オレンジ×UMA≪ユーマ≫と交信者≪コンタクティ≫

里夢

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プロローグ

File.1 ハーメルン

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 「すべての宗教、芸術、科学は、

同じ一つの木の枝である。」


そう言ったのはドイツ出身のユダヤ人、理論物理学者のアルベルト・アインシュタインだ。

ーそして、その彼の言葉を具象化したかのごとく、この街は生まれた。ー

 この街、この俺の住む街の名前は、「芸術科学都市」という。正確には「京都芸術科学都市」。
この街の事を詳しく説明したいところだが、正直、この街がなんなのか俺にもよくわかっていない。何の為に創られたのかすら知らない。
ただ分かっていることといえば、スペインのバレンシアにある芸術科学都市と名目は同じだが、全く異なるものだということ。
何故なら、こちらの芸術科学都市には至るところに不思議な形の建造物が存在しているが、その内部構造はイマイチ合理性に欠いている。勿論、「五大近代建築物≪NEWスカイファイブ≫」という、科学の理にかなった建築物も存在しているが、その他のほとんどの建物が、別に優れた建築家達が建てたわけでなく、芸術家達の独断と偏見によって創り上げられたものばかりなのだ。
つまり、科学ではなく、芸術にその重きを置いている街なのである。
そして何より、こんな大層な名前をしてはいるものの、何処の街にも変わったデザイン、工夫等はされているものだし、何年も住んでいる俺にとっては、なんの刺激もないただの街だ。
 自己紹介が遅れたが俺の名は白鍵勇馬、芸術科学都市に住むごく普通の高校2年生だ。

所で今日はクリスマスイヴ。
世間が今年はホワイトクリスマスだとか騒いで、街ではリア充が大量発生し、イルミネーションが燦然と辺りを照らだして賑わっている今日この頃である。俺事白鍵勇馬は何故か悲しきかな、鍵宮城という、町外れにある楼閣建築の古びた城の中にいた。とはいっても本物の城は何百年も前に取り壊されていて、これは当時の様子を再現した博物館と言う訳だ。
何故こんな場所に居るのか、それはこっちが聞きたい。

「もう帰っていいか?」

そうだ。もうこの場所に留まる理由なんてない。宇宙人がここに居るという妄言に付き合っただけありがたいと思え。だが俺の横を歩くこの黒髪ショートのメガネ野郎、男の娘、猫屋敷 蜜柑(ねこやしき みかん)は諦めが悪い。

「居るんだってほんとに。信じなきゃ何も始まらないよ?」

それに至ってこの傲慢さである。欲望に対して物凄く真っ直ぐなやつだ。おかげでいつも俺はこいつに振り回される。そうしてミカンは先々と俺の前を先導するのだった。

「だいたいどっから仕入れたんだよその情報。それと急ぐと怪我するぞ。」

階段を歩いているとキシキシと音がなる。それはこの博物館が長い間手入れされていない、古びた城である事を顕示していた。
そして今は夜だ。10時を回っている。ライトが写し出す場所しか見えないので、この狭い通路で何処かに体をぶつけて怪我をする可能性だってある。
もう帰ろう。そう言おうとミカンの肩に手をやるとミカンは急に悲鳴を上げた。

ぎゃあ!

高らかに響いたその声は、俺に悪寒を浴びせたのだった。

「悪かったよ、急に手を肩に置いたりして。」

(この妙な静けさの中、急に肩に手を置かれたりしたら嫌でもびびっちまうもんだよな。)
俺はそう納得し、謝罪したのだが、猫屋敷 蜜柑の震えは止まらなかった。

「違う…違うんだよ勇馬。いるよそこに、、いる、んだ。」

ゴクリとミカンが息を飲むのが見えた。だが、今見えるものはそのミカンだけだ。この狭い通路で、ミカンの先にある何かは俺には見えなかった。
この時、俺は青いコートを着ているにもかかわらず、妙な寒気を感じていた。

「おいミカン!何を見てるんだ。まさか…宇宙人か!」

だが今のミカンの表情と震えは、歓喜のものではない。怯えだ。となると宇宙人ではない。だがそうであってほしい。

「違うよ。ゆうー…」

そう言いかけるとミカンはショックで気絶してしまった。だが言い掛けにもかかわらず、俺は確信した。
幽霊だ。幽霊がいるんだ。確かにここはお前らにはおあつらえ向きの場所だ。古びた廃城という、これ以上ない絶好のセッティング。
俺は目の前で倒れているこいつとは逆に前進しそれに近ずくのだった。別に幽霊など怖くない。俺はそういうことに対しては懐疑派だ。だがそれの正体が気になった。

一歩また一歩と階段を登る、両腕にはミカンを抱えていた。そしてやっとそいつの姿を拝む事ができた。到着した場所は芸術科学都市を一望できる、広いダイビングで城の展望台の様な場所だった。街中のイルミネーションが都市を色飾り、夜景が綺麗だ。
そこに居たのは幽霊なのか、はたまたコスプレ少女、とにかく、そいつは俺には中学生くらいの女の子に見えた。背丈は百四十センチ位だ。
平安時代の着物の様なものを着て、髪はロング、黒髪だ。その子は玉つき遊びをしていた。楽しげなどとは程遠い、悲しい表情で。
足はしっかりと生えていた。ぼやけがなく、雰囲気も大人しげな子で、どうやら幽霊では無さそうだ。

「とうとう此処に来てしまったのじゃな。」

突然喋ったその子に対し、俺は眼孔を開き、筋肉が反射的に体を硬直させた。何故ならその声が聞き覚えのある声だったからだ。しかも身近にいる人間の声だ。
その子はやがてこちらを向いた。その顔を見て確信に変わる。その子は、

「梓ちゃん?!」

天戸梓(あまと あずさ)。隣の家の女子中学生だった。

「わしはそんな名ではない。わしは輝夜(かぐやじゃ。輝夜姫って聞いたことあるじゃろ?あれじゃ。」

「は?何言ってんだお前。事情は後で聞く、とりあえず帰るぞ。」

呆れてこれ以上詮索するつもりもないが。

「おい、待つのじゃ白鍵勇馬。おぬしに悪相がでておる。見てやろう。」

「おいいつまでやってるつもりだ。」

その喋り方といい、普段から俺の事を舐め腐っている事が相乗して俺を苛立たせた。

「見えたぞ。これはそう「七難」の相。仁王般若経の方じゃな。」

「おいいい加減に…!!」

もうオカルトじみた事はうんざりだと、そう言おうとした瞬間、目の前に信じられない光景をみた。
なんと先ほどまでこの子が玉突きしていた色鮮やかな紙玉が、宙に浮かんでいたのだ。

「どんなトリック、、。」

「疑うのもいい加減にせい!」

やや眉間にしわを寄せて少女はつづけた。

「わしは諸君ら人間等には宇宙人と言われておる存在。勘違いするな。わしはおぬしに警告しておるのじゃ、同期のよしみがあるからの。だから心して聞け、おぬしには近々七つの難が訪れる。それが「七難」じゃ。歪な相が見える、必ずしも仏典に書いてある通りの難とは限らぬが、このままではお前、7回死ぬぞ?」

「…ははっ、本当、冗談きついぜ梓ちゃん。」

俺は錯乱した、7回死ぬなどと勿論、信じる気はないが、目の前で起こっている現実。これは一種のサイコキネシスか何かか?それによく見ればやたら凝ったコスプレだ。髪飾りはとても高級なものに見えた。
俺がこういう事に対して懐疑派だったから余計に状況を飲み込む判断が鈍る。
何処までが、「本当」なんだ?
そんな俺の自問自答をよそにして梓ちゃんと思わしき人物は口を開いた。

「運命を乗り越えるのじゃ。少年。大切なのは信じて飛び込む事じゃ。

わしは、おぬしの夢の中に消えるとしよう。」

そう言い残して、その少女は階段を降りて行った。
俺はしばらくその場に立ち尽くした。

だが、急に眠気が襲い俺はその場に倒れこんだのだった


ーーそしてそのまま、白鍵勇馬はゆっくりとまぶたを閉じたーー

目を開けてみると自分の部屋の天井が見えた。
電子時計の日時を確認してみると十二月二十五日、朝七時だ。
着ている服はパジャマだ。
どうやらさっきまでの出来事は夢だったようだ。
そりゃあそうか、妙にリアルな夢だったが、ちょっと現実離れした感じがあったからな。

「起きて…、白鍵さん!」

誰かが俺の布団を揺らがす。

「なんだよ、今眠いんだよ。」

俺はいかにも、眠気がとれず不機嫌そうな顔で答えた。

「早く起きないと、この冷たぁいアイスキャンディちゃん達をほっぺの上に垂れちゃいますよ?」

この早朝から俺の布団を揺すって起こそうとする厄介者は残念ながら萌え妹ではない。いや、その容姿はまさしく理想の萌え妹なのだろうが、萌え妹は冷凍ボックスから取り立てのアイスキャンディを頬にのせようとなどしてこない。
 この子の名は天戸梓、先に述べた通り、隣の家に住む中学2年生の女の子。つまり、俺とは3つ違いになる。
どうやって二階の俺の部屋に来たのかと言うと、正規のルートではなく、梓ちゃんの部屋のベランダとほとんど繋がっていると言っても過言ではない俺の部屋のベランダから、勝手に入って来たのだ。

「それは…また売れ残りのアイスキャンディか?」

 俺は半分目を見開き、梓ちゃんの左手に垂れ下げられたアイスキャンディ見て、呆れたを顔で問い掛けた。
 信じられない事に、梓ちゃんは中学2年生なのに、アイスキャンディ売りという自営業をしている。このフレーズを聞くと、小学生の頃国語で習った、あの小説を思い出す…というのは置いておこう。
とにかくもっと信じられないのは今が冬だという事だ。

「そうなんですよ。昨日も何故か売れ残ってしまったんです。」

梓ちゃんはさも不思議そうな顔で答えた。

「なんで、冬にアイスキャンディ売りやってんの?おでん屋か、たい焼き屋をやれば?」

と、俺はすかさずツッコミをいれるが、

「んーと、冬にアイスキャンディを売るのはおかしいですか?」

と、返された。
とぼけている訳ではない。これが梓ちゃんの、天戸梓の素なのだ。

(全く、季節感の欠片もないな。この子は。)

と、もうそろそろ面倒になってきたので、ツッコミは心の中にとどめておいた。

「じゃあ寝るわ。」

面倒と言うのは、梓ちゃんの相手をするという意味だけではない。単に自分が眠かっただけだ。そうして俺は二度目の眠りにつこうとした。が、その瞬間、

「二度寝するんですか?本当にいいですか?」

厄介者が喚く様に騒ぎ出す。

「なんだよその意味ありげな言い様は。」

そもそもこの子が俺を起こそうとするのは決して、俺を学校に遅刻させない為に、つまり俺の為にやっている訳ではない。
俺を早く起こす事によって、アンナさんとの好感度あげようとしているのだ。
だから俺は毎日起こそうとしてくれている梓ちゃんに感謝などしていない。

「二度寝は体に悪いですよ?」

梓ちゃんは念をおして言う。

「ストレス解消にいいって聞いたぞ?」

昨日たまたま友達から聞いた知識を、俺はそれみよがしに豪語した。

「…私が聞いた話では、二度寝すると感覚神経の周辺が軽い炎症を起こした状態になって、寝すぎると頭痛がするらしいです。さらに二度寝は体内時計も狂いますし、睡眠のサイクルはレム睡眠とノンレム睡眠の組み合わせで、約90分周期なんですか、これが崩れると1日ぼーっとして過ごす事になります。さらにホルモンバランスを崩し最終的には副腎皮質を破壊してしまうかもしれません。ちなみに、体にいいってのいうのはデマで…」

梓ちゃんは唐突に溢れんばかりの知識を俺の耳元でささやいた。

「あーもう分かった!起きる!だからやめてくれ!こえーよ!二度寝ってそんな恐ろしい事だったのかよ!」

正直本当に怖かったので俺は半ば強制的に跳ね起きた。
それより気になった事は、何故季節感の欠片もない梓ちゃんが、そこまでの知識があるのかという事だ。

「その知識は何なんだ?」

「私は気になった事はすぐにインターネットで調べる派ですから。」

「成る程。」

淡々と答えた梓ちゃんに対し、俺は素直に納得した。
無理もない。最近では検索エンジンで得た知識だけで、ライトノベルや漫画を描く輩も居るらしい。

「勇馬、余計な会話などせずに、さっさと用意をしないと学校に間に合わないぞ。」

いつの間にかアンナさんが部屋の扉の前に腰掛けていた。
アンナさんは俺の家庭教師でもあり、家事も手伝ってくれている家政婦でもある。本名は邪羅アンナ、なんと元ロシア軍人という、異名な経歴を持っている。

「すっすみません。」

俺はアンナさんに素直に謝った。今までも、これからも凄くお世話になる人なので、俺はこの人に対しては礼節と感謝の意を込めてしゃべる事にしてる。決して自ら肩身を狭くしているわけではない。俺がこの人に対して、本当に感謝している事への現れである。

「ごめんなさい私の力足らずで…。」

梓ちゃんはいかにも申し訳なさそうな顔でいった。このセリフを俺風に翻訳すると、「ごめんなさい私の力足らずで…勇馬が余りにもだだをこねるので起こせなかったの…。でも私は全力を尽くしたわ!他でもない、アンナさんのために…!」と、言ってらっしゃるのだ。この女狐は。
この言葉のあざとさと、俺を舐め腐った態度に少々苛立ちを覚えたので、

「ああ、本当に力足らずだったよ。」

と、ボソッと理不尽な事を呟いてみる。
すると梓ちゃんはムッとこちらを睨みつけてきた。

「良いんだよ。梓ちゃんは良くやってくれた。勇馬、他力本願のくせして、文句か…?お前は何処ぞの王様か。」

アンナさんは梓ちゃんの頭を撫でた後、俺へ説教を垂れてきた。説教の仕方が日本人くさくなってきている事に今ふと気がついた。

「…ふっふふふ。」 

梓ちゃんが頬を赤らめながらめちゃくちゃニヤけている。

(狙ってたなこのやろー!!俺を餌にしやがって!)

まあ、ぶっちゃけて言うと、完全に俺が悪いのだが。

その後、俺達は下の階へ降り、朝食を食べ始めた。

「アンナさんの料理は本当に美味いよな。」

(朝からこれはちょっと胃もたれするけど。)

「ありがとう。ちょっとはりきりすぎたかもしれないがな。」

((アンナさんもはりきるとかあるんだ。))

俺と梓ちゃんは顔を合わせてそう思った。

レシピ
『鮭の切り身かアジの干物などの焼き魚
かまぼこを二切れ
卵豆腐の上にしらすを乗せたもの
小分け袋入りの味海苔
菜っ葉のお浸し
味噌汁
ご飯
卵焼き
ハンバーグ』

「ピキーン!梓はこれが食べたくて、毎朝この家にお世話になっていると言っても過言ではない!」

「いや、梓ちゃんの場合、ホントにそうだろ。」

こいつは偶に、話し触りに音喩(漫画的効果音)をつける。ピキーン!と言うのもこれに当てはまる。これは小さい時からの癖であり、偶にというのは、治りかけている癖と言う事だ。つまり本人も治したがっているという事である。

まあ、それ以外の理由。アンナさんと仲良くなりたいと言う理由がちゃんとあるわけだが。

「ははっ、梓ちゃんもありがとね。」

アンナさんはにこっと笑みを浮かべて言った。

「はわわっ、イケメン過ぎだろっ!コンチクショー!なのです。」

アンナさんの笑顔が、絵に描いたような美人なのだが、どうやら梓ちゃんにはそれがイケメンに映ったようだ。

「梓ちゃんー、声に出てるぞー。」

ちなみに、天戸梓はアンナさんに直接、好きですとかイケメン等と言わず、俺にその素晴らしさを語る。
そんなに好きならいっそのこと、告白してしまえばいいのに。その場合、いわゆるレズという奴に当てはまるのだが…。

「…!シュバァ。はっ恥ずかしい。」

(やかましい。いちいち大変だなこいつも。)

少々間を置いてから俺の言葉の意味を理解して梓ちゃんは、まるで沸騰したヤカンように、頭から湯気を出し顔全体を赤らめた。
しかし話触りに音喩をつける喋り方も楽では無さそうだ。

「…?」

アンナさんは状況をよく理解していない様だった。

(人の好意に対して鈍感そうだからなこの人は。)

「……!ところでこのハンバーグいつもより美味しいですね!」

今が好機だと捉えた俺は、わざと話を別方向にそらした。梓ちゃんの為でもあるのだが、それ以上に俺にこの空気が、やけに居心地が悪く感じられた為でもある。
ちなみにいつもより美味しいというのは本当だ。なんだかやけに弾力のあるというか、食べ応えのあるハンバーグだ。
が、これに対し、アンナさんからさらに状況を悪くする、とんでもないものが返ってきた。


「あぁ、ミミズバーガーの事か。」

「ブブーッッ!」

(流石に吹いた。ミミズはマジ無理。)

「ガビーン!」

この瞬間、梓ちゃんがショックで気絶していた事に、俺とアンナさんはずっと気付かずにいるのだった。梓ちゃんはミミズが苦手な様だ。いや、寧ろ好きな子なんていないか。

「なんだ勇馬、勿体ないだろ。ミミズはタンパク質が豊富なんだぞ。」

「なんで急にこんな物を…!」

アンナさんの言っている事は正論ではある、だが生理的な問題なんだ。理解して欲しいがこればかりは、文化の違いか、あるいはもっと根本的な問題なので、今ここでアンナを納得させる答えを出すのは無理そうだ

「それは、勇馬はもうそろそろ、サバイバル生活の味というものに慣れていった方が良いと思ってな。」

「そんなもの必要ないと思いますが…。」

「何を言っている。私は勇馬の家庭教師でもあるんだ。勇馬を、いついかなる状況にも対応できるような、オールマイティな人間に育て上げたい。」

(あれぇ?家庭教師ってそういうものだったっけ?)

もともとこの人は俺に武術を教えてくれていたが、あれにはそんな意が込められていたのか。

「だからしっかり食べるんだ。」

アンナさんには稀にこういう凄く恐ろしい事を強要される事がある。こえぇ。
これは元ロシア軍人を家庭教師に持った者の宿命なのだろうか。

「私が17の時はもう。ウクライナ紛争で、サバイバル生活を送りながら生死をかけて戦っていたんだ。勇馬も、いつそいういう風な状況になるかわからない。」

「日本人でそんな状況になる事はないと思います。」

(今度から、無人島に何か1つ持って行くとしたら何?と、質問されたら、アンナさんと答えるようにしよう。物ではないが…。)

「そうとも言えないぞ。最近は北朝鮮が日本海にバンバンミサイルを撃ち込んでいるじゃないか。」

「…。はいはい。分かりました。食べますよ。」

(バンバンって…アバウトな表現だな。)

「アンナさん、前々から言ってるけど俺には行きたい大学に行くという使命があってだな、それ以外の努力はできるだけ避け…」

「いいから食べろ。」

「はい。」

遮ぎる言葉に対し、俺は渋々返事をしたが、まだ納得できていない。というか心の準備もできていない。ミミズは本当に食べたくないんだよコンチクショー…。

「それで良い。」

(チクショオォ!こういう時のアンナさんは本当にムカつくんだよなぁ。)

この感情は一般家庭で子供が親に対して思う「うっとうしさ」と同じものなのかもしれない。仕方がないから俺はできるだけ時間稼ぎする事にした。
そうして、時間稼ぎする方法を模索していた時、ニュースで最近起こっている隣町の連続行方不明事件について流され始めた。

『続いてのニュースです。京都の鍵宮町で女子中学生の行方不明事件が相次いでいる模様です。被害者は年齢14~18歳までの女性が多い模様で、すでに10人の被害届けが出されている模様です。3人目の被害届けが出された時点で警察は誘拐事件として、大規模な調査を開始した模様ですが、未だ、犯人の足取りはつかていない模様。続いてのニュースです。ついに模様変えの季節がやってきましたね!』

「釘宮って隣町だよな。まあ、これを見ると平和ボケしちゃダメだってのも一理あるよな。」

「そう思うなら早く食べろ。」

ピンポーン

突然、インターホンの音が聞こえた。おそらく、いつも一緒に学校へ登校している友人のミカンが、俺が待ち合わせ場所に来るのが余りにも遅いので、迎えに来たのだろう。
 
正直すっかりその存在を忘れていた。

だが、俺はこれが好機だと捉えた。

「ミカンが迎えに来た!アンナさんごめん。俺行かなきゃ!くっそー、ミミズバーガー食べたかったんだけどなぁ!テヘッ。行ってきまーす!」

アンナさんに、ぶりっ子しながら俺は玄関まで走り去った。

(勝ったwwwこれでミミズを食べなくて済む!ありがとうミカン!お前は女神だぜwww女じゃないけどwww)

俺は天にも昇る心地で、またはそんなレベルで浮かれていた。なんたって人生初なのだ。アンナさんを出し抜くのは。

「…、そんなに食べたいのなら冷凍しておこう。帰って来たら食べるんだぞ。」

「……へ?」

不発に終わった。


ー10分後ー

俺はミカンと一緒に、住宅街を歩きながら学校に登校していた。

「…っていうワケよ。」

「へぇ。大変だったんだね。」

「ミカンが来てくれた時はホントに助かったと思ったんだけどな。これで帰るの嫌になったぜ。」

クラスメイトの猫屋敷 蜜柑(ねこやしき みかん) は俺の昔からの友達だ。女の子の様な顔立ちをしているが、というか女の子にしか見えないが、女ではない。

「だって、勇馬、来るの遅いんだもん。」

「悪いな。」

(存在を忘れてたなんて言えねぇ。)

「んで、その頭に付けているものはなんだ?」

ミカンの頭には、紙で作られた、アンテナの様なものが付いていた。先程から嫌な予感がしていたので避けてはいたが、気になってはいたので、ため息混じりに聞いてしまった。

「いい所に気がついたね!ふふふ、なんだと思う?」

そのいかにもという表情に俺は少々苛立ちを覚えたので、その言葉を聞き流す事にした。

「どうでもいい、さっさと学校行こうぜ。」

「あー!勇馬聞いてよぉ?お願い!聞いて!」

あせったミカンは、俺の裾を持ってねだってきた。

「…はぁ。見苦しいぞ。それでも男か?」

「…。わかった。自分から言う。」

(自分から言うんだ…。)

「これはね。宇宙人と交信できる魔法のアイテムなんだよ!見てて!」

そう言うとミカンは腰を少し落とし、頭についているアンテナっぽい何かに手をかざしながら、波を描く様に歩き回り始めた。

「ビビビビッ!ほらね?」

(何が?…ねぇ何がほらねなの?)

言い忘れていたが、こいつの個性、それはオカルト好きな電波であるという事だ。
おそらく、俺の知り合いの中で一緒に歩いていて最も恥ずかしいのはこいつだ。だが、残念な事に、ミカン意外に俺は男友達が居ないのだ。

「今なんとなく宇宙人の声が聞こえたり聞こえなかったりしたような…?」

(ものすごく曖昧な意見だな。)

「いや。もしかしたら未確認生物の声かも!」

「ははっ。アホ。それはつまり、何も聞こえなかったんだよ。
思い込み作用だ。」

「失礼だなぁ。そんなんじゃないよ。馬鹿なだけだよ~。」

「そこ認めちゃうの?!」

「それにこれは昨日道端であったボロい服着た変な人に貰ったものだよ?」

「お前…いよいよやべえな。」

(自分で変な人っていってるじゃねえか。)

そんな、しょうもない冗談話をしながら俺達は学校にやって来た。

ー京都悠馬ヶ丘高等学校ー

俺の通っている高校だ。

どんな高校かというと、一応芸術科学都市の高校では一番偏差値が高い。都市を代表する近代建築物、NEWスカイファイブの1つ、京都芸術科学大学に進学するには一番の近道と言えよう。
都市の中心部あるだけあって設備も中々整っていて、学校からすぐ横にある、これまた「NEWスカイファイブ」の1つ、王立図書館、ゲートタワー・ザ・ブリッジにも直通している。とまあ、学校の説明はこの程度にしておこう。
遅刻ギリギリで教室に入った後、担任の先生の表情が普段より眉をしかめているのが伺えた。

「HRの前にみんなに話しておきたい事がある。ニュースや新聞でもう知っていると思うが、近頃都内で、女子中高生の行方不明事件が多発している。誘拐事件の可能性が高いので、深夜は絶対に出歩かないように…。」

HRの挨拶後、先生はやや真剣味にかける様子で生徒たちにそれを伝えたのだった。

「それって最近ここら一帯で有名な都市伝説の事じゃない?」

隣の席の奴らがヒソヒソと話し始めた。ちなみに俺の座席は最後列の一番窓際の席だ。

「そうそう。確か犯人は笛吹き男なんでしょう?ハーメルンの笛吹き男がこの町に来ていて、真夜中に出歩くと、笛の音が聞こえて、そのまま催眠術にかけられて、連れて行かれちゃうんだって。」

「馬鹿馬鹿しい話だよねぇーwww」

(確かに馬鹿馬鹿しい。おそらく教室にいる全員がそう思っている事だろう。こいつ1人を除いては。)

「クククク。笛吹き男…か。」

猫屋敷蜜柑は過去最高にニヤけていた。

そして、1限目の授業開始直後、俺の大嫌いな倫理の授業だったので、屋上でバックレる事にした。

屋上で寝そべって風に当たっていると、後ろでドアが開く音がした。

「おっす!」

出てきたのはミカンだった。

「おっすってなんだよ笑」

「おっす、おらミカン。」

「しつこい。」

「イテッ。」

俺はミカンの頭に軽くチョップを食らわした。

「保健室に行くと言ってここに来ちゃいました。はは。」

「優等生のお前が、珍しいな…。」

ミカンは真面目で先生達の間でも評判がいい。

「うん。…どうしても、今すぐに、
言いたい事があってさ。」

「あぁ?」

「相変わらず勇馬は棘があるなぁ。…それなんだけどさ!今日」

「ハーメルンの笛吹き男を探しに行かない?だろ?」

俺はミカンの言葉を遮る様に言った。

「なんだ、分かってたんだ。」

「今ふっと思いついたんだよ。」

「流石10年以上の付き合いだけあるね。」

「俺じゃなくても分かるわ。お前の思考回路が単純なんだよ。」

「そっか。」

「…。勇馬はさ、ハーメルンの笛吹き男の伝説は聞いた事ある?」

「そう言えば、この前世界史の先生がその事で雑談してた様な…。」

「そうそう。
ハーメルンの笛吹き男はドイツの街ハーメルンの伝承で、1284年に、町民達がネズミの大量発生で困っていたら、笛吹き男が現れて、ネズミを笛で操って川に溺れさせて溺死させたんだ。けれど、約束していたネズミ退治の報酬を町民達が払わなかったから、笛吹き男は今度は町中の子供達を笛で操って、何処かへ連れて行ってしまった。…という話。」

「へぇ、何だか不気味な話だな。それが今回の誘拐事件の犯人だって事かよ…。てか、すげー喋ったなお前。」

(馬鹿馬鹿しい。)

「それが、行方不明の子達が、おそらく誘拐されたであろう場所では、きまって笛の音が聞こえたと言う、回りに住んでいた人達の証言があるんだよ。」

「…そうなのか。」

「うん。でさ、ハーメルンの笛吹き男の話には色々な諸説があって、ハーメメルンの笛吹き男は死神だなんて説や、魔法使いと言う説もある。
でも僕はハーメルンの笛吹き男は、宇宙人だと思うんだ。」

「…?なんでそう思う。」

「だって、笛を吹くだけで、町中子供達を催眠状態にしたんだよ?ほら映画やアニメなんかでよく、宇宙人が人間に催眠をかけて記憶を消したり、操ったりしている描写があるでしょ?だからハーメメルンの笛吹き男は宇宙人なんじゃないかって、勝手にそう思っているんだ。」

「…。」

推察とは言い難い無理矢理こじつけたような事由。もしくは狂言といった痛々しい物言いに親友として不安感が募った。

「つまりこの町に、宇宙人が来ているかもしれない訳だ。」

「だから…さ、もう一度僕と…、宇宙人探そうよ…」

「宇宙人探しは、もうやめろ。」

自分でも、思っても見ないような言葉が、さえずるように吐き出たのだった。

「…え?」

「毎日毎日、そんな事するのはもうやめろ。見ていて見苦しい。」

今の感情に任せて俺は続けた。このことは今伝えるべきだと、
根拠のない確信があったからだ。

「お前、おかしいよ。最近は特に、何の為に、いつもいつも…。分からねえよお前が。」

「…。」

「だから、宇宙人捜しは、もうやめよう。」



「…。そっか。じゃあ…。僕教室戻るね。」



ガタン!

ミカンは何か言いたげな表情を浮かべ、それを抑え込むように下を向き去っていった。
案外あっさりしていたのは、きっと度が過ぎていたという事なのだろう。

しかし急に言い過ぎた。自分でも反省している。
何故だろう。俺はただ心配だっただけなのに。
ミカンには思った以上に、傷を負わせてしまった。でもこれでよかったのかもしれない。あいつはいつも宇宙人を捜しているオカルトオタクだ。何故だかこの芸術科学都市にそれがいると信じている。見ていて哀れなんだ。同情してしまうほどに。

そうだよ。これでよかった。

(あースッキリした!!)

俺は、自身の気分とは裏腹に晴れやかな空を呆然と眺めながら、コンクリートに床に寝そべった。そしてそのままもう1時間授業をバックレる事にした。

ー その後、俺とミカンは、放課後まで一言も会話をせずに過ごした。ー


「勇馬…、今日は、用事があるから、先に帰るよ…。」

「おう…。」

もちろんミカンには用事などなかった。


(なんでだ?なんであいつはあんなに落ち込んでいる?確かに今更な話だが、高校生にもなって「宇宙人」を探そうなんて馬鹿な話なんだ。)

俺はそんな思いを抱えながら、普段とは違い、電車で家に帰宅した。


ー猫屋敷は喪失感の溢れる顔で、徒歩で家に帰宅していた。ー

(はぁ、喧嘩しちゃったなぁ。)

「どうしたんですか?」

猫屋敷は公園前で突然声をかけられた。振り返るとそこには自転車をころがす天戸梓の姿があった。

「梓…ちゃん?どうしたって?」

「元気がないですよ?それに顔色も悪いですし…。あっ、もしかして、勇馬お兄ちゃんと喧嘩でもしたんですか?」

「梓ちゃんはテレパシー少女なの?」

「やはり当たっていましたか。まぁなんとなく分かったんですよ。テレパシー少女?…なんですかそれは。」

「…知らないのかぁ。それはね…って、梓ちゃんも顔色悪いけど大丈夫?!」

「これはミミズハンバ…オェッ。いや、なんでもないんです。ちょっと風邪気味で…。」

「そうなんだ。お大事にね…。ところで、その自転車の後ろについているクーラーボックスは何?」

「これですか?それは、この旗を見れば分かります。」

ミカンがベンチの方に目をやると、そこにはアイスキャンディと描かれた旗がたてかけてあった。おそらく、アイスキャンディ売りがよくやる自転車に取り付ける旗なのだろうと猫屋敷は理解した。

「アイスキャンディ売り?
梓ちゃん風邪気味なのにアイスキャンディ売ってたの?!」

「あっ、これはそのあの…アッアイスキャンディは私の魂ですからっ。」

「流石!冬にアイスキャンディを売り込むだけの事はあるね!」

「?冬に売ると何かよくないんですか?」

「う…うん。なんでもないよ。」

「で、…なんで、喧嘩なんかしたんですが?」

「それが、」

猫屋敷と、天戸はベンチに座り込む。
そして猫屋敷は、喧嘩した原因を打ち明けた。

「そうだったんですかぁ。」

(それって喧嘩っていうんですかね。)

「それは…詳しい事は言えない。けど、多分勇馬にとって、僕が今している事は、過去の傷をえぐっているのと同じ事なのかも知れない。それでも…僕は…。」

「……なるほどです!大体の事は分かりました。」

「え?梓ちゃん、今ので分かったの?」

「シャキーン!!もちろん理解しました!そして、ミカンさんが今しなければいけない事も。」

天戸梓は胸の前に両手の掌を返しながら、自信のある表情で言い切ったのだった。

「僕が…今しなければいけない事…?」

「そう。それは、ミカンさんがしたいことをする事です。なんとなくですが、それがいい気がします。」

「…。
宇宙人を探し出して、勇馬の過去を清算する事。それが、僕のしたい事だ。」

「…。じゃあ、探しましょうか。宇宙人!」

「笛吹き男を…?あっでももう遅いよ?梓ちゃんも手伝ってくれるの?」

「もちろんです!」

「ありがとう…!」

そうして、2人は公園を離れ、住宅街を抜けて、都内を歩き始めた。その間で通りすがりの人に、この事件の事を聞き込んだり、ケータイでその事について色々調べながら歩いた。そして、
猫屋敷と天戸は、ひと気がなく、使われなくなったたくさんのマンションが立ち並ぶ、町外れの道路まで来ていた。いつの間にか、午後7時を回っていた。

「目撃証言によると、この辺りで最近行方不明になった女子中高生が多いようですね。」

「ネットのオカルト掲示板でも、ここら辺が怪しいって書いてあるよ…。」 

「ミカンさん、…なんだかもう暗いですし…」



「ピロピロ~ピロピロ~!」

突然、あたりに笛の音が鳴り響いた。





「嘘…?ホントに、本当にいたんだ!」

「…やりましたね…!」

二人は歓喜の声を上げた。
しかしその瞬間、猫屋敷と、天戸の後ろから手が伸びてきて、口を捕まれる。

モゴモゴ

「ん~ん~!!!」

必死の抵抗も虚しく、二人は闇の中に引きずり込まれた。

プルプルプルプル

白鍵の家の電話のベルの音がなった。

「はい白鍵です。もしもし。」

「ミカンの母です。夜遅くにごめなさいね。勇馬君、ミカンがまだ家に帰ってきていないんだけど…。何か知らないからしら?」

「ミカンが…!?」

(もう十時だぞ!!まさか…あいつ!



  誘拐された!?) 
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