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2章
知りたいことが知りたくはなかったことと同じだったとき【3】
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「母子家庭の上に、大分無理を言ってジムに通わせてもらっているので、それ以外のことではあまり親に負担をかけさせたくなくて……。携帯電話もスマホも持っていないし、お小遣いも少ないですからネットカフェとかも使えないですし」
そういえば、練習中の水分補給にしても、家から水筒を持ってきていたな、とサトルは思い返す。
「友達とかの電話番号は一応手帳にメモっているんですけれど、まだ、掛けたことがないですね」
笑って言っているけれど、サトルは笑う場面でもないような気がして唇を横一文字に結ぶ。相当神妙な顔をしているだろうと思った。
「……それにしてもネットで調べものって、学校の授業で分からないところでも出たか?」
ネットには繋いでいても活用しているとは言い難く、適当にネットサーフィンをするくらいしか使っていないサトルには、ネットでの調べものと聞いてそのくらいしか思いつかなかった。
とりあえず「分からないところがあったら教えてやろうか?」と付け加えてみる。現役の大学生とはいえ、いまさら高校1年の勉強の内容が理解できるか甚だ疑問ではあったが。
「勉強がらみではないんです」
つかさは「お気遣いいただいたのにゴメンナサイ」と申し訳なさそうに付け加えた。ついでに、「本当に勉強で教えてほしいところが出来たら、その時はよろしくお願いしますね」と、さらに言葉をつづけた。
「まぁ……いいけれど」
任せろ、と胸を張って言えないのが辛いな、などと思っている間にサトルの部屋のあるアパートに到着した。結局、彼女の目的については言葉を濁したままだった。
「……思ったより片付いてる」
サトルの8畳の洋間に中に入ったつかさの最初の台詞がそれで、サトルは小さく苦笑する。男の部屋は片付けが出来ていない、という先入観を持っているのだろうか。
パソコン机の上のディスプレイに電源を入れてから、机の下の足元のデスクトップパソコンを立ち上げる。問題なくOSが立ち上がったのを確かめてから、サトルはつかさに椅子に座るように促した。
「すみません」と謝辞を口にしたつかさが腰掛けたところで、サトルは一旦部屋を出て、キッチンの冷蔵庫の扉を開けてオレンジジュースのペットボトルを取り出した。戸棚から箱に入ったままにしていた貰い物のガラスコップとコルク製のコースターを取り出す。
軽くゆすいで布巾で水気を取ってからペットボトルの栓を開けてジュースを注いだ。同じく貰い物のクッキーの直径も高さも10cmほどの円筒型の缶があったので、封をしているテープを爪でガリガリと削って剥がしてから蓋を開いた。
それらを盆に載せて部屋に戻ってみると、すでにブラウザを立ち上げて調べものとやらををしていると思っていたつかさは立ち上がって本棚を覗き込んでいた。
「……どうした?」
「……すいません。男の人の部屋に入ったことがないのでついつい」
ディスプレイを見るとデフォルトの水色の画面が映し出されていた。デスクトップ上に置いたいくつかのアイコンが並んで、いつでも使える状態になっている。中学校でもパソコンの扱い方は教わるだろうしが、ブラウザのアイコンが分からないというわけではないんだろうが……と思いながらマウスに触れて、ブラウザのアイコンにカーソルを合わせる。
「漫画も小説もほとんど置いていないからつまらないだろう」
「いえ……難しそうな本が並んでいて、さすがは大学生の本棚ですね。それに、ボクシングの基礎教本や、筋力トレーニング、テーピング、マッサージの本……ジムでスタッフをしようと思ったら、こんなにたくさんのことを覚えないといけないんですね」
感嘆したような口調で言われると、こそばゆくなる。ディスプレイの横に、コルクコースターを置いてその上にジュースの入ったコップを置いた。
「本棚といえば、大抵の場合、見られたくない物があるものだけれどな……まぁ、どうぞ」
照れ隠しの代わりに茶化すような言葉を口にしたが、
「見られたくない……って……」
つかさは一瞬、キョトンとした表情をした後で、今度は何を考えたのか一瞬で顔が真っ赤に変わると「ごめんなさい」と言って弾かれたように本棚を離れて、サトルを押しのけるようにして椅子に座る。
あたふたとしながらマウスを握り締めて人差し指を上げたところで、つかさは再び凍りついた。
「……ひょっとして、パソコンの中にも……?」
「心配しなくても、見られたらヤバイようなものはデスクトップから一足飛びに開けるようなところには置いてないよ」
「見られたらヤバイって……」
その後が続かず口をパクパクさせるつかさ。
「ホントに、この手の話題に免疫がないんだな」
こんなことをしていても、いつまでたっても話が進まないと思いながら、サトルはつかさが手を離したマウスを操作してブラウザのアイコンをダブルクリックした。いつも使う検索サイトのウインドウが出てきたので、全画面表示にして、マウスから手を離した。
「後は、好きなように」
「あ……ありがとうございます」
サトルが手を離したマウスを、受け取ったつかさは、「あの……」と声をかけてきた。
そういえば、練習中の水分補給にしても、家から水筒を持ってきていたな、とサトルは思い返す。
「友達とかの電話番号は一応手帳にメモっているんですけれど、まだ、掛けたことがないですね」
笑って言っているけれど、サトルは笑う場面でもないような気がして唇を横一文字に結ぶ。相当神妙な顔をしているだろうと思った。
「……それにしてもネットで調べものって、学校の授業で分からないところでも出たか?」
ネットには繋いでいても活用しているとは言い難く、適当にネットサーフィンをするくらいしか使っていないサトルには、ネットでの調べものと聞いてそのくらいしか思いつかなかった。
とりあえず「分からないところがあったら教えてやろうか?」と付け加えてみる。現役の大学生とはいえ、いまさら高校1年の勉強の内容が理解できるか甚だ疑問ではあったが。
「勉強がらみではないんです」
つかさは「お気遣いいただいたのにゴメンナサイ」と申し訳なさそうに付け加えた。ついでに、「本当に勉強で教えてほしいところが出来たら、その時はよろしくお願いしますね」と、さらに言葉をつづけた。
「まぁ……いいけれど」
任せろ、と胸を張って言えないのが辛いな、などと思っている間にサトルの部屋のあるアパートに到着した。結局、彼女の目的については言葉を濁したままだった。
「……思ったより片付いてる」
サトルの8畳の洋間に中に入ったつかさの最初の台詞がそれで、サトルは小さく苦笑する。男の部屋は片付けが出来ていない、という先入観を持っているのだろうか。
パソコン机の上のディスプレイに電源を入れてから、机の下の足元のデスクトップパソコンを立ち上げる。問題なくOSが立ち上がったのを確かめてから、サトルはつかさに椅子に座るように促した。
「すみません」と謝辞を口にしたつかさが腰掛けたところで、サトルは一旦部屋を出て、キッチンの冷蔵庫の扉を開けてオレンジジュースのペットボトルを取り出した。戸棚から箱に入ったままにしていた貰い物のガラスコップとコルク製のコースターを取り出す。
軽くゆすいで布巾で水気を取ってからペットボトルの栓を開けてジュースを注いだ。同じく貰い物のクッキーの直径も高さも10cmほどの円筒型の缶があったので、封をしているテープを爪でガリガリと削って剥がしてから蓋を開いた。
それらを盆に載せて部屋に戻ってみると、すでにブラウザを立ち上げて調べものとやらををしていると思っていたつかさは立ち上がって本棚を覗き込んでいた。
「……どうした?」
「……すいません。男の人の部屋に入ったことがないのでついつい」
ディスプレイを見るとデフォルトの水色の画面が映し出されていた。デスクトップ上に置いたいくつかのアイコンが並んで、いつでも使える状態になっている。中学校でもパソコンの扱い方は教わるだろうしが、ブラウザのアイコンが分からないというわけではないんだろうが……と思いながらマウスに触れて、ブラウザのアイコンにカーソルを合わせる。
「漫画も小説もほとんど置いていないからつまらないだろう」
「いえ……難しそうな本が並んでいて、さすがは大学生の本棚ですね。それに、ボクシングの基礎教本や、筋力トレーニング、テーピング、マッサージの本……ジムでスタッフをしようと思ったら、こんなにたくさんのことを覚えないといけないんですね」
感嘆したような口調で言われると、こそばゆくなる。ディスプレイの横に、コルクコースターを置いてその上にジュースの入ったコップを置いた。
「本棚といえば、大抵の場合、見られたくない物があるものだけれどな……まぁ、どうぞ」
照れ隠しの代わりに茶化すような言葉を口にしたが、
「見られたくない……って……」
つかさは一瞬、キョトンとした表情をした後で、今度は何を考えたのか一瞬で顔が真っ赤に変わると「ごめんなさい」と言って弾かれたように本棚を離れて、サトルを押しのけるようにして椅子に座る。
あたふたとしながらマウスを握り締めて人差し指を上げたところで、つかさは再び凍りついた。
「……ひょっとして、パソコンの中にも……?」
「心配しなくても、見られたらヤバイようなものはデスクトップから一足飛びに開けるようなところには置いてないよ」
「見られたらヤバイって……」
その後が続かず口をパクパクさせるつかさ。
「ホントに、この手の話題に免疫がないんだな」
こんなことをしていても、いつまでたっても話が進まないと思いながら、サトルはつかさが手を離したマウスを操作してブラウザのアイコンをダブルクリックした。いつも使う検索サイトのウインドウが出てきたので、全画面表示にして、マウスから手を離した。
「後は、好きなように」
「あ……ありがとうございます」
サトルが手を離したマウスを、受け取ったつかさは、「あの……」と声をかけてきた。
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