異世界見聞録【BL】

佐々木猫八

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最初の人

5謎の本

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予めラフィが予約していた宿屋に向かう傍ら、町の様子を見たり買い物をしたりした。
「岩の中なのに雲がある⋯」
天井を見上げると星空に白い雲がぷかりぷかりと浮かんで流れていた。
「天候魔法だよ。岩山の中だと天井が味気ないから魔石を使って常時展開しているんだ」
「魔法ってこんな使い方も出来るんだ」
「でもひとつ問題あってね、天候魔法は天候を選べないんだ。だから予告無しに雨になったり雪がふったりと結構大変なんだ」
「ええっ暮らしにくい!」
「そう思うでしょ?でも今ここに住んでいる人たちはそれが良いっていう人たちが残って暮らしているんだ。物好きという人もいるけど、住んでる人にとってはいい環境なんだと思うよ。どんな天候になるかわからないのが魅力なんだと思う」
ラフィは苦笑しながらそう言った。
相手を理解して受け入れる気持ちを持つのも商人として大切な資質なのかもしれない、コウキはそう思った。
「そうそう、携帯用の食料や水袋なども買っておこう」
ラフィはコウキの手を引っぱると大通りから外れた店にやってきた。
「ここは冒険者が良く利用する店でなんでも屋だよ。質も良いし旅をするならこういう冒険の専門店で買った方が良い品と他に無いもの得られる」
「他に無いもの?」
「ああ、取り敢えず先に必要なものを選ぼう」
ラフィは楽しげにそう言うと商品を選び出した。
「食料品は2週間分は最低でも必要だし、寒さ対策のトランの皮をなめしたフード付きマントとテントと寝袋、暖を取る薪と⋯あ、これは良い魔物避けの匂い袋。あとは水が無限に出てくる水袋と簡易料理器セットと縄はいるな⋯」
どんどんと買い物かごが埋まっていくのを見てコウキは口元が引きつるのを感じた。
こんなに沢山の道具が旅に必要だとは思っても見なかったからだ。
コウキにキャンプの経験でもあれば多少は納得したかもしれないが、生憎インドア派だったため、冒険の知識はテレビゲームやラノベ程度だ。
それらでは便利な魔法で簡単解決されてしまったり、一コマで説明が終わって苦労してという描写に実感が沸かなかったりと、とにかくコウキは旅について無知だった。
「ああ、あとランタンと松明も幾つかいるね。短剣は武器屋に行かないと無いか⋯あとは薬草屋と防具屋にも寄って、地図屋にも行かないとね」
コウキはどんどんとかごに入れられる旅支度の品物達の多さに次第に不安になってきた。
この買って貰う分をいづれ返して行くつもりでいたからだけれど⋯
服だけでもすでに大金貨1枚分、つまりは10万円ほど掛かっているのだ。
この調子でいったらあっという間に100万円を超えてしまう。
コウキは慌てて選ぶのに集中していたラフィに話しかける。
「ラフィ、こんなに買って貰っても返せないよ⋯」
ラフィは選ぶ手を止めてコウキは見た。
「大丈夫、コウキならあっという間に私にこれ以上の利益をもたらしてくれるから。気にしないで」
そう言って再び品物選びを再開し始めた。
「⋯気にするよ」
コウキは小さく呟いた。
ラフィのその根拠のなさそうな自信はどこから来ているのか知りたい。
自分に利益を生み出せる程の能力があるのか疑問だし、商売のことなんてからっきしだ。
就職先だって事務系を中心に活動していたくらいだ。
表に出て動くより、裏で支える方が向いていると自己分析している。
いったいどんな仕事なのかだんだんと不安になってきた。
あまり派手な立ち回りをするタイプではないと自負しているので、どうか裏方に回れますように!
「さて、大体はそろったかな」
買い物カゴに山盛りのアイテム達が乗っかっていた。
「⋯これ全部購入するの?」
「ああ、そうだよ。基本的な物だけだから少ないね」
「!!!」
今少ないって言ったか!
⋯旅って物入りなんだな⋯
「会計をしようか。マスター計算頼むよ」
ラフィがそう言うと、カウンターの中からがっしりとした体格をしたスキンヘッドで強面の男性が出てきた。
「お買い上げ有難うございます旦那。カゴを預かりますさぁ。計算が終わるまでお待ち下さい」
そういうとマスターはカゴを受け取りカウンターの中に居たもう1人の人物に渡す。
渡し終わると、再びラフィの元へと戻ってきた。
「旦那、丁度珍しい物が入荷しましてね。もし良ければ見るだけ見やしませんか?」
「ああ、見せてもらおうか」
「では奥の部屋へご案内しますさぁ」
珍しい物ってなんだろう?と思いながら奥の部屋へ入っていく2人に続いて付いて行く。
椅子とテーブルだけのこじんまりとした部屋に通される。
「お持ちしますうので暫しお待ちを」
そう言ってマスターは入ってきた扉ではなくもう一つあった扉に入って行った。
「珍しい物ってなんだろう?」
「大抵は珍しい魔物から採れた素材だったり品質の良い魔石だったり⋯あとは古い本だったりするかな」
「買ったことあるの?」
「幾つかね。物が良いから来た時は寄るようにしているんだ」
「じゃあそれらが他には無いものってこと?」
「ああ、特に古い本は貴重で滅多に流通しないから、人によっては喉から手が出るほど欲しい品だ。こういうのは買っておいて損はない。中身を読むのも学びになるけれど、交渉をするのにも役に立つ。変わり者の研究者なんかはお金では動かない事が多いからね。本で釣るんだ」
「へぇー」
そんな話をしているとマスターがある包を慎重に抱えて戻ってきた。
ゆっくりとテーブルの上に置くと自分たちとは反対の席に着く。
「お待たせしました旦那。今回のは古代時代に使われていたと思われる祝詞をまとめた辞典でさぁ。内の鑑定師じゃあ鑑定しきれなくて断定はできませんが、ものはかなり古いもので間違いないとのことです」
包んでいた布を開くと、表装の綺麗な汚れも角が擦り切れてもいない新品のような本が現れた。
ラフィは手のひらを本にかざして何かを読み取っているようだ。
「⋯確かにかなり古い形式の維持魔法が掛けられているな」
「表層の魔法は読み取れるんですがね、問題は中身なんでさぁ。中身が複雑で読めないんですよ」
そう言って本をめくって中身を見せてくれた。
「!!!!!」
コウキはびっくりした。
なぜなら中身は地球で使われてる言語が入り混じったものだったからだ。
漢字、平仮名、カタカナは勿論のこと、英語やおそらくドイツ語なども混じっていてコウキは読み解く事が出来た。
欲しい。
幾らなんだろうか。
「あの、この本は幾らなんですか?」
「そうだな、鑑定師でも解読できない本だから⋯まあ持っていても役に立つかどうかですし、おまけして大金貨3枚が妥当ってとこですかねぇ」
約30万の本⋯一冊で30万⋯
「欲しいのかいコウキ?」
「で、できれば⋯」
「では買おう」
即決だった。
「うぇぇ、いいのラフィ!」
「構わないさ。マスター会計を」
「了解です。外のカウンターにどうぞ」
そう言われ俺達は部屋を出て店のカウンターへと向かう。
「計算お待たせ致しました。お会計は本も合わせて大金貨7枚と金貨5枚でございます」
ラフィは鞄から硬貨を出すと店員に渡す。
「丁度頂戴いたしました!お買い上げ有難うございます!」
荷物をコウキの鞄に入れ、店を後にする。
店を出てすぐにコウキはラフィに頭を下げた。
「本とかその他諸々、買ってくれて有難う御座います」
頭を下げたコウキにきょとんとした眼差しを送るラフィ。
「構わないって言っただろ?ちゃんと投資分は回収できるから、安心して欲しいって思ったものは言うといい」
いい人過ぎる⋯働かせるぞって言ってもらえれば欲しいって言いやすくなる。
ちゃんとこっちの気持ちも汲んでくれてるんだというのが嬉しかった。
「あとは武器屋、薬屋、地図屋とかか。靴も揃えないとその靴は旅に向かない。⋯うーん今日中に全部は回れないかもしれないな」
「商談が終われば時間があるから、残りの買い物は明日にしようか」
そう言って宿へ向かう。
あの場所から近かったらしく、歩いてすぐに到着した。
立派な3階建ての宿屋で1階はフロントと食事処とバーがあり、2階は一般フロア、3階は上客用フロアになっていた。
「お待ちしておりましたラフィ様、いつものお部屋で宜しかったでしょうか?」
「確かいつもの部屋は2人でも泊まれる部屋だったよな?ひとり追加で頼む」
「畏まりました。お食事はどうなさいますか?」
「1階の食事処で食べるから個室を予約してくれ」
「賜りました」
「直ぐに食事にしたいので、用意して貰えるか?」
「はい大丈夫でございます。10分後に食事処へご来店くださいませ。こちら部屋の鍵でございます。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう」
慣れたやりとりを見せるラフィは旅慣れているなと思った。
自分はというと慣れない環境と見慣れない光景に少し疲れを感じていた。
でも食事、異世界の食事だ。
楽しみ過ぎる。

旅の醍醐味は食と景色と出会いだよな!
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