切り取られた世界の中で、広がる世界 ~初心者カメラ女子高生のエンジョイフォト~

弐式

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【1章】晶乃と彩智

3.晶乃は彩智を知っているけれど、彩智は晶乃を知らない

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 初めての高校への登校の日。晶乃は少しだけ早く家を出た。実を言うと、先月まで晶乃が通っていた雀ヶ丘中央中学校と、今日から通う雀ヶ丘高校の通学路は重複する部分が多く、おそらくこれからも中学の後輩と顔を合わせることはよくあるのだろう。しかし、今日から高校生という不安と、これからの期待からくる高揚感故か、これまで毎日のように歩いた同じ道も、見慣れた景色も、全く違って見える不思議。

 鼻歌を歌いつつ、校門をくぐり、校舎の方に向かうと、新1年生のクラス分けが掲示されていた。

 すでに多くの新1年生が集まっており、自分の名前を探している。その横に、教員か事務員かは分からないけれど若い男性がスピーカを持って、

「新入生は自分の名前を見つけたら校舎左の西側入り口から入って、自分の教室に向かいなさい」

 と何度も繰り返している。

 1クラス40人強で、全7クラスの300人弱の生徒の名前の中から自分の名前を見つけるのは一苦労だろうと思ったが、すぐに2組の中に『水谷晶乃』の名前を見つけた。

 ……他に、知った名前はないかなぁ。

 と中学校時代の知り合いの名前がないかと探していた時、晶乃の目が一つの名前の前で止まった。晶乃と同じ2組の初めの方。

「桑島彩智……さん?」

「はい?」

 思わず出た呟きに、コントかと思われる絶妙のタイミングで返事が来た。その声は、晶乃の前に立つ新1年生を2人ほど挟んですぐ前から帰ってきたものだった。晶乃から見て前の生徒の資格にすっぽりと納まる小柄な女の子が振り向いた時、後ろで束ねたポニーテールがひょこっと揺れた。

「……小さくて気が付かなかった」

 まさか、すぐ近くにいたなんて。驚いたせいで、思ったことをそのまま言ってしまった。

「あなたが大きいだけだと思いますが」

 うっかりと口にした言葉はばっちり聞こえていたらしく、前の少女――彩智のむっとしたような声が帰ってきた。

 ちなみに晶乃は170㎝強で高校女子としては少々背が高く、晶乃の肩よりも低い彩智は推定140㎝前後と見えたので高校女子としてはやや低い。

「ごめんなさい。あなたの名前を知っていたのでつい名前を呼んでしまったの。同じクラスみたいだね。よろしく」

 言い訳しつつ謝った晶乃だったが、

「私まだ、自分の名前を見つけてないんだよ」

 と返された。彩智の前には同じように自分の名前を探す生徒が壁になっているので、名前が探しづらいみたいだった。

「……私の名前、何処にあった?」

 彩智は人の壁をかき分けて晶乃の横に立った。彩智に問われた晶乃は「2組の最初の方……見える」と答えて、指をさした。

「え……と。あ、あった」

「それはよかった」

 それから、自然と並んで教室に向かうことになった。

「そう……私が写真を撮っているところを見たことがあったんだ」

「うん。綺麗なお姉さんと一緒にいたね」

「お世話になっているカメラ屋さんの人でね。思い出作りにコンクールに応募しようと思ったけれどいい人がいなかったから、モデルをお願いしたんだ」

「そっか。写真好きなんだ?」

「好きだけれど、デジタルカメラを持つようになってまだ半年くらいかな。そんなに詳しいわけじゃないよ。えっと、水谷さんは何かしていたの?」

「晶乃でいいよ……。私は、中学の3年間はバスケ部だったよ」

「じゃ、高校でも続けるつもり?」

「う~ん。中学の時はバスケ三昧だったから、今度は文化部系にしようかなと思ってる。……あなたは?」

「私は、中学の時も帰宅部だったし、高校でも部活はやらないことにしようと思ってるんだ」

「この学校では、委員会か部活動に必ず参加しなければいけないんだよ」

 晶乃は先輩から聞いた話を披露する。

「え……そうなの?」

「ね、5月末までに決めないといけないみたいだから、何処の部に入るか決まっていないようだったら、今度一緒に回ってみない?」

「うん……考えとく」

 1年2組の教室は1年生用の下駄箱から廊下を通って1階のフロアに入って2つ目の教室だった。晶乃は教室に入る前に足を止めた。「そういえば、自己紹介まだだったよね。私は水谷晶乃。中央中学校だったの」と笑って言った。

「私は第一中学校出身の桑島彩智」

 答えた彩智の身長相応に幼い――本当に小学生と見間違いそうな容姿の口角が小さく上がり、はにかんだような笑顔をみせた。入学式前のよくある一コマ。それが、2人の出会い。
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