使いっパシリのゾルゲさん

ゴエモン

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5パシリ ゾルゲさんやられる

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 豚男討伐からシャンディに戻ってきたゾルゲはギルドで依頼の報酬を受け取り豚鬼の牙の換金を済ます(昨日の地味目な女性は休みでおらずおっさんだった)。合計金額はなかなかのもので、贅沢をしなければ三ヶ月くらいは仕事をしなくても一人で生活できるくらいの額を手にしていた。

 ん~、これでもあの阿呆共のお土産にはまだ足らんな───もうひと働きするか。

 苦々しく眉根を寄せ、への字に曲げた口から嘆息が漏れ出る。
 再び依頼のボードに目を向けようと顔を上げると、ゾルゲに目配せをする身なりの小汚い男が視界に入る。先日小遣いを渡した者であろう。
 人差し指をクイとひと搔きしてギルドの外に呼びだす。少し歩くと立呑ができる角打ちという飲み場にて白い泡の黄金色に輝く麦酒を二つもらう。乞食に片方を渡し、カチリとジョッキを合わせると、密談は始まった。

 王国から……少数精鋭……遊撃隊……狙いは……

 それはいつ? ルートは?

 数日前……ルートは……迂回して……

 なるほど。ありがとうございます。どうぞ、これであと飲んでいってください、とほどほどに酔えるくらいの小遣いを渡してゾルゲは角打ちをあとにする。ゾルゲのようなフォーマルなスーツを着た者と乞食のような者が一緒に飲んでいたら怪しまれそうだが、この街では金を持つものは貧しい者に施すのが教養として常識になっており、金持ちでは経験できない話を貧民から聞いて楽しむといった光景はそれほど珍しくはない。

 人間界の最高戦力が五名───ふむ、これはあんまり遊んではおられんな……お土産なしではグダグダ言われるだろうが、その遊撃隊を放ったらかしにするのはチト不味いな。どれ、追いかけるか。

 街をブラブラと歩きながらも、街の喧騒から離れ、人通りが少なくなっている通りを選び、上下左右前後の人の気配を確認しつつ、路地の奥の角の勝手口がありそうな階段の裏でパラソルを振るうのだった。


 ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 その部隊は僅か五名からなっていた。
 厚い皮地の内側から打ち付けられた白銀の縁が輝く鎧を装着し剣や槍に魔術も使いこなせるオールマイティな神聖騎士フーリン。
 足首まである貫頭衣を腰紐で縛り、細見の鍛え抜かれた鋼の肉体を包んだ武闘家は無手の格闘術から剣、短剣、棒、弓、双節棍、槍、投擲、さらには屋台の椅子まであらゆる武術を極めたロン。
 物理だろうが魔術だろうが騎馬の突撃さえも一身に受け防ぎゆるがぬ肉体と魂を持つ重装兵アルゴスは文字通り分厚い合金製の重鎧を装着する。見た目よりは軽いがそれでも総重量はかなりのものだ。乗る馬も人一倍丈夫な馬をあてがわれている。
 広いつばに先が折れ曲がった黒いとんがり帽子に漆黒の法衣のメルモは全魔術に精通する伝説的な大賢者に師事し後継者として最有力視される若き天才魔女だった。
 魔術とはまったく理論体系が異なる奇跡を具現化する神術の使い手で、天帝の祝福を受けた巫女コメットは純白の一枚布を巻き付け肩の装身具と腰の帯でとめたゆったりとした服装をしていた。
 五人はそれぞれ早馬で街道を駆けていた。既にシャンディ国から大きな街を二つ過ぎ、三つ目の街まであと半分というところ、予定よりもだいぶ早いペースできており、この分なら次の街で馬を代えゆっくりと補給ができると思ったその時である。
 先頭を走るフーリンは異変に察知し、馬の速度を緩め前方で回るいくつもの複数の蛇の目を視認した。その数大小含めて20ほど。矢が充分に届いて威力を発揮できる距離まで常歩というゆっくりした速度で近付いていく。馬も警戒し前に進み辛くなったところで下馬し、重装兵アルゴスを先頭にフーリンとロンで両翼、その後ろにいつでも術が発動するために詠唱を始めたメルモとコメットを配置する陣形で進んでいく。
 伏兵を警戒するが、ロンの異常なまでの探知能力には他に気配を感じない。詠唱を先に終えたコメットの不可視な防壁がパーティを包む。ついでメルモの身体能力向上術式が発動し準備はできた。そしてすぐにメルモは攻勢魔術の構築にとりかかる。
 このまま様子を見るのかと思いきや、弓矢を手にしたフーリンとロンにコメットは矢をつがえ先手必勝とばかりに躊躇なくそして間断なく放つ。
 鋭く風切り音を上げて放たれた複数本の矢はそれぞれ別の蛇の目の中心を見事射抜くと、蛇の目は空に舞い上がる。その舞い上がった物は、カラフルな傘であった。いくつもの蛇の目はこのカラフルな傘が回転することで見えていたのだ。

「傘だと?」 
「傘ね、天日干しかしら?」
「こんな街道の往来でするなんて迷惑な奴だなぁ」
「雨でも降らしてやろうかしら、それ!」

 アルゴスの呟きにコメットがボケてフーリンも重ねてボケたあとコメットが空を仰ぎ発動された神術によって瞬く間に黒雲が集まり、突如とした超局所的な集中豪雨がパラソルに降りそそぐ。

「ちょっと何してんの君たち! 吾輩の傘はパラソルなの! 日傘だよ日傘。雨仕様じゃないの! アンブレラじゃないの!」

 こんなところで往来の真ん中で傘干しなんて邪魔だよおっさん、と挑発するのはロン。

「いや、あのね、明らかに怪しいでしょ、ブフッ! 矢はわかるよ矢は。そこからさ、不思議なこの傘が君たち取り囲んで、ブフォッ!、そこから吾輩が不敵な笑いで出現して、十二将軍パラソルマスターゾルゲ推参!───って出ようとしたのに、いきなりゲリラ豪雨は止めて! バブフッ! いや、この横殴りの雨止めて! わかったからもう雨止め! 口に入るゴフッ!」

「だれ? フーリン知ってる? パラソルマスターって?」
「いや、聞いたことないな、不死のヴェラとか、淫魔のリリーとか、龍姫のドラコとかは有名だけどな」
「ねぇ、なんで女将軍ばっかり例にあげるの……」
「え、いや、まてコメット。ほら、有名じゃん! なぁロン、なぁアルゴス」
「……」
「……」
「ちょ、お前らこの前宿で話したじゃん! 敵ながらエグい衣装だよなぁ! って。 捕虜になりたいなぁ! ってさ!」

 巻き込むなこのバカ、と中指を立てるロン
 一人で死ねアホ、と親指を下にするアルゴス

「き、貴様らぁ! この裏切り者がぁ!」
「ねぇフーリン? こっち向いて、貴方達宿でいつもそんな会話してるの? ねぇフーリン? ねぇ? 私達将来誓い合ってるよね? 戦争終わったらって、ねぇ!」

「あのさ、吾輩の話し聞いてる? ブフッ! 雨止めろって! 吾輩無視して痴話喧嘩すな!」

「ちょっと、攻勢魔術完成したのよ! そこどきなさい『炎牢』!」

 出会い頭緊張感のないやりとりしている最中、後方でメルモが地面へ向けた人差し指と中指の二本を上空へクンッ、と持ち上げると術式が発動された。殲滅対象の足元へ一陣の風が走った瞬間地面に格子状に幾筋も入る火走りは瞬時に高い壁となり、雨雲を突き抜け空を焦がした。
 露出した肌が焼きつくほどの熱波が五人に放たれる中、炎の監獄の中からはその身を焼かれ悶える絶叫が轟いた。


「ホンゲェーーーー!!」


「ねぇ、なんで女の子の将軍ばかり見てるの?」
「見てない見てない!」
「このヤンデレ巫女さっさといくわよ! バカ雄共も早く馬に!」

俺達なぁ、とロン。
何も悪くねぇよなぁ、とアルゴス。
顔が引き攣ったフーリンは慌てて馬に跨るといまだ燃え盛る炎牢を避け、道を先へ進むのだった。
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