異世界見聞録【BL】

佐々木猫八

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最初の人

4ネルの町

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天井は星空のようだった。

ネルの町に入った瞬間に思ったのはそれで、次に思ったのはひんやりと涼しいという事だった。
外の灼熱とは雲泥の差で、しっかりした岩壁が外の熱を入れない構造になっているのだろう。
キョロキョロと周囲を見ているとラフィに腕を引かれた。
「観光は後にして、まずは衣服を揃えてしまおう。こっちだよ」
ラフィに腕を引かれながら着いていくとヒソヒソと囁かれているのがわかった。
黒の死神衣装は相当嫌がられているのだろう。
「ここの店ならコウキの魅力を隠しつつも分かる人には分かるような衣装を用意してくれる」
どんな衣装だよ!それっ!
と、内心ツッコミを入つつもスポンサーの意見は重要なので黙っておく。
まあ、きっとラフィの着ている衣装みたいなのだろうと高をくくっていた。

「このようなお召し物は如何でしょうか?コウキ様の細い腰を強調できます。こちらは大胆な切れ込みが入っておりこれまた細いコウキ様のおみ足を披露することができます」
「全部貰おうか」
ラフィは即決だった。
このままではちょっと破廉恥な衣装しか着られなくなってしまう!
「あの、ラフィさ」
「どうかした?コウキ」
「俺、ラフィと同じ衣装が欲しいなーと思ってまして」
「店主っ!」
「はい、すぐにご用意致します」
店の奥から出されたのはラフィよりも少しサイズが小さい衣装だったが’体格差は歴然なので黙って受け入れた。
「うん、これがいいな。店主これを10着ほど貰おう」
10着!そんなにいるの!!
「畏まりました、少々お待ち下さい」
店主はまたもや奥へ引っ込んだ。
その隙にラフィに話しかける。
「ラフィ、10着も着ないんじゃないか?」
「商談の時とかには綺麗な服が要るから、いざってときに着るまっさらな衣装は幾つ合っても構わないんだよ」
「そうなんだ⋯」
ってか俺も商談に同行するのか??
この世界の知識なんて皆無な俺に商談で何をしろと??
「コウキには商談の時に立ち会って仕事を手伝いながら覚えて欲しいんだ。ここに来る道中でコウキが頭の回転が良いということは分かったし、場を読める力もある。良い補佐になれると思うんだ。私もひとりでの商売に限界を感じ始めていたしね。コウキとの出会いはまさに神様の縁だと思うんだ。どうかな?」
どうかな?と言われて嫌とは言えない恩がある。
それに手伝える事があれば手伝うと決めたのだから迷う事はない。
「俺で役に立てるならやらせて!」
はっきりと宣言するとラフィの表情が明るくなる。
「ありがとうコウキ!ビシバシ指導するからそのつもりで」
「が、頑張る!」
ただ世話される穀潰しにはならずにすみそうだとほっとするも、どういう指導が待っているのか恐怖でもある。
向こうの世界での社会人経験が殆得られないままこちらに来たので’、やっていけるだろうか⋯
「とは言え、記憶がないのだからまずは基礎の学習と仕事に立ち会って見学してもらうのが主な仕事かな」
「分かった」
「あと、コウキ意見もどんどん言ってきてほしいんだ。仕事を手伝って貰うのは記憶を戻す一貫としてなんだ、もしかしたらコウキを知っている人がいるかもしれないのもあるけれど⋯本当は⋯いや、これは今伝えるにはは早いな⋯

取り敢えず、仕事以外では気楽に居たら良いということらしい。
仕事も新人研修をしっかりしてくれるみたいなので、頑張れそうだなと思った。
もしかしてホワイト企業に就職できた?
そんな事を考えいてると店主が布の束を抱えて居る少年と一緒に戻ってきた。
「お待たせ致しましたコールマン様、衣装10着と頭布も10枚ご用意致しました」
「ああ、助かるよ」
そう言ってラフィは店主に金色の大きめな硬貨を渡した。
多分あれが大金貨なのだと思う。
大金貨は金貨の10倍で、金貨は大銀貨の2倍、銀貨は大銀貨の5分の1で、大銅貨は銀貨の半分、銅貨は大銅貨の5分の1、だったかな。
俺のイメージ的にはこうだ、
大金貨、10万円
金貨、1万円
大銀貨、5千円
銀貨、千円
大銅貨、5百円
銅貨、百円
銅貨より細かいお金はないらしい。
また、取引や買い物にはお金ではなく物品でやり取りする場合もあって、例えば宝石や金のような貴金属、魔物から採取できる素材や魔石、情報も普段の買い物で活用できるらしい。
ただ、情報で取引をする時は、情報を聞いた後にその価値に見合ったものを渡すのだそうだ。
相手の解釈次第で価値が左右される情報取引は両刃の剣なんだとか。
ラフィはお金での取引に重点を置いていると言っていた。
価値が安定していることから商店などではお金の取引の方が喜ばれるそうだ。
「ありがとうございます」
店主が大金貨受け取ると、衣類を持った少年が近づいてきた。
「こちらの荷物は如何致しますか?お泊りの宿がございましたらそちらまで運ばせて頂きます」
「いや、一着はここで着替えさせてくれ。残りは鞄に入れるよ。コウキは鞄を開いて片手を鞄に入れて、もう一方の手で荷物に触れて、我は空間の支配者、手にし物を収めよ」
すると少年の持っいた衣類が一瞬で消えた。
俺はびっくりして急いで鞄を覗き込む。
しかし中身は空っぽだ。
「ラフィ、中身が無い⋯」
「ああ、防犯用に何が入っているのか分からないようにしてあるんだ。中身の確認の仕方は、手を入れて、空間の支配者なり汝の意を示せ、と言うんだ」
鞄の中身の確認にすら祝詞が必要なんだと思うと、正直ちょっと恥ずかしい。
ちょっと厨二病っぽいからだ。
「コウキ、まだ買い物があるから、すぐ衣装に着替えてしまおう。着かたはわかる?」
「たぶん、着替える所はありますか?」
「こちらです。御案内します」
少年に店の奥の一角に厚手の布で仕切られた空間に案内される。
「着られましたらお声がけ下さい」
「ありがとう」
少年はにこりと笑うと布を完全に閉めた。
俺はスーツをぬぐと下着にな渡された服を広げてみる。
まずは簡単そうなズボンから足を入れて腰紐で固定する。
少し、少しだけ布が余ってる気がする。
いや、深くは考えまい、気の所為だ。
次は上だ。
ポンチョのような作りで、これも簡単に着れた。
そこからラフィの着ていた様子を思い出しながら、着やすいように腰帯で固定してゆったり具合を好みの感じにしていく。
「なんだ、簡単じゃないか」
最後に頭の布だ。
ターバンのようにラフィは巻いていたのだけれど⋯
「あれ?うまくいかないな⋯」
待たせるのも悪いので、初回だし少年を頼ることにした。
カーテンの隙間から顔を出してみると、少年が立って待機していた。
「ごめん、頭の布の巻き方が分からなくて、頼めるかな」
「畏まりました、失礼します」
少年はカーテンの中に入り、布を受け取る。
丁寧に説明をしてくれながら少年はテキパキと頭の布を巻いてくれる。
ちょっとネクタイの締め方を父親から習った事を思い出す。

涙は出ず、感傷にも浸らなかった。
確か父親との関係は悪くなかったはずなのに、特に思い入れを感じないのは異世界に来た弊害なのだろうか?
「これで完成でございます」
そうこうしている内に出来上がった。
「ありがとう」
「恐れ入ります」
俺は着替え室から出てラフィらの下へ戻った。
「ああコウキ!とても似合っているよ!」
「ありがとうラフィ」
大げさに言っているだろうラフィの評価にちょっと照れてしまう。

俺達は店を出て宿を目指して歩く。
道中の露店や商店を見ながら進む。
今度はヒソヒソとは言われなかったけれど、何故か男性が横切る度に視線を感じ、ラフィが肩を抱いて歩くという事象が発生した。
そしてこう言われた。
「コウキ、何をあげると言われても知らない人に着いて行かないように」

俺23歳の成人男性だよラフぃぃ!!
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