前、ドキドキワクワクします。どんな名前が送られてくるのでしょうか？　そしてその中からこの町にふさわしい名前を選ぶ。どうですか？
　これは正直にみなさまにお伝えしなければならないことです。
　町に名前がないことで、この町を楽しむことができないなんてことはありませんので、その点はご安心を。