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ガチムチだらけ
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「乙姫様にもてなされたら良くて腹上死です。悪ければ内臓が破裂するでしょう」
助けたカメに助言され、俺は震えあがった。
俺はその日、大学の課題で浦島太郎伝説の残る浜まで来ていた。
Tシャツにハーフパンツでスマホを構えて適当に写真を撮っていたら、漁網に絡まったウミガメを見つけたってわけ。
その結果が腹上死……。そんなの納得できるかーっ!
「竜宮城へようこそ。俺が乙姫だ」
目の前にいるのは、乙姫を名乗るごつい男だ。三白眼気味の瞳に長いまつげの濃い顔立ち。
乙姫と言いつつ男なのは、このさい置いておこう。うしろに侍らせている彼らはなんなのかな。
バニー、ナース、チャイナ、サンバ、統一感のない衣装を身に着けた男たちは。
あ、共通点あった。全員ガチムチだー。
「……えーと、俺と一緒にいたカメさんはどうなりましたか」
「カメだと。乙姫を前にしてカメの心配をするか」
玉座に頬杖をついて、だらしなく座っていた乙姫が、まじまじと俺を見た。
「さてはあいつ、本性を見せたな。あれは黙っていれば美しいからな」
図星をつかれた俺は、ちょっと目をそらす。
そう、カメを助けたはずなんだけど、漁網をほどいた途端、美女に化けたんだよね。
古代の中国を思わせるフワッとした着物を身にまとい、耳と髪に珊瑚の髪飾り。目じりがキュッと上がった黒目勝ちな美女。
そりゃもうひと目くらいは拝んでおきたいよね。
でも彼女、俺が乙姫の前に転送される前に言ったんだ。
「逃げてください」
って。あれはどういう意味だろう。
「なるほど、そこまでカメに執心というのならばいいだろう。今宵はアレを客人の部屋へ遣わそう。好きにするがよい」
泊まる前提かー。正直困る。
「いえ、長居もなんですからそろそろお暇しようかと思います」
俺がきっぱりと固辞すると、乙姫はわずかに目を見開いた。
いや、だって浦島太郎だよ?
伝説では竜宮城に三年間滞在し、人間界にもどったとき三百年、あるいは七百年経過していたという。つまり一日過ごしただけでも単位が足りなくなっちゃう!
ここは一刻も早く帰らなくては。
内心の焦りをひた隠し、へらりと笑って立ち上がろうとしたら、左右から槍が交差した。首がガチィッと挟まれる。
「おい、よさねえか」
「しかし、乙姫様」
口答えした兵士が、次の瞬間吹っ飛んだ。乙姫が蹴り飛ばしたのだ。うわあ、壁にめり込んでる。
「ヒェ……」
俺はその場にしりもちをついた。
「みっともねえとこ見せてすまねえな」
乙姫は俺には優しげな声を出す。うう、余計怖い。
「い、いえそんな」
何とか答えると、彼は俺のそばに膝をついた。
なになに、じっと見ないで! 怖い怖い!
「客人、名はなんという」
「隼といいます」
「隼か。よし、好きなだけ滞在を許す!」
「じゅ、充分堪能しましたよ。すごいなあ、竜宮城。はい、満足です! ありがとうございます。帰ります!」
「ははっ。なかなか面白い奴だな。気に入った! なあ、欲しいものはねえか。金銀珊瑚、不老不死、この世の全ての享楽をこの乙姫が教えてやろう」
「じゃあ、帰して――」
俺の言葉を封じるように、乙姫は俺のくちびるを親指でなぞった。ぞわわっと肌が粟立った。
何やら怒っているっぽい気配を感じて、俺は口を閉ざす。
「……そうかわかった。そこまで言うのなら俺自ら、もてなしてやる」
取り巻きたちが息をのみ、兵士までもがざわついた。
なんなんだっ! 特別扱いなんていらないんだけど!?
助けたカメに助言され、俺は震えあがった。
俺はその日、大学の課題で浦島太郎伝説の残る浜まで来ていた。
Tシャツにハーフパンツでスマホを構えて適当に写真を撮っていたら、漁網に絡まったウミガメを見つけたってわけ。
その結果が腹上死……。そんなの納得できるかーっ!
「竜宮城へようこそ。俺が乙姫だ」
目の前にいるのは、乙姫を名乗るごつい男だ。三白眼気味の瞳に長いまつげの濃い顔立ち。
乙姫と言いつつ男なのは、このさい置いておこう。うしろに侍らせている彼らはなんなのかな。
バニー、ナース、チャイナ、サンバ、統一感のない衣装を身に着けた男たちは。
あ、共通点あった。全員ガチムチだー。
「……えーと、俺と一緒にいたカメさんはどうなりましたか」
「カメだと。乙姫を前にしてカメの心配をするか」
玉座に頬杖をついて、だらしなく座っていた乙姫が、まじまじと俺を見た。
「さてはあいつ、本性を見せたな。あれは黙っていれば美しいからな」
図星をつかれた俺は、ちょっと目をそらす。
そう、カメを助けたはずなんだけど、漁網をほどいた途端、美女に化けたんだよね。
古代の中国を思わせるフワッとした着物を身にまとい、耳と髪に珊瑚の髪飾り。目じりがキュッと上がった黒目勝ちな美女。
そりゃもうひと目くらいは拝んでおきたいよね。
でも彼女、俺が乙姫の前に転送される前に言ったんだ。
「逃げてください」
って。あれはどういう意味だろう。
「なるほど、そこまでカメに執心というのならばいいだろう。今宵はアレを客人の部屋へ遣わそう。好きにするがよい」
泊まる前提かー。正直困る。
「いえ、長居もなんですからそろそろお暇しようかと思います」
俺がきっぱりと固辞すると、乙姫はわずかに目を見開いた。
いや、だって浦島太郎だよ?
伝説では竜宮城に三年間滞在し、人間界にもどったとき三百年、あるいは七百年経過していたという。つまり一日過ごしただけでも単位が足りなくなっちゃう!
ここは一刻も早く帰らなくては。
内心の焦りをひた隠し、へらりと笑って立ち上がろうとしたら、左右から槍が交差した。首がガチィッと挟まれる。
「おい、よさねえか」
「しかし、乙姫様」
口答えした兵士が、次の瞬間吹っ飛んだ。乙姫が蹴り飛ばしたのだ。うわあ、壁にめり込んでる。
「ヒェ……」
俺はその場にしりもちをついた。
「みっともねえとこ見せてすまねえな」
乙姫は俺には優しげな声を出す。うう、余計怖い。
「い、いえそんな」
何とか答えると、彼は俺のそばに膝をついた。
なになに、じっと見ないで! 怖い怖い!
「客人、名はなんという」
「隼といいます」
「隼か。よし、好きなだけ滞在を許す!」
「じゅ、充分堪能しましたよ。すごいなあ、竜宮城。はい、満足です! ありがとうございます。帰ります!」
「ははっ。なかなか面白い奴だな。気に入った! なあ、欲しいものはねえか。金銀珊瑚、不老不死、この世の全ての享楽をこの乙姫が教えてやろう」
「じゃあ、帰して――」
俺の言葉を封じるように、乙姫は俺のくちびるを親指でなぞった。ぞわわっと肌が粟立った。
何やら怒っているっぽい気配を感じて、俺は口を閉ざす。
「……そうかわかった。そこまで言うのなら俺自ら、もてなしてやる」
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