ミステリータウンへようこそ

町の秘密

　私は世界中のみなさまに、この町にお出でいただけるよう声の招待状を出していのです。「素晴らしい町ですよ。きっとみなさんの夢が叶いますよ」と。今、町の入り口にお集まりいただいたみなさんは、私の声を受け取ってこの町に足を運んでくださった方々です。私はうれしい。本当ですよ。
　ただ残念なのですが、地球儀をぐるりと回してみても、地図を広げて見ても、この町はどこにもありません。虫眼鏡を使って探してもダメなのです。世界地図の中にこの町はないのです。とても悔しい。残念だ。この町を認めてくれる国が一つもないのです。
　ではなぜ世界の国々が、この町を認めてくれないのか？　みなさんお分かりですか？
　　
　答え

　この町には誰も住んでいないからです

　言い訳をするつもりはありません。でも少しだけお話をさせてください。先ほども申しました通り、この町は生まれたばかりです。だから世界中の人たちはこの町を知らない。誰も知らないので、この町には誰も住んでいないのです。
　しかしこの町は、私たちが一生懸命想像して作り上げた理想の町なのです、これからたくさんの人たちがこの町にやってくるはずです。必ず。
　どうしてそんなことが断言できるのか？　ですって？
　もちろんきちんとした理由がありますよ。私たちは胸を張ってその訳をお話しすることができます。
　この町は自然が豊かです。ゴミ一つ落ちていない清潔な町です。争いのない平和な町。誰かをねたんだり、誰かにねたまれたり、いじめたり、いじめられたりなんてことは、この町では決して起こりません。
　人をねたんだり、いじめたりすることなんて、とてもみじめで悲しいことでしょ。この町ではそんなことは起きてほしくないのです。ねたむことがなければ、ねたまれる人はいません。いじめる人がいなければ、いじめられる人もいない。そういう町作りを私たちはしてきたのです。
　この町はすべてのものに平等です。
　例えば男性と女性。背の高い人と背の低い人。髪の長い人短い人。人間とワンちゃん。その間には、アクリル板のような目に見えないバリアなどまったくないのです。
「うんうん」とうなずいている人もいるようです。実にうれしい。　　
　この町は私たちの誇りなのです。
　あー何だか涙が出てきそうですよ。私たちの努力が報われた思いです。
　みなさん、こんなに素晴らしい町に、誰も住んでいないなんておかしいと思いませんか？
　誰かがこの町に住めば、この町は名前を持つことができる。素敵な名前が付けられることでしょう。その日はすぐやってくる。そう私たちは信じているんです。
　おっと、私の話が少し長すぎたようですね。ごめんなさい。もう少しお話をさせていただきたいのですが、それはみなさんのご紹介を終えてからにしましょう。